給与より仕事を守る時代⁉ 米国労働者の最新心理
現在、米国では、労働市場の不透明感から、多くの労働者が給与を下げても職を確保する傾向が強まっています。TopResumeの調査「Overqualified and Undervalued」によると、回答者の70%が役職を下げても現在の仕事を維持したいと考え、75%は給与カットを受け入れると回答しています。また、そのうち34%は11%以上の減給も容認する意向です。
この背景には、ポストコロナ後の求人減少、採用鈍化、レイオフ増加、インフレの持続、政府政策の不確実性、AIの影響への懸念などがあります。調査対象の約66%は「ジョブハガー(Job Huggers)」とされ、経済的な理由から現職にしがみつき、転職のチャンスを慎重に見極めています。

結果として、65%が自身の能力に過大な職務負担でも受け入れる意向があり、26%はすでにそのような状況を受け入れています。また16%は、雇用を守るために給与カットを受け入れています。さらに上級職の25%は、2段階以上下の役職の移動も辞さないと答えています。
専門家は、この傾向にはメリットとリスクがあると指摘しており、給与や役職を下げることで短期的な安全は得られるものの、長期的には給与成長やスキル習得、交渉力に影響し、キャリア回復が難しくなる可能性があります。一方で、柔軟な働き方やワークライフバランス、精神的健康を優先してキャリアを再評価する人も増えているとされています。
米連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長は、労働市場は依然として低失業率ながら動きは鈍く、採用やレイオフの双方が低水準にとどまっていると述べ、今後も就業環境の不安定さが続く可能性を示唆しています。
米国給与の現状と2026年の見通し
2026年の米国における全体的な給与動向は、パンデミック後の激しい昇給ラッシュが落ち着き、「安定化」の局面に入っています。
世界をリードするグローバル・コンサルティング・ファーム、マーサーが2025年10月に実施した 「Mercer QuickPulse 米国給与計画調査」(1000社以上対象)によると、2025年の昇給・昇格・生活費調整などを含む 総昇給率の平均は3.5% で、2026年の予測も3.5%と、ほぼ同水準になる見込みです。
企業は成果重視へ、昇給幅は縮小
マーサーの米国ワークフォースソリューション責任者である Lauren Mason 氏は、今回の昇給率について次のように述べています。
「労働市場の変化が反映された結果です。経済不透明感が強まる中、企業は高い成果を出す社員への報酬強化など、戦略的な配分に注力しています」
賃上げ幅がコロナ禍・高インフレ期に比べ縮小したことから、市場がパンデミック前の基準に戻りつつある兆候とも分析されています。
世界最大の人事プロフェッショナル組織であるSHRMの経済研究員の Sydney Ross 氏も、今後の経済状況や移民政策・貿易政策の変動リスクが企業側の報酬戦略に影響を与えていると述べ、また、SHRMによる4月の調査によると、経済・政治不安を背景に 従業員の将来への楽観度は過去最低水準 に近いレベルまで低下しているとのことです。SHRMの記事でRoss氏は「不透明な環境下では、多くの企業が様子見の姿勢を強め、報酬戦略において慎重な判断を取ると考えられます」と述べています
昇給は鈍化する一方、昇格は増加傾向
昇給が想定より抑制される一方、企業の報酬戦略が強まっています。
- 86%の企業が成果主義を強化
- 2025年の昇格予定者は 全従業員の約10%(2024年は8%)
- 昇格者の平均昇給率は 8.5%
- 5段階評価制度を用いる企業では、最高評価者に 平均5.6%、中間評価者に 3.3% の昇給
短期インセンティブは 36%が目標並み、30%が目標超え を支給予定。長期インセンティブでも約3分の1の企業が目標超えの支給を見込んでいます。

全体的な給与支出は縮小へ
給与支出が縮小傾向にある点は他社調査でも裏付けられています。SHRMの記事によるとPayscaleの調査では、以下のような「支出抑制策」を取る企業が増加中です。
- 昇給率の引き下げ:18%
- 即戦力ではなく若手採用にシフト:15%
- 初回提示給与を低く設定:14%
Payscaleのリサーチ責任者 Amy Stewart 氏は2025年を次のように分析しています。「政治的分断や格差意識の高まりにより、公正な賃金要求がさらに激化する“対立の年”になるでしょう」
さらに、コンサルティング企業、Willis Towers Watsonの4月調査によれば、約23%の企業が関税や経済変動を理由に年内の昇給抑制を見込んでいる との回答を示しています。
2026年の最低賃金改定:額よりも「生活価値」がカギ
2026年1月1日から全米各地で最低賃金の引き上げが実施され、年間を通じて22州、66の市や郡、合計88の管轄区域で賃上げが予定されています。
これは一見すると労働者にとって前向きなニュースに映りますが、2026年の米国における最低賃金の改定は、単なる「時給の引き上げ」にとどまらず大きな構造変化を伴なっており、その背景には米国の労働市場が抱える複雑な課題が浮き彫りになっています。

