アメリカでは、日本からの駐在員として勤務している人やアメリカ現地で採用された人など、数多くの日本人が活躍しています。このコーナーでは、アメリカで働く方々に“ハタラク”楽しさや難しさなどをインタビューしご紹介しています。今回はロサンゼルスで日本酒のE-commerceの会社、tippsyを立ち上げた伊藤さんにお話を伺いました。
アメリカで日本酒のマーケットを広げるドライバーになりたい
伊藤さんのお仕事について教えてください。
今年11月にtippsyという日本酒のオンラインプラットフォームをローンチました。各銘柄のストーリーや味の違いなどの充実した情報を提供して、簡単に楽しく日本酒を購入していただくというのがビジネスモデルで、アメリカで一番種類の多い、情報の多い日本酒のオンラインのプラットフォームをつくっていきたいと思っています。
tippsyという名前はどのようにしてつけられたのですか?
ブランディングでは、名称は大切な要素の一つだと考えています。まず初めに、日本酒を買ったことのない人に日本酒を買ってもらえるようなブランドにしたいと考えました。日本酒を販売する既存のウェブサイトでは名称にSAKEやJAPANを使ったものが多いですが、それらのワードはできるだけ避けたいと思いました。新しくて、トレンディなアルコールの楽しみ方を伝える会社で、ブランドに親しみをもってもらえるような名前にしたいと考えました。
どのように考えていかれたのでしょうか?
まず、シンプル、オーガニック、フレンドリーなどブランドのイメージとなる単語をたくさん出していき、つなげたり、順番をかえてみたり、サウンドをチェックしたりしました。そして、色々な人の意見を聞くなどしながら、ネーミングを考えていきました。また、テクニカルなところでは、グーグルなどの広告から再度tippsyにオーガニックサーチで再訪して欲しいので、覚えやすくて意味のあるワンワードの名前にもこだわりました。そして、でき上がったのがtippsyという名前です。語源は英語のtipsyで“ほろ酔い”という意味で、少しだけアルコールが入って楽しい気分を表しており、その単語にもう一つPをつけて造語のtippsyとしました。
tippsyについて教えてください。
現在、tippsyのサイトでは2つの事業を展開しています。まず一つは従来の日本語でのカテゴリーに捉われないできるだけシンプルで、ユーザー目線なカテゴリーの分け方をして日本酒をカテゴライズしています。楽しくストーリーを読みながら選んでもらうオンラインストアモデルです。6本以上購入していただくと配送料が無料となります。もう一つは、毎月おすすめの日本酒小瓶3本にプロダクトカードを添えてお届けする日本酒のサブスクリプションです。月々49ドルでテイストの異なる日本酒を送料無料でお届けしています。現在、一部の州を除いてほぼ全米に配送が可能です。
tippsyの特徴を教えてください。
アメリカで日本酒を購入したことのある方は、店舗やオンラインで購入されていますが、品揃えに満足されていなかったり、そもそも周りの店で売っていなかったり、どのブランドを選べばよいかもわからず、とりあえず飲んだことがあるブランドを購入するなど、必ずしも100%満足していない方も大勢いらっしゃるかと思います。tippsyは、顧客にとって一番よいユーザーインターフェース、そして一番よいユーザーエクスペリエンスで、商品をウェブサイト内で比較しながら購入できるようなサイトを目指しています。
ユーザーインターフェースというのはどのようなものですか?
tippsyのサイトを見ていただくとよりわかりやすいかと思いますが、味のマトリックス、テースティング、ペアリングの情報などをチャート、グラフィック、アイコンなどのビジュアルで表現しています。造りや味の違いが繊細で少々とっつきにくい日本酒を、ぱっと見ただけで視覚でわかりやすく伝えて、更にはそれぞれのブランドのストーリーにフォーカスした商品説明で選びやすくしています。日本のサイトでもあまり見かけないと思うので、是非tippsyのサイトをご覧になっていただけると嬉しいです。
アイコンはどのようなことから思いつかれたのですか?
tippsyを立ち上げる前は、アメリカにある日系の食品商社に10年ほど勤務していました。日本酒の流通の仕事にも携わってきたわけですが、アメリカ人は日本酒への興味度は高いし飲むのは好きだけど、何を買ったらよいかわからないというレベルの人が大半なんです。そういう人に日本語のボキャブラリーや専門用語を使っても日本酒の良さは伝わらないと思いました。このブランドの日本酒はバナナっぽいアロマがあるとか、テイストやペアリングをアイコンなどのビジュアルで伝えたほうがよりわかりやすい。そういうサイトがあれば日本酒のことをよく知らない人でも探しやすいのではないかと思いました。
サブスクリプションはどういうものでしょうか?
