近年の職場におけるセクシャルハラスメント(セクハラ)問題の改善のため、昨年10月9日よりニューヨーク州では、雇用主に対してセクハラ防止トレーニングの実施を義務づけるという法律が施行されましたが、皆様はもう受けられたでしょうか?ニューヨーク州の法律に加え、今年の4月1日からはNY”市”の条例で定めるセクハラ防止トレーニングも施行されます。
対象は誰か?どのように実施すべきか?また、いつまでに実施すべきか?についての情報が錯綜しており、混乱されている方も多くいらっしゃると思います。弊社でも、ご商談等で訪問させていただく企業様でも、この新しい法律について数多くのご質問、ご相談を受けてまいりました。
そこで今回、一度情報を整理すべく、企業様からよくご質問を受ける内容についてPacific Dreams, Inc.の酒井謙吉さんに伺ってみました。ご参考にしていただければ幸いです。
・NY州の定めるトレーニング該当企業はどのような企業でしょうか。
NY州にオフィスや事業所のある企業は、その業種には問わず、また従業員数にも関係なく、NY州で働く全従業員に対して、セクハラ防止トレーニングを提供しなければなりません。
・NY州トレーニングの施行日と実施期限はいつでしょうか。
NY州では2018年10月9日にトレーニングの実施が州法で施行されました。本州法に従いますと、NY州にあるすべての企業は法律施行後1年以内にセクハラ防止トレーニングを実施しなければならないと規定しています。ですので、今年の10月8日までにトレーニングを行うことが義務付けられます。
- NY市の定めるトレーニング該当企業はどのような企業でしょうか。
NY市内にある従業員数15名以上の企業が対象になります。ただし、業種には関係ありません。
- NY市トレーニングの施行日と実施期限はいつでしょうか。
NY市の条例は施行日が2019年4月1日からとなっています。該当する企業は、この日から1年以内にトレーニングを実施する必要があります。
- 市と州でトレーニングを別々に行う必要があるのでしょうか。
NY州法の規定に従って、すでにトレーニングを実施した企業は、NY市の条例に新たに従って再度トレーニングをするという必要はありません。同様にNY市の条例に従ったトレーニングを行った場合には、NY州法のトレーニングを別に行う必要もありません。
- NY州または市にある企業に在籍し、他州で働いている従業員も対象なのでしょうか。
NY州法およびNY市条例は企業の所在地がNY州あるいはNY市にあっても、他州で働く従業員には基本的に適用にはなりませんので、ご安心を。ただし、他州にそのような法律があろうがなかろうが、トレーニングを行うのであれば全社一律で行うことをお奨めしたいと思います。
- オンライン(Webinar)での実施は可能でしょうか。
はい、トレーニングの実施形態については特に規定は書かれておりませんので、オンラインによるウェビナー方式でのトレーニングももちろん可能です。
- DVDを視聴するだけで対処可能なのでしょうか。
DVDの視聴によるトレーニングも可能ですが、法律ではインターラクティブ(Interactive: 双方向でのやり取りがあること)なトレーニングが望ましいとなっています。ですので、単なるDVDだけの視聴であると法律で規定する望ましいトレーニングにはなりません。
- 社内人事で対処可能なのでしょうか。また、外部の人事コンサルタントや弁護士に外注する利点は何でしょうか。
もちろん社内のどなたかがトレーニングを行うことは可能ですし、許されています。トレーニングを行う上で、何かの資格が必要という規定も特にあるわけではありません。外部のコンサルタントや弁護士を使うメリットは、より公平で視野の広いトレーニングの提供が可能だというところにあるかと察します。訴訟のケースの含めた、他社で実際に起こった事例なども一般化して紹介してもらえれば、具体的な利点としては有効だと思います。
- 実施した中で新たな問題などはございますでしょうか。
トレーニングは法律だから従わなければならないというスタンスだけで、仕方なくトレーニングを行っている企業も見受けられます。やはり、会社幹部自らトレーニングの重要性を理解していただき、特に企業にとってもセクハラはリスク管理上もはや避けては通れない必須項目という認識で全社一丸になってトレーニングに臨んでいただきたいと思います。
- マネージャーとスタッフで分けてトレーニングを受ける必要があるのでしょうか。
NYの法律では特に分けて行うことは規定されていません。ですが、会社トップを含めて全従業員が受けることになっています。その一方で、カリフォルニア州法ではマネジャーは2時間、スタッフは1時間とトレーニング時間が分けて設定されていますので、分けた形でトレーニングを行う必要があります。
- 会社全体のトレーニング後に就業した方もトレーニングを受ける必要があるのでしょうか。また、いつまでに受ける必要があるのでしょうか。
はい、新規採用された従業員は、NY州法ではASAP(As Soon As Possible; できるだけ早急に)トレーニングを受けさせるようにとあります。また、NY市条例では、80時間働いていて入社後90日以上経った従業員に行うようにと、具体的に規定されています。そこで、入社後90日を過ぎた従業員にはできるだけ早くトレーニングを受けてもらうのが適正ではないかと考えます。
- 弊社は経営者の私と従業員一人というとても小さな規模の会社ですが、トレーニングは必要でしょうか?