1.地域間の賃金格差の拡大
連邦最低賃金は2009年以降、時給7.25ドルのまま据え置かれているため、独自に最低賃金を引き上げる州や都市と、連邦水準にとどまる地域との間で収入差が広がっています。同じ州内であっても、市や郡ごとに最低賃金が異なるケースが増え、働く場所によって生活水準が大きく左右される時代になっています。
2.高い最低賃金が必ずしも豊かな生活につながらない
最低賃金が高い地域ほど、家賃や物価も高い傾向があり、名目上の賃金が上がっても生活の余裕を実感しにくい状況が生まれています。そのため、あえて賃金水準は低くても生活コストが抑えられる地域を選ぶ労働者も増えつつあります。
3.結果として労働者の手取りが必ずしも増えるとは限らない場合も
また、最低賃金の引き上げは、企業側にとっても大きな調整を伴います。人件費の増加に対応するため、時給が上昇しても、シフトや稼働時間が抑えられれば、週や月単位の総収入は大きく変わらない、あるいは減少する可能性があります。
また、賃金以外の部分、たとえば福利厚生や手当、昇給ペースの見直しといった形で、コスト調整が行われることもあります。
4.近年注目される「One Fair Wage」と呼ばれる制度への転換
アメリカには、レストランなどで働く従業員を対象とした「チップを考慮した最低賃金(subminimum tipped wage)」 という制度が存在します。連邦法では、雇用主は最低でも 時給2.13ドル の現金を支払えばよく、残りは従業員が受け取るチップで補うことが認められています。
ですが、この制度を廃止し、チップとは別に、すべての労働者に同一の最低賃金を支払うという考え方が、近年急速に広がっています。これが「One Fair Wage」と呼ばれる流れです。2026年には、アリゾナ州フラッグスタッフ市などでこの制度が全面的に適用され、チップ依存という不安定な賃金体系から、より安定した仕組みへの移行が進んでいます。
このように、2026年の最低賃金改定は、地域格差の拡大、生活コストとの不整合、企業による雇用調整、そして賃金制度そのものの再設計が同時に進む転換点となっています。いま問われているのは、最低賃金の「額」そのものではなく、その賃金が実際の生活に見合い、公平で持続可能なものかどうかという視点だと言えるでしょう。
米国の最低賃金について詳細はこちらの記事をご覧ください。
【アメリカの人事部】2026年、米国の最低賃金はただ上がるだけではない – 知られざる4つの真実
依然として高いホットスキルへの需要
米国の非営利調査機関「The Conference Board(コンファレンス・ボード)」が実施した調査によると全体的な採用ペースは鈍化しているものの、「ホットスキル(重要スキル)」への需要は依然として強く、14%の企業がホットスキルの採用を拡大しています。
ホットスキルの採用増加は、以下の業界で報告されています:
- テクノロジー:+17%
- ヘルスケア:+16%
- プロフェッショナル・ビジネスサービス:+13%
- 金融・保険・不動産:+13%

AI導入とスキルアップの推進
過去6か月で、30%の企業がAI導入による業務効率化に投資を拡大しており、大企業が主導しています。特に以下の分野で顕著です。
- レジャー・エンターテインメント:40%増
- 金融・保険・不動産:40%増
- テクノロジー:33%増
同時に、16%の企業がスキルアップ(upskilling)施策を拡大しています。
2026年版|業界別 昇給・報酬戦略の違い
2026年の米国労働市場では、昇給と報酬戦略が業界ごとに大きく異なっています。製造業は賃金平等や最低限調整の拡大を進める一方で、レジャー・ホスピタリティ、政府・非営利・教育、卸売・小売業では報酬戦略の縮小が見られます。

The Conference Boardのエコノミスト、ミッチェル・バーンズ氏は「労働市場は後退ではなく再調整の時期であり、企業は人員増加を抑えつつ、高価値スキルや技術・トレーニングに投資し、生産性と競争力を維持している」と指摘しています。
業界別に見ると、ヘルスケアや小売の総昇給は3.3〜3.4%にとどまる一方、金融・エネルギー・ハイテク分野では3.7%と比較的高水準が予測され、業界間の差が鮮明になっています。
州別平均年収と所得分布:高収入と低収入の差
米国労働統計局(BLS)のデータによると2024年第4四半期時点では、フルタイム労働者の週給中央値は1,192ドルで、年換算すると61,984ドルとなります。
中央値とは、所得データを低い順から高い順に並べたときの真ん中の値であり、全体の50%がこの金額を上回り、残りの50%が下回る水準を示します。
平均年収は州によって大きく異なり、州によっては平均年収に数万ドルもの開きが見られることもあります。平均年収のトップ3とワースト3は下記のようになっています。