サブスクリプションは、日本酒はレストランで飲んだことがあるけれど、買ったことはないという人を主なターゲットに考えたシステムです。毎月3本の日本酒と共に、商品や蔵元の紹介などを書いたプロダクトカードを添えてお送りしています。お酒のマーケティングってそもそも難しくて、お客さんがどのようにブランドを選ぶかというと、アメリカではそのブランドのストーリーによるところが結構大きいんです。コンシューマーがブランドのストーリーにどれだけ共感できるかというのがとても大切です。蔵元の起源や歴史、ロゴの由来、つくり手の思いなどのストーリーをカードで伝えることによって、ユーザーの興味の度合いがぐっと高まりファンになる方も増えます。サブスクリプションからブランドのファンになってもらい、サイトからそのお酒を買っていただくというのもビジネス戦略のうちの一つです。そして、マーケット全体を盛り上げていきたいと思っています。
tippsyのターゲットは?
ターゲットのオーディエンスは単純に分けると2つで、ストアで日本酒を買ったことのある人とそうでない人です。日本酒を購入したことがある方には、サイトを通じて日本酒の良さや楽しみ方を提供できる余地がまだまだたくさんあると思っています。もう一つのターゲットは、日本酒をレストランで飲んだことはあるけれど自分でストアまで行って買ったことがない人です。こちらが実はメインのターゲットで、一般的な消費者の9割だと思っていますが、これだけアジア食が一般的になっているアメリカの消費文化なのでレストランで楽しむだけでなく家でも日本酒楽しめるようなライフスタイルを発信していけたらと考えています。
アメリカでの日本酒の認知度はどうなのでしょうか?
一般名詞として既にSAKEを知らない人はいないのではないでしょうか。レストランで日本酒を頼んでエキゾチックなエクスペリエンスを楽しんでいる方は非常に多いのですが、その内の大半は自分で買ったことがありません。そういう人は、そもそも日本酒ってどういうものかわかっていない。ブランドがたくさんあることを知らない。ペアリングできるというような日本酒の奥深さを知らない。ワインみたいな楽しみ方があるということを知らない人が圧倒的に多いです。また、サケボムがきっかけで日本酒を知ることになった若者もたくさんいます。
サケボムとはどういうものですか?
若者の一気飲みのスタイルで、ビールグラスの上にお箸をのせ、ショットグラスにお酒をいれたものをその上にのせて、「1、2、3、サケボム」と言って、グラスをガチャンと落として一気飲みするというものです。日本食と共に日本酒の需要を広げたという意味で良い影響だと思うのですが、こうした飲み方の印象もあってか、日本酒はアルコールくさい、スピリッツみたいなお酒と思っている方も多いという事実もあります。
日本酒のよい経験をしている人もいらっしゃいますね?
ロサンゼルスやニューヨークのような都市部では、高級レストランへ行くとワインリストのように立派な日本酒のリストをもってきてくれるようなお店もあります。そうしたお店では教育も行き届いていますので、お客様からの質問に答えられるサーバーもいたりします。アメリカでの日本酒に対するイメージや経験などのギャップをどう埋めていくかというのもtippsyの課題の一つでもあります。日本人としてもっと日本酒を売っていきたいし、美味しいものを届けたいと思っているので、本来の日本酒の良さや楽しみ方をもっともっと伝えていきたいと思っています。
日本酒のリサーチはどのようにされたのでしょうか?
