2017年の「#Me Tooムーブメント」は、みなさんにとっても記憶に新しいできごとではないでしょうか。「#Me Too(私も)」というセクハや性暴力を受けた女性たちの連帯を示すためのハッシュタグは、職場でセクシャルハラスメントが根強くはびこっていることが指摘され、大きな社会問題となりました。
企業のコンプライアンスを考える時に、ハラスメントは絶対に無視できないものです。「そんなつもりじゃなかった」「つい口がすべった」では済まされません。大きな訴訟に発展するケースもあるからです。
異性の身体に触れたり、性的なことを言ったりするだけがセクハラではありません。人によっては「こんなこともセクハラになるの?」と感じることもあるかもしれません。安全で快適に仕事ができるようにするには、まずは雇用主も、働く人達もセクハラについて正しく理解することが大切です。
米国では、複数の州で雇用主に対してセクハラ防止トレーニングの実施が法律で義務づけられています。また、義務づけられていない州であっても企業がセクハラ防止のトレーニングを提供することはとても大切です。そこで今回は、セクハラ防止トレーニングについてPacific Dreams, Inc.の酒井氏に一問一答形式でご回答いただきました。是非参考にされてください。
・米国でのセクハラ問題は2017年以前よりあったかと思いますが、過去にはどのようなものがあったでしょうか?
セクハラは2017年以前にももちろんありましたし、現在でも根絶にはほど遠い状況が続いています。過去には1998年にイリノイ州にあった日系大手自動車メーカーと連邦のEEOC(雇用機会均等委員会)との間で繰り広げられた集団セクハラ訴訟が、日系企業が直接セクハラでアメリカのマスコミを賑わせた事例として記憶にあります。
・当時からセクハラ防止トレーニングは企業で実施されていたのでしょうか?
2004年にカリフォルニア州でセクハラ防止トレーニングが法律で義務化されるまでは、自主的にセクハラ防止トレーニングを実施しようという企業はほとんどなかったのではないかと思います。
・セクハラ防止トレーニングが義務づけられた背景にはどのようなものがあったのでしょうか?
カリフォルニア州では特にセクハラが職場で頻繁に横行しており、しかも現在とは異なり、セクハラに遭遇しても泣き寝入りしかできない女性の被害者が多数いたため、アメリカでは法律としては最初のセクハラ防止トレーニングをカリフォルニア州が義務化したという経緯があります。
・2022年5月現在、米国で雇用主に対してセクハラ防止トレーニングの実施が義務づけられている州はどの州でしょうか?
カリフォルニア、ニューヨーク、コネチカット、メイン、デラウェア、イリノイの6州およびニューヨーク市、ワシントンDCのコロンビア特別区、1都市となります。
・ニューヨークなど、市と州でトレーニングの実施を別々に法律で義務づけている州がありますが、州と市とそれぞれ実施しなければいけないのでしょうか?
基本的にはどちらかでもよいですが、市と州ではトレーニングの要求事項が微妙に異なりますので、より会社の実体に近い方の法律に従ってトレーニングを行っていただければと思います。
・トレーニングを実施しなければいけない企業は、どのような企業が対象となりますか?州によって違いがあれば教えてください。
カリフォルニア州では従業員数5名以上、ニューヨーク市は15名、メイン州では15名以上、デラウェア州では50名以上の企業がトレーニングの対象となっていますが、あとの州や特別区はほぼ従業員数に関係なく、従業員が一人でもいるすべての企業が対象となるものとお考えください。
・企業はどのくらいの頻度で、従業員にトレーニングをしなければいけないのでしょうか?
ニューヨーク州、ニューヨーク市、イリノイ州では毎年行うことが要求されています。カリフォルニア州、デラウェア州、ワシントンD.C.では2年に1回、コネチカット州は10年に1回以上です。また、メイン州では雇用開始後1年以内にトレーニングが要求されています。
・会社全体のトレーニング後に採用した方もトレーニングを受ける必要があるのでしょうか?また、いつまでに受ける必要があるのでしょうか?
はい、そうです。州によって若干異なりますが、通常、従業員はどんなに遅くとも入社後6ヵ月以内にトレーニングを受ける必要があるとお考えいただければとよいかと思います。
・トレーニングの内容で義務づけられているものはありますか?あればどのような内容か教えてください。
会社が規定している社内セクハラ防止ポリシーの周知、そして実際にセクハラが起こった場合の社内での報告窓口と報告手順、報告をする際には会社や加害者および上司からは一切の懲戒手順を含む報復措置を受けないことの保証などです。セクハラの定義、セクハラの違法性、事例を用いてのセクハラの状況説明など、州によって内容が多少異なりますので確認をお願いします。
・毎年同じ内容のトレーニングでもよいのでしょうか?
毎年同じトレーニングでは駄目だという法律はないのですが、毎年同じでは受ける側の従業員はマンネリ化して、トレーニングに身が入らないと思いますので、各州で義務づけられた内容を必ず盛り込みつつ、トレーニング内容は毎年変えるべきだと思います。
・経営、マネージャー、スタッフなど役職で分けてでトレーニングを実施する必要があるのでしょうか?
それが出来れば、一番望ましいやり方ではないかと思います。ただし、カリフォルニア州では管理職の従業員に対して、最低2時間のトレーニング、その他の一般従業員には最低1時間のトレーニングが要求されていますので、管理職と一般従業員とは分けてトレーニングを行ってください。
・トレーニングの言語は決められていますか?