平均年収が最も高い地域
アメリカの平均年収トップ3はワシントンD.C.(特別区)、マサチューセッツ州、ワシントン州となっており、これらの州の平均年収の高さは、それぞれの地域の経済力を反映しているだけでなく、キャリアの成長と機会を提供する場所として求職者にとって魅力的な州となっています。
平均年収が最も低い地域
一方、全米での平均年収ワースト3はミシシッピ州、アーカンソー州、オクラホマ州となっています。これら3つの州は平均年収が最も低くなっていますが、生活費も全体的に低いため、給与が低くても生活しやすくなっています。
2026年版!アメリカ給与の高い職業と低い職業ランキング
2025年のUSA Todayのリポートによるとアメリカでは、キャリアを選ぶ際に「情熱」だけでなく、収入の高さ、安定性、成長性を重視する傾向が強まっています。
最も高収入の職種は、医療、テクノロジー、サイバーセキュリティ、法律といった需要の高い業界と、専門的な教育や研修が必要な分野が交わるところに多く存在します。そのため、これらの職種は、報酬面でも将来の需要予測でも、一般的な職種を上回る傾向が続いています。
教育と市場動向の関係
高収入の職種の多くは、高度な学位や資格、現場での経験を求められます。これは、教育への投資がそのまま収入のポテンシャルに直結することを示しています。最新の米労働統計局(BLS)のデータによると、専門職の学位を必要とする職種の中央値賃金は、全国平均を約47%上回る水準です。さらに、サンフランシスコ、マンハッタン、ボストンなど生活費の高い都市部では、こうした職種の給与は生活費に応じて通常10〜20%高く設定されています。
アメリカ高収入ランキング:医療・IT・法律・AI分野が依然強し

医療系は上限非公開($239,200以上)が多く、実際はさらに高収入のケースあり
一方、低収入ランキングでは専門的な訓練をあまり必要としない、あるいは全く必要としないエントリーレベルの仕事が多くをしめています。
アメリカ低収入ランキング:エントリーレベル職は厳しい状況

アメリカ新卒者を襲うAI時代の就職氷河期
現在の米国の新卒就職市場は、近年まれに見る厳しい局面に入っています。ニューヨーク連銀のデータによると、22〜27歳の大卒者の失業率は2025年は5.8%と、約4年ぶりの高水準に達し、全米平均を大きく上回っています。米国経済全体は悪化していないように見えるものの、その影響は若年層、とりわけ新卒層に強く表れています。
この背景には、大きく二つの要因があります。
1.人工知能(AI)の急速な普及
これまで新卒者が担ってきたエントリーレベルの業務や、初級のコーディング、定型的な作業がAIに置き換えられつつあり、企業は新卒採用を抑制する傾向を強めています。多くの企業幹部も、「新卒向け業務の一部はいずれAIが担うようになる」と認識しています。
2.現政権による関税政策などを巡る先行き不透明感
企業は現政権による政策の先行き不透明感から採用凍結や人員削減に踏み切っている点です。テクノロジー、金融、製造業など、幅広い業界で人員削減が相次いでいます。
その結果、新卒者の就職活動は非常に厳しいものとなっています。多くの学生が数百社に応募しても、面接に進めるのはごく一部で、大半は不採用通知や無回答に終わっています。
オックスフォード・エコノミクスによると、2023年半ば以降の失業率上昇の約85%は、初めて労働市場に参入する若者によるものとされています。銀行など人気業界のエントリーレベル職は、名門大学に合格する以上に競争が激しい状況です。
また、専攻分野による差もはっきりしており、建設サービスや栄養科学などは失業率が1%未満と比較的安定している一方、かつては需要が高かったコンピュータ工学では、新卒者の失業率が7%を超え、人類学や物理学に次いで高い水準となっています。
27歳以上ではIT・数学分野の雇用が増加しているにもかかわらず、新卒層では雇用が減少している点が特徴です。
このような就職難は、若者の将来にも長期的な影響を及ぼす可能性があります。22歳時点で6カ月間の失業を経験すると、その後10年間で大きな所得減につながる恐れがあると指摘されています。
さらに、学生ビザで米国に滞在する留学生にとっては、ビザスポンサーの問題が加わり、就職活動の負担は一段と大きくなっています。
総じて、景気全体が大きく悪化していないにもかかわらず、現在の米国の新卒者は、AIによる仕事の変化と企業の採用抑制が同時に進む中で、「AI時代の就職氷河期」とも言える厳しい環境に直面しています。新卒層だけが特に厳しい状況に置かれている点が、現在のアメリカ雇用市場の大きな特徴となっています。
一方で、就職を果たした大学新卒者の初任給はアメリカの全体的な賃金上昇を背景に緩やかに上昇しています。アメリカの大学と企業をつなぎ、新卒採用や初任給など就職市場データを提供する非営利団体、National Association of Colleges and Employers(NACE)による2025年度の初任給予測によると学士号取得者の平均初任給は約7万6,000ドルと、前年から小幅に増加しました。
特に工学、コンピュータサイエンス、ビジネス系の専攻は比較的高い水準にあります。ただし、実際の初任給は専攻や地域、企業規模による差が大きく、学生の希望年収(10万ドル超)と企業が提示する水準(7万ドル前後)との間には依然としてギャップがあります。学歴による収入差も明確で、学士号保持者の年収中央値は高卒者を大きく上回り、修士号・博士号ではさらに高くなっています。
米国労働統計から見る年齢ごとの平均給与
米国労働統計局のデータによるとアメリカ人の収入は、20歳から24歳と25歳から34歳の間で大幅に上昇し、45歳から54歳でピークに達しています。また、16歳から19歳の若年層は、高年齢層より平均49.92%収入が低い傾向にあります。
下記は米国労働統計局の年齢別の平均給与のデータです。

