アメリカではさまざまな分野で、多くの日本人の方が活躍されています。このコーナーでは、アメリカで働いている日本人の方に“ハタラク”楽しさや難しさなどをお伺いしています。今回はクリエイティブ・ディレクターとして活躍していらっしゃる谷川紀代美さんにお話を伺いました。
ニューヨークで働く、クリエイティブ・ディレクター、谷川紀代美さん
谷川紀代美さん(Kiyomi Tanigawa)
Creative Director
MARU Brooklyn, Inc.
https://www.brooklynmisomaru.com/
枠にはまらず、可能性を広げていきたいです。
…簡単に谷川さんのご経歴を教えてください。
日本の高校を卒業した後、ニューヨークのNew York School of Interior Designへ留学し、インテリアデザインを勉強しました。
その後、ニューヨークの日系や米系の建築会社でインテリアデザイナーとして経験を積みました。
結婚、出産を機に退職し、子育てや学校、コミュニティの活動に力を注いでまいりました。
また同時に、フリーランスとしてインテリアデザインやグラフィックデザインの仕事。そしてウェブデザインの仕事を友人や知人を中心にお受けしてきました。
MARU Brooklyn, Inc.は2021年に立ち上げた私の会社です。
…MARU Brooklyn, Inc.はどのような会社ですか?
現在は、主にお味噌にだしを加えてトッピングを施したMISOMARUという商品を製造し、オンラインやポップアップストアにて販売しています。
会社としては食品というジャンルにとらわれずに、これまで私が経験してきたことを活かしながら、枠にはまらずに色々なことにチャレンジしていきたいと思っています。
業界という垣根を越えて、様々な世界の方ともコラボレーションをしていきたいです。
…ジャンルにとらわれないというのはどういうことでしょうか?
これまでにファッション業界の方とコラボレーションをする機会が何回かありました。
近年、ファッション業界では単に洋服を作って売るというだけでなく、インテリア、食、行動など生活全体を取り巻くライフスタイルまで追求するブランドが増えています。
そのような中で、自分もその位置に近いものがあるように感じられました。
会社にしても職業にしても枠にはめようとしなくてもよいように思います。今はそんな時代なのではないかと思っています。
MARU Brooklynは会社ではあるのですが、自分自身を表現する場所として私自身は捉えています。
…会社の方向性はどのようなものでしょうか?
会社のロゴは私の家の家紋でもある梅の花をモチーフとして作っていますが、5つの花びらにはそれぞれに意味を持たせています。
①食 ②器 ③衣 ④音 ⑤セレモニーと将来的に自分のバックグラウンドでもあるインテリアデザインも含めたライフスタイルブランドとしてのキュレーションができるような場所作りをしたいと考えています。
古来から伝わる日本の文化や日本人の叡智を現代の社会に融合させて、私なりの表現でそれぞれを具現化させていきたいと思っています。
…日本の文化とはどのようなものでしょうか?
日本の文化にはたくさんの要素がありますが、私は茶道を長くやってきましたので、茶道に触発されてデザインを考えることが多いです。
茶道の型や道具といった形のあるものだけではなく、おもてなしやおもいやりなどの心をも含んだ形で表現していきたいと思っています。
…日本の叡智とはどのようなものでしょうか?
例えば、味噌玉は日本の15世紀後半から16世紀の戦国時代の武将の必須アイテムでした。
戦いの合間に食べる食事は「栄養がある」「持ち運びしやすい」「保存ができる」「すぐに食べられる」ものが用いられていました。
当時味噌玉は輸送中に日持ちがするように丸めて表面を焼き、天日で乾燥させていました。兵士は干し米や梅干しなどの他の食品と一緒に袋に詰めて携帯していたのだそうです。
彼らにとって味噌玉は現在のパワーバーのようにお腹がすいた時に容易に食べることができる貴重な栄養源だったのです。
そうした素晴らしい日本人の叡智を私なりの表現で現代の社会に伝承していきたいです。
MISOMARUについて教えていただけますか?
MISOMARUには、枕崎のかつお節でとっただしを使用した「トラディショナル」と昆布と椎茸のだしの「ビーガン」の2種類があります。
トラディショナルのトッピングはお揚げ、ゴマ、わかめ、ネギ、ぶぶあられで、ビーガンはゆずトマト、切り干し大根、ゆかり、アオサ、炒り玄米です。
…見た目もきれいですし、おいしそうですね。
お味噌にはタンパク質やビタミン、ミネラルなどがたくさん含まれています。
栄養素のつまったお味噌をおいしく召し上がっていただくのはもちろんですが、「お味噌汁の体験を販売させていただいている」とブランドでは発信しています。
お味噌汁をさらにおいしく召し上がっていただくためにお椀、箸置き、重箱なども販売しています。
…MISOMARUはどのようにして生まれたのでしょうか?
息子が生まれてから食の大切さをとても意識するようになり、お味噌も自分で作るようになりました。
友人の一人が「Rice & Miso」というお弁当やおにぎりを販売するお店を開くということになり、お店のインテリアデザインを頼まれました。
開店に向けて手伝っていくうちに、お店でMISOMARUを販売してみてはどうかと友人に提案しました。
…ご友人のお店での販売がスタートだったのですね?
