アメリカでは、日本からの駐在員として勤務している人やアメリカ現地で採用された人など、多くの日本人が様々な分野で活躍されています。このコーナーでは、アメリカで働く方々に“ハタラク”楽しさや難しさなどをお伺いし、ご紹介しています。
ニューヨークでハタラク、ファッショングラフィックデザイナー
井下明日香さん
Asuka Inoshita
Asuka Inoshita
Fashion Graphic Designer
Vigoss USA
<略歴>
京都市立芸術大学美術学部、NY州立ファッション工科大学 (FIT) コミュニケーションデザイン科卒。
2006年より一年間の語学留学を経て帰国ののち、2008年再渡米。
エネルギーとビジョンを提供する、
プロフェッショナルでいたいです。
井下さんのお仕事について教えてください。
私は現在、ファッショングラフィックデザイナーとして米系のアパレル会社で働いています。ニューヨークを本社に、北米マーケット、アジアマーケットに向けてグローバルに展開している企業です。当社の主力商品はデニムで、ジーンズ、ジャケット、ベスト、シャツなどをジュニア、女性、男性向けに製作しています。私のメインの仕事は当社のブランドの特徴でもある、エンブロイダリー(刺繍)と刺繍に石やメタルなどを加えたエンベリッシュのデザインです。その他、バイヤーやカスタマー向けのe-mailのデザインやバナー、スタイルシートなどもデザインしています。その他、商品に付けるタグやブランドのロゴのデザイン、ボタンなどハードウェアのデザインも手がけています。また、会社のウェブサイトのフロントデザインも担当し一新しましたので、是非一度ご覧いただければ嬉しいです。
どのようにしてファッショングラフィックデザイナーになられましたか?
京都の芸大に在学中、ニューヨークに一年ほど語学留学をしました。大学卒業後、渡米しFIT (Fashion Institute of Technology)にてコミュニケーションデザインを学びました。FIT在学中にニューヨークのIT企業でインターンをさせていただき、e-commerceのプログラミングを担当させていただきました。将来はウェブデザイナーかグラフィックデザイナーとして社会で役立つアートの仕事をしたいとぼんやり考えていたところ、ファッションデザイナーになった元クラスメートからファッショングラフィックデザイナーという仕事の存在を教わりました。学校の特性上、ファッションに関連した情報はよく耳に入りますが、そうした職業があるというのはそれまで全く知らなかったので目からうろこでした。勧めてくれた友人に感謝です。
ファッショングラフィックデザイナーにはどうしたらなれますか?
この仕事には資格は必要ありません。企業に雇っていただくには技術と学歴を含む経歴が必要かと思います。技術力を証明するために完成度の高いポートフォリオは必ずできるだけ多く用意すべきだと思います。今の会社では2時間ほどのテストがありました。刺繍のデザインの課題が与えられて、時間内でやり遂げるというものでした。テストで提出したデザインは実際に商品として使われるということになり、すぐに採用していただくことになりました。まずはプロジェクト単位で仕事をし、その後フルタイムの社員として雇用されました。ファッション業界は働きたいと願う人も多く競争力の高い職場です。教えてもらうという姿勢ではどこでも雇ってもらえないのではないかと思います。またこの仕事をしていく上では技術はあって当たり前で、その上で創造性やチームとのコミュニケーションも大切になってきます。もちろんビジネスレベルの英語力は絶対に必要です。
現在の仕事のやりがいや喜びを教えてください。
ニューヨークが大好きなので、好きな場所で好きな仕事をしている自分はとてもラッキーだと思います。目で見てすぐわかるものを作るのが私の仕事です。自分のデザインしたものが色々な人の手を経て、実際の製品になる過程を見られるのがとても楽しいです。また、展示会でバイヤーの方が自分のデザインしたサンプルを見て注文してくださる時はやはり嬉しいですし、自分が世の中に対して何かを生産していると実感している時にはやりがいを感じます。当社は中国に支社と工場がありますが、今年の3月に中国の工場へ行き、自分のデザインのサンプル製作に立ち会いました。工場という現場を実際に自分の目で見て、現場の方と直接チームとして仕事をさせていただくという貴重な体験をさせていただきました。
お仕事を通じて心がけていることは何ですか?
私が常に心がけていることはプロフェショナルでいることです。具体的に言うと、①常に高い集中力を維持して最高水準のアウトプットを継続すること ②会社に雇われている以上、自分のデザインは会社のアセットです。自分のデザインについて精神的に執着しすぎないこと③世の中のトレンドを意識して常にインプットを欠かさないこと④トレンドをつかんだ上で自社(ブランド)のカラーと少し“自分”を上手に出すことです。私は企業デザイナーですので、勤めている限り、会社を儲けさせるデザインを生みださなければ意味がないとも思っています⑤本来クリエイティブな人種がなるはずのデザイナーですが、 大量生産に向けた商業デザインにおいては自分の自由なクリエイティビティを出す場が制限されて、こんなはずではなかった、というジレンマに陥ることは商業デザイナーなら誰でもあるのではないかと思います。ですので、そういうプロジェクトの場合、仕事は仕事、として割り切るようにしています⑥ファッションというのはどうしても嗜好品のカテゴリに属するものなので、ジュエリーのように、身につけた人が特別な気分になれるようなものを生み出すように心がけています。
井下さんにとって仕事とは何ですか?
自分のアウトプットを通じて社会に貢献することだと思っています。現在デザインという仕事を通じて服飾産業やデザインコミュニティという社会と関わっているわけです。また私にとって仕事は自分を成長させてくれる活動なので、上司やチームメイト、他社のデザイナーや海外のプロダクションのチームなどあらゆる人達から常に情報と影響を受けて自分の学びの糧にできることに感謝しています。また、クリエイティビティを磨くには同時に自分の人間としての内面的な成長も欠かせない要素です。それらがかけ合わさり、目に見える結果=デザイン=仕事の質として出てくるものだと考えています。
今後の夢や抱負について教えてください。
ニューヨークのファッション業界でトップクラスのデザイナーになることがこの3年の目標です。そののち5年後、10年後の自分がどこにいけるかを試していこうとしています。またキャリアアップのために仕事と並行して大学院への進学を考えています。今後、どんな職に就いても、クリエイティブなことを自分が楽しみながら世の中にエネルギーとビジョンを提供するプロフェッショナルで常にありたいと思っています。仕事とともに自分自身がこれから大きく成長して社会にとってより有用な『人財』になることを常に念頭に置いて仕事をしてゆこうと思っています。
〔取材・文〕
QUICK USA, Inc.
菰田久美子