近年、急速なAI技術の発達によって、従来は人間が担ってきた仕事の一部をAIがこなせるようになってきました。これから先の時代に「AIによって代替されない、人間だけが発揮できる能力」とは、いったいどのようなものでしょうか。またAIと共存して仕事をしていくために必要となる能力やスキルについても考えていきたいと思います。
1.AI(人工知能)とは
AI(人工知能)とは「Artificial Intelligence」の略称で、一般的には自ら学習する機能を持ったコンピューターのことを指します。また人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラムや人間が知的と感じる情報処理技術の総称でもあります。
2.AIが得意な3つのスキルについて
AIは大きく分けて3つの得意なスキルがあります。
機械学習・ディープラーニング
機械学習とは、大量のデータを分析することにより、コンピューターが特徴や区別などを見つけ出す技術のことです。ディープラーニング(深層学習)は、機械学習をさらに進化させたもので、人間の脳の構造と似ているニューラルネットワークを使用し、人間の助けを借りずにコンピューター自らが学習していきます。
音声認識・画像認識
AIは音声や画像のデータを分析・生成をすることが可能です。音声データを分析して自動で文字起こしを行ったり、人工的な音声を作り出したりすることができます。また画像に何が写っているのか自動で判別したり、読み込んだデータから新たな画像を生成することも可能です。
自然言語処理
大量のテキストデータをAIが分析する技術のことを自然言語処理(NLP)と言い、人間が普段コミュニケーションに用いている言葉(自然言語)を対象として、それらの言葉が持つ意味を解析し処理します。これにより、質問に答えたり画像や音声を生成することが可能になります。なお、自然言語処理にはAI技術だけでなく、言語学の要素も必要になります。具体的には、翻訳技術や文章添削サービス、チャットボットなどへの応用が可能です。
3.AIをとりまく現在の状況
67カ国に3万人以上の従業員を抱える世界的なコンサルティング企業であるマッキンゼー・アンド・カンパニーは「AIが社会をどのように変化させるか」といった観点について長期にわたって分析しています。2017年に公開されたコラムでは「人類は『技術的失業』に直面する可能性があり、富の生産をAIやロボットが行って、富の分配が重要になる社会が来る可能性が高い」と予測していました。
また、同年にマッキンゼーが世界46カ国の800の職業について調査した結果によると、「最大8億人の労働者が2030年までにロボットによる自動化の影響を受け、職を失う可能性がある」ということが指摘されています。
4.AIやロボットによってなくなっていくと予想される仕事
それではどういった職業がAIやロボットによってなくなっていくと考えられるのでしょうか?これに関してはパターン化できる業務が多い仕事はAIに奪われる可能性が高いと言われています。具体的には業務効率化の視点から、下記のような仕事では将来的に人間が不利な立場に追い込まれると予測されています。
一般事務
データ処理や入力はAIの最も得意とする分野です。紙で受けつけていたものがフォーム入力になるなど工程もデジタル化へシフトしており、ルーティン作業はマニュアル化しやすく人間よりもAIの方が正確かつ迅速に遂行できるため、代替される可能性は高いと言えるでしょう。
窓口業務
窓口業務でもAIの活用が行われてはじめています。住民からの電話問い合わせについて、簡単な案内や情報提供であればAIがいったん対応し、そして、職員は複雑な案件のみ対処することで、職員の負担を増やさずにサービスの質を全体的に向上させるなど、AIチャットボットによる応答が電話窓口業務に導入されています。また、一部の銀行などでは融資業務でAIが活用され、これにより従来より簡単かつスピーディに手続きを行うことが可能になりました。
警備員
センサー技術や監視カメラ技術の進化により、24時間365日一定レベルで監視することが可能になりました。不審者をセンサーやカメラで感知してコントロールセンターに通知させるシステムがすでに多くの設備で導入されています。また、大型商業施設などではルートをインプットして巡回させる警備ロボットなどもすでに稼働しています。人間と違って疲れや眠気により警備の精度が低下する心配もありません。
トラブルを感知できても対処ができなかったり、ロボットが壊されたりするリスクや電気系統のトラブルによる停止もあるため完全機械化はまだまだ難しそうですが、将来的にはかなりの割合を機械が代替していくと見られています。
コンビニやスーパーの店員
スキャニング技術の向上や電子マネーの浸透などにより、無人コンビニなどの試験運用が始まっています。レジだけでなく在庫管理やイベント・天候などによる売れ筋の変化の把握などもAIの方が正確で素早く、膨大なデータ管理も確実に行うことができます。将来的には単純なレジや品出しは機械化され、人数を絞って顧客対応など人がやるべき業務に集中していくことが予想されます。