そのつもりだったのですが、友人から「とても忙しくて手が回らないので、私のお店で売ってあげるからあなたが初めては?」と逆提案を受けました。
子育ても一段落していたのと、ちょうどコロナ禍もあって時間ができたのもあり、それなら自分で作ってみようと思いました。
まずは試作品を作り、友人などに写真を見てもらったりクチコミで知り合いを中心に買ってもらったりしていました。
当時はパッケージも一つひとつ手作りで、写真を撮ってはインスタグラムに載せるという、本当に小さなビジネスからスタートしました。
…MISOMARUが有名になったきっかけについて教えてください。
ある日、インスタグラムで見つけたとウォールストリートジャーナルの記者の方から突然連絡をいただきました。
ホリデーシーズンの贈答品のアイデアの一つとしてMISOMARUを紹介したいというものでした。
ただし、紙面で紹介するには2つのことをクリアすることが条件だといわれました。
「ウェブサイトを作ること」と「全米にシッピングできること」というものでした。
それから大急ぎでウェブサイトを作って、シッピングの体制も整えてウェブマガジンの記事で紹介していただいたところ、反響がすごくて注文が山のように舞い込んできました。自分でもびっくり。(笑)
…注文がたくさん入って大変だったのでは?
それほどたくさんの注文がくるとは思っていませんでしたので、生産体制までは整えておりませんでした。
一人でがんばっていたのですが、毎日注文がきますのですぐに対応しきれなくなってしまいました。
お客様に生産に時間がかかるのでお待ちいただくか返金いたしますとご連絡を差し上げたところ、意外なことに「いつまでも待ちますよ」と言ってくださるお客様が多くてその時はとても嬉しかったです。
…これまでに印象に残ったお仕事を教えていただけますか?
一年半前くらいのことですが、ローレン・マヌージアンというニットデザイナーのオフィスと、パリコレの後にショールームへいらしたバイヤーの方へのお土産としてMISOMARUを配る、というプロジェクトを受けました。
ローレン・マヌージアンのブランディングとMISOMARUのコンセプトがマッチしたという嬉しいプロジェクトでした。
ローレン・マヌージアンとMISOMARUのコラボレーションのパッケージを私の方で特別にデザインさせていただきMISOMARUを包んでパリへ送らせていただきました。
みなさんにとても喜んでいただいたことも嬉しかったですが、MISOMARUがパリへ飛ぶという感動的なお仕事でした。
…他にはどのようなコラボレーションをされたのでしょうか?
ニュートラル・ラボというこちらもファッション+ライフスタイルブランドとして発信しているニューヨークのブランドとコラボレーションをさせていただきました。
彼らの受注会の際に私の方で特別にテトラポットの形のパッケージをデザインしてMISOMARUを一つ中に入れてイベントにいらした来場者に配っていただきました。
コラボレーションはこれからも、とても力を入れていきたい分野です。私自身の創造力とMISOMARUの可能性を広げてもらえる大きなチャンスだと思います。
…これからどのようなことにチャレンジされていかれる予定ですか?
プロダクションの大半を日本へ移す準備を進めています。
お味噌の味だけではなく、作っている方の人間性、情熱をもってお味噌づくりに取り組んでいらっしゃるみそ蔵さんと一緒に日本の素晴らしい味噌を世界に広げるお手伝いができればと思っています。
…仕事のやりがい、喜びについて教えてください。
現在MISOMARU店舗はなく、インスタグラムなどを通じて、世界中の人から連絡をいただいたり、チャンスをいただいてきました。
ソーシャル・ネットワーキング・サービスだけで、お味噌を通じて、世界中のたくさんの方と繋がれることは嬉しいですし、素晴らしいことだと思います。
仕事のやりがいとしては、自分の表現することで新しい可能性が見えてくる瞬間にとてもやりがいを感じています。
…仕事をしていく上で大切にしていらっしゃることは何ですか?
大きなものに巻かれないで、自分の良さは自分で認めてあげるようにしてきました。
どうしても外に評価を求めがちになりますが、そのことで自分の考えが揺らいだり、心配や不安になることもあります。
「うまくいかなければ変えればよい」と思うくらいの楽な気持ちで、自分を信じて進んでいくようにしています。自分のブランドの信者は自分なのですからね。(笑)
…アメリカで仕事を探されている方へメッセージをお願いします。
スキルよりも自分の好きなこと、夢中になれることを見つけてみてください。
これからの世の中は今までになかったユニークな仕事がたくさん生まれてくるように思います。
○○職のように枠にはめずに、いまあるものにこだわらずに、自分で仕事を作り出していくくらいの気持ちで、自分の好きなことに熱中してみてください。きっと道が開けるかと思います。
…ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
【取材協力・お問合せ】
谷川紀代美さん(Kiyomi Tanigawa)
Creative Director
MARU Brooklyn, Inc.
https://www.brooklynmisomaru.com
Instagram:brooklyn_misomaru
【取材・文】
QUICK USA, Inc.
菰田久美子(Kumiko Komoda)
Email:quick‘@919usa.com