EEOCから出されているトレーニングのガイドラインでは従業員が普段に日常的に使っている言語で行うことが望ましいとされています。
・トレーニングを実施しなかった場合の罰則について教えてください。州によって違いがあれば教えてください。
いまのところ州では罰則の規定というものは明確には作られていません。ただしNY市では独自の市条例で、民事訴訟などによる罰則金(ペナルティ)は$250,000までの上限で科すことができるとされています。
・トレーニングの実施にはどのような方法がありますか?
対面でのクラスルーム方式、オンラインでのウェビナー方式、ビデオやオンライン(ソーシャルメディア)での聴講など、いずれでも認められています。
・社内のスタッフが講師を務めることは可能でしょうか?
はい、可能です。たとえば社内のHRマネジャーがトレーニングを行うのは一般的です。
・日本や他国から来た駐在員および実習生にもトレーニングは必要でしょうか?
はい、必要です。
・学生のインターンにもトレーニングは必要でしょうか?
はい、必要です。
・週2日勤務のスタッフなどフルタイム勤務ではない従業員にもトレーニングは必要でしょうか?
はい、必要です。
・他州でリモート勤務をしている従業員がいる場合、トレーニングは必要でしょうか?
はい、必要です。
・トレーニングを受けたという証明書は必要ですか?また必要な場合、企業は証明書は何年くらい保管しなければいけないでしょうか?
トレーニングを受けたという記録を会社は残す必要があります。その記録として、トレーニングを提供した講師のサインの入ったトレーニング受講後の終了証を記録として受講者一人ひとりに発行することが望ましいです。それら記録は、従業員が会社を辞めた後、3年間保管する義務が会社にはあります。
・セクハラ防止トレーニングが法律で義務づけられているカリフォルニア州に本社がある企業で、義務づけられていない州にもオフィスがある場合、それらのオフィスで働く従員にもトレーニングを実施しなければいけませんか?
その場合は法的な義務づけはないので、やらなかった場合、特に法律違反ということにはなりません。ですが、他の従業員が皆トレーニングを受けているのに、法律のない州の従業員だけがトレーニングを受けていないというのは会社としてはいろいろな意味で整合性が取れていないということになり、万が一の場合にリスクになると思います。
・トレーニングはオンライン(Webinar)での実施は可能でしょうか?
はい、トレーニングの実施形態については特に規定は書かれておりませんので、オンラインによるウェビナー方式でのトレーニングももちろん可能です。
・働く人がトレーニングを受けるメリットについて教えてください。
トレーニングを受けることによって、万が一の場合の報告窓口や報告手順、そして何よりも報告をすることによって会社や上司からの報復措置は受けないということを従業員が知ることによって、泣き寝入りするようなことを根絶することが社内で出来るはずです。
・企業がトレーニングを実施するメリットについて教えてください。
トレーニングを実施することが州の法律で決められているのでしたら、それに従わなければなりません。ですが、単に法律だから仕方なく従えばよいだけだと考えるのではなく、これだけセクハラが職場で蔓延している状況下にあって、法律だけの問題ではなく、男女平等の精神、性差別やハラスメントの根絶を具体的な事例などを通じて自分たちの言語や文化の中で認識を深めていくことが企業としても何よりも大事であると察します。さらに法律にあろうがなかろうが、トレーニングを行うことによって、万が一社内でセクハラが起きた場合であっても企業の賠償責任は大いに違ってきます。トレーニングは企業を守るための一種の保険であると考えていただくことが出来ます。
・企業が有意義なトレーニングを実施するためにアドバイスをお願いします。
DVDやソーシャルメディアを使ったトレーニングも可能ですが、EEOCのガイドラインではインターラクティブ(Interactive: 双方向でのやり取りがあること)なトレーニングが望ましいとされています。ですので、単なるビデオや録画だけの視聴であるトレーニングだけでは必ずしも望ましいものにはなりません。
またトレーニングは法律でやらなければならないから仕方なくやっているという企業も散見させられます。やはり、会社のトップ自らトレーニングの重要性を理解していただき、特に企業にとってもセクハラはリスク管理上でも避けては通れない必須重要項目であるという認識をもっていただいてトレーニングに臨んでいただきたいと思います。
そのためには毎年同じトレーニングを繰り返し行うのではなく、外部のトレーニング機関、たとえばHRコンサルタントや弁護士を起用して行うことは、具体的な事例なども紹介してもらうことが出来るため、従業員にはより公平性のある視野の広いトレーニングの提供につながるのではないでしょうか。
【回答者】
President & CEO
酒井謙吉 Ken Sakai
8532 SW St Helens Dr. Wilsonville, OR 97070
Email :kenfsakai@pacificdreams.org
Phone: 503-783-1390
【プロフィール】
信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。
★クイックUSA「セクハラ防止トレーニング」サービスのご紹介★
QUICK USA, Inc.では、対面やウェビナーでの「セクハラ防止トレーニング」(日本語または英語)の講師の派遣サービスをHRコンサルティング会社と共同で提供させていただいております。開催日程、内容、費用、その他ご質問等何かございましたら下記までお気軽にご連絡ください。
【お問合せ】
QUICK USA, Inc.
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