以前勤めていた日系食品商社で、これまで様々な日本酒のマーケティング活動をしてきましたので、BtoB, BtoC両方のお客さんと直接話をしてきました。更にビジネススクールのアントレプレナーシップのクラスでベンチャーキャピタルにビジネスアイデアをピッチするという機会があって、その時にアメリカで日本酒を飲んだことのある消費者800人を対象にサーベイを行いました。アメリカで日本酒を本当に買ってくれる人はいるのか?どうやったら売れるのか?ロジスティックや価格のことなど、日本酒のマーケットについて本格的に調べました。
ビジネススクールでのリサーチについてもう少し教えてください。
マーケティングの先生に教えて貰いながら潜在需要やペルソナと呼ばれる潜在顧客の消費パターンなど統計分析を含めたリサーチをしました。ターゲットを明確にした上でそこに訴求するためのブランディング戦略を考え、ウェブサイトやその他すべての顧客タッチポイントのベースとしています。アントレプレナーシップの授業では、ミレニアル世代をターゲットにしたワインの会社に投資をしているベンチャーキャピタルからフィードバックを貰うこともできました。海外戦略の授業では客観的に日本やアジアのビジネス慣習や企業文化を学ぶことができましたし、これまで日系企業にて日本食マーケティングに携わってきたアメリカという国の消費トレンドについても再考することができたと思います。寿司やラーメンはもう一過性の流行ではなく一つの文化として根付いていますし、日本酒がそうなるのも時間の問題だと思っています。
起業された経緯について教えてください。
南カリフォルニア大学でMBAを5月に修了しましたが、起業について真剣に考えたのは先ほどお話したアントレプレナーシップのクラスがきっかけです。昔からビジネス本を読んだり、起業された方のお話を聞くのが好きで、なにか自分でできたらいいなとぼんやりとは考えていたのですが、行動に移すまでには至っていませんでした。
アントレプレナーシップのクラスについて教えてください。
クラスの先生は実際にベンチャーキャピタルの人で、色んな起業家を授業に呼んでプレゼンをしてもらったり、アメリカでのスタートアップのエコシステムというのを勉強しました。アメリカでは起業家を育てる土壌が整っているということを実感しましたし、投資家の数も多い。そして、今では様々な起業家をサポートするシステムがあって、極端な話E-commerceを立ち上げることなんて数分程度で実現できる環境が整っているんです。中国やインドには優秀なエンジニアを安価で雇えますし、専門分野の人材にも必要に応じて仕事を依頼できます。そうした情報を知ることができたのもMBAのおかげです。5月にUSCを卒業すると同時に会社も辞めて、起業しました。
仕事のやりがいについて教えてください。
起業して、色々なことを自分一人しているので、商品の箱詰めをしてお客様に送ったり、カスタマーサービスをしたりと業務の範囲は広くてとても大変ですが、お客さんからちょっとした応援のE-mailを貰ったりすることが大きなモチベーションになります。インスタグラムで少しフォロワーが増えたり、お客さんがシェアしてくれたりと少しのことでとても大きな充実感を得られるので、この仕事をはじめて会社勤めをしている時と比べるとやりがいの感じ方も変わったと思います。
仕事の難しさについて教えてください。
全部自分一人でできないのは当然なので、いかに時間を上手に使って生産性を上げるかが課題となっています。チームメンバーに任せられることはコストとアウトプットを考えながら任せて、一番効率よくできる方法を一日中頭の中で考えています。そして効率よく仕事ができたとしても、商品の配送中に商品にダメージが出るなどアクシデントがあったりするので、ミーティングのリスケをしたり、プライオリティを変えたりして緊急事態に対処しています。今はほぼ自分一人でオペレーションをしているので、こうしたトレードオフが一番難しく感じています。
仕事をしていく上で大切にしていることは何ですか?
ワンマンショーということもあり、自分や会社の成長は私の行動量に比例すると思っています。たくさん動くのは当然で、起業してからずっと日本酒関係に限らずネットワーキングを大切にしています。会った人の繋がりからそこから更にネットワークを広げるように心掛けています。
なかなかすぐには結果が出ないものですが、こういった繋がりを通してたまたま会いたい人に会えるということもあります。例えば、tippsyのクラウドファンディングがきっかけで連絡をくれた日本の方から、ロサンゼルス在住の友人を紹介してもらい、その方に教えて貰った日本酒のイベントに出向き、それがたまたまLinkedinでコンタクトしたことある人がスピーカーだったのでPRさせてもらい、そうしたらそこに来ていた自分のクラウドファンディングのバッカーの方が終了後声を掛けてくれて、その人がたまたまエンジェル投資家だったりとか。ラッキーになるチャンスは誰もそんなに変わらないと思うので、行動量を増やすことでいつか運を掴みたいと考えています。
今後の抱負を教えてください。
近いところでは、日本酒のオンラインストアでNO.1になることです。もう少し長期的にはtippsyというブランドが日本酒と同義語になるようなブランドのアセットを構築したいと思っています。そして、ゆくゆくは日本酒の市場を広げられるようなマーケットのドライバーになりたいと思っていて、その頃にはリテイラーとしても一番大きくなっていると思うので、日本から見た時にもアメリカのマーケットを切り開いている会社として認知されるようになりたいです。
アメリカでの日本酒のマーケットは日本の10分の1程度で更に伸びていますが、日本国内では縮小傾向となっています。日本酒を日本以外で売ることは日本でも課題だと思いますので、自分ができることを最大限の力をもって行動していきたいです。そしてもう一つ、海外で日本の“コンテンツを売る”という“モノづくり国”の次の形として日本が目指すべき姿のマーケティング成功事例を作れたらと思っています。
【取材協力・お問合せ】
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