はい、NY州法からすれば、従業員が一人でもいればトレーニングは必要です。
- トレーニングを受けたという証明書は発行されますか?証明書は何年くらい保管しなければいけないでしょうか?
トレーニングを受けたという記録を会社は残す必要があります。その記録として、トレーニングを提供した講師のサインの入ったトレーニング受講後の終了証を記録として受講者一人ひとりに発行することが望ましいです。それら記録は、従業員が会社を辞めた後、3年間保管する義務が会社にはあります。
- 弊社でトレーニングを実施するにあたって日本語でのトレーニングと英語でのトレーニングを希望しますが可能でしょうか?
NY州法では、トレーニングは、従業員が普段使っている言語で行うことが望ましいと規定されています。ですので、日系企業で働く英語ネイティブを含む英語を話す従業員にはもちろん英語で、そして駐在員を含む日本人従業員には日本語で行うことがベターであると申し上げられます。また、トレーニングの内容も必ずしもひとつのトレーニングをそのまま翻訳したようなものではなく、文化的な差異に応じた違いも打ち出せるとより効果的であると申し上げられます。ですので、弊社ではそのようなトレーニングを英語と日本語とで分けて別々に提供させていただいております。
- トレーニングを実施しなかった場合の罰則について教えてください。
州政府や市の監視当局が企業それぞれを見回ったり、抜き打ち監査に入るということはありませんので、州法では罰則の規定というものは明確には作られていません。一方のNY市条例では、民事訴訟などによる罰則金(ペナルティ)は$250,000までの上限で科すことができるとされています。
また、もし万一社内でセクハラが起こって会社が訴訟されたような場合、相手の弁護士は会社で法律に従ったセクハラ防止トレーニングを行っていたかどうかを間違いなく問い正してきます。会社がもしトレーニングを行っていなかったとなりますと、請求される賠償金額は会社の屋台骨を揺るがすぐらいのものになるかもしれません。トレーニングを実施していないということは即、将来の会社リスクに直結することだといっても過言ではありません。
- 弊社には日本から来た駐在員および実習生がいますが、トレーニングは必要でしょうか
はい、就労ビザでNY州に来て働いている駐在員および実習生の方々もトレーニングは受ける義務があります。
- 弊社には学生のインターンがいますが、トレーニングは必要でしょうか?
はい、学生インターンの人であってもトレーニングを受けてもらう義務があります。
- 弊社には週2日勤務のパートタイム従業員がおりますが、トレーニングは必要でしょうか?
はい、NY州の法律では、従業員の人はフルタイムでもパートタイムでも働く時間数には関係なく、トレーニングを受けてもらう義務があります。一方のNY市の条例では、すでに80時間以上、90日以上にわたって勤務している従業員が対象だとされています。ですので、NY市内で働く、週2日勤務のパートタイム従業員の方がこの勤務時間数と勤務日数をまだ満たしていなければ、トレーニングの対象から外れますので、トレーニングは必須というわけではなくなります。
- 弊社には人材会社から派遣された派遣スタッフが勤務していますがトレーニングは必要でしょうか?
派遣スタッフの方もトレーニングが必要です。その際は、派遣スタッフの方は会社の従業員ではないので、派遣会社がトレーニングを実施するということになっています。
- トレーニングを実施するメリットについて教えてください。(法順守、啓蒙、知識の習得等々)
トレーニングを実施することはNY州ではすでに法律ですので、それに従わなければなりません。ですが、単に法律だから仕方なく従えばよいだけだと考えるのではなく、これだけセクハラがアメリカでも日本でも蔓延している状況下にあって、法律だけの問題ではなく、男女平等の精神、性差別やハラスメントの根絶を具体的な事例などを通じて自分たちの言語や文化の中で認識を深めていくことが何よりも大事であると察します。今回そのための機会を州や市が作ってくれたのだというポジティブな視界を持っていただき、全社的に取り組んでいただけたら何よりだと思います。
【今回ご回答いただいた先生は…】
酒井 謙吉
代表取締役
Pacific Dreams, Inc.
※本Q&Aは、あくまでも一般的なガイドラインであって、
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