アメリカにおける給与の男女格差、人種・民族格差問題
アメリカでは全体の賃金は上昇傾向にあるものの、男女や人種・民族間の格差は依然として大きな課題です。
- 男女格差:2024年のフルタイム労働者の中央値賃金は男性 $71,090 に対し女性 $57,520。女性は男性の約81%しか稼げておらず、前年(約83%)より格差が拡大しています。若年層では差は小さいものの、全体では依然として大きいままです。
- 人種・民族格差:黒人世帯の所得は非ヒスパニック白人世帯の約60%にとどまります。ヒスパニックやアジア系世帯はやや上昇傾向にあります。さらに、同じ人種内でも男女差があり、アジア系は女性が男性の約78〜79%、黒人は約94%と差の大きさが異なります。
格差の背景には、職種や産業の違い、育児・介護によるキャリア中断、教育や昇進機会の差など複数の要因が絡んでいます。政策では同一労働同一賃金の推進や格差監視が進められていますが、解消には長期的な取り組みが求められています。
アメリカ各地で広がる賃金格差是正のための法制化
アメリカには連邦レベルの包括的な賃金格差是正法はありませんが、州や自治体レベルで「給与透明性(Pay Transparency)法」が広がっています。これらの法律は、求人時に給与の最低額・最高額(給与レンジ)や報酬情報の開示を義務付けることで、性別や人種による賃金格差の是正につなげることを目的としています。
カリフォルニア州やコロラド州、ハワイ州、ニューヨーク州などでは既に給与レンジの公開が義務化されており、求人広告に記載する必要があります。さらに、イリノイ州(2025年1月1日施行)、ミネソタ州(同1月1日)、ニュージャージー州(2025年6月1日)、バーモント州(2025年7月1日)、マサチューセッツ州(2025年10月29日)など、多くの州で新たな給与透明化法が成立・施行されます。これらの法律は労働者が給与条件を理解しやすくすることで、交渉力を高め、不当な賃金差を減らす効果が期待されています。
また、コネチカット州やネバダ州、ロードアイランド州、メリーランド州といった州では、求職者の要求や特定の段階で給与情報を開示する義務を課す仕組みもあります。こうした法制化は 2025年時点で14州以上(+ワシントンD.C.)で実施・施行中であり、今後も多くの州で検討が進んでいます。
企業は、リモート勤務者の応募でも該当州の法律が適用される場合があるため、各州の最新法令に基づいた求人情報の管理・開示が必要です。
今回は、2025ー2026年のアメリカ最新給与トレンドをまとめてご紹介しました。昇給の鈍化や最低賃金の改定、業界ごとの報酬戦略の違い、性別・人種間の賃金格差など、労働市場には複雑な動きがあります。
求職者にとっては、こうした情報を理解しておくことで、自身の希望条件やキャリアプランを現実的に検討する判断材料となります。ぜひこの記事を参考に、給与や働き方の最新動向を把握し、就職・転職活動に役立ててください。
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