またECの普及により小売店そのものが減っていき、インターネットでの通販がより一般化し、AIが個人に合わせた商品提案などを行っていくことも予想されています。
ホテルのフロントや受付係
ホテルの受付業務などはタッチパネルでの受付など機械化しやすい業務の一つで、すでにロボットがフロントに立つホテルも誕生しています。
また自動精算機の導入により早朝や深夜のチェックアウトにも人手が不要になっていっており、さらにAI搭載のタッチスクリーンで建物内の行きたい場所までのナビゲーションや音声認識でのチャット対応も可能となることが予想されるため、人が対応する必要はなくなっていきそうです。
タクシー運転手、鉄道運転士・車掌
自動運転技術が進化し、人を感知して止まるなどは一般的な車にもすでに搭載され始めています。今後AI自動走行に向けた技術開発はますます加速し、安全性が担保されて普及が進めば運転の仕事は範囲が限定されていく可能性があります。またモノレールなどではすでにATO(自動列車運転装置)が導入されています。安全確保や天災などの非常時対応のため完全に無人化することは難しいかもしれませんが、運転士の作業負荷は大幅に軽減されるので、これまで車掌が行ってきた業務を運転士が担うことも十分考えられます。
工場勤務者
オートメーション化しやすい単純作業は、疲れることもヒューマンエラーもない機械の得意とする業務です。AI技術の発達により、人工知能を搭載したロボットアームやセンサーによる不良品や異物混入の発見や検品や在庫管理などを自動化することにより品質向上やコスト削減、安全性の向上などのメリットが生み出されています。簡単な作業のみならず、ベテラン技術者の技能をディープラーニングで学習させてデジタル化するなどの動きもあり、ほぼ無人の工場が誕生する日もそう遠くないかもしれません。
建設作業員
慢性的に人手不足が深刻な問題となっている建設業界でも画像認識技術やドローンを活用することで、工事の進歩の具合を判定したり、クレーンや掘削機などにAIを搭載し自動で操縦するなどの技術利用は始まっており、積極的にAI活用に乗り出しています。
また自然災害により安全性への関心も高まっているため、建物の安全性の確認やシミュレーションなどにもAIが利用されています。
5.AI時代にどのような能力を身につけていくべきか
これまで見てきた通り、AIはめざましい進化を遂げていますが、もちろんAIは万能ではなく、人間にしかできないことも、まだまだ数多くあります。
AIは膨大なデータからプログラムにそった回答を出すことはできますが、臨機応変な判断や活用を行うことはできません。また、プログラムによって得られた回答をどのような課題にどう生かすのかを考え、新たな価値を生み出すのは、まだまだ人間の役割といえます。
そして、そうした過程で必要になるのはコミュニケーションです。一人で考えるのには限界がありますが、議論を通して知識や価値観をミックスさせることで、新しいアイデアの創出やイノベーションを起こすことが可能となるのです。AIが苦手な「判断」「共感」「臨機応変な対応」「0から1を生み出す」「コミュニケーション」などのスキルを磨くことがAI時代に重要なポイントとなるでしょう。
6.AI時代に残っていくと考えられる仕事
AI時代には基本的にはAIの苦手とするマネジメント系、ホスピタリティ系、クリエイティブ系、クラフトマン系、そしてAIそのものを開発するテクノロジー系の仕事は残っていくと考えられています。では具体的にどのような仕事が「なくならない仕事」となるかみていきましょう。
医者
医者の仕事は人の命を預かるため責任が大きく、専用の機器を使った繊細で複雑な手作業が求められるため完全機械化は難しく、またAIに診断されることに対する患者の心理的抵抗感も大きいため、人の手を完全に離れることは当面なさそうです。この分野においてAIは膨大なデータを解析して治療計画を立てるなど、あくまで医者のサポート役としての活用が期待されます。
看護師・介護士・保育士
看護師や介護士・保育士も臨機応変な対応が求められる仕事です。常に患者や利用者、子供たちの状態を把握し、ちょっとした変化にも気づいて判断し、対処する必要があります。また温もりのある「人」が寄り添うからこそできる共感や励ましなど、精神的なケアを担うことも期待されるため、ロボットや機械には代替することは難しい仕事であるといえます。
特に高齢化が進むと人手不足が懸念されるため、業務を部分的にAIがサポートしたり、ロボットが介助作業を補うなどといった動きは拡大していくと思われますが、看護師や介護士・保育士の仕事がなくなる可能性は低いでしょう。
教員
教師の仕事はただ情報や知識を教えるだけでなく、生徒それぞれの良さを引き出したり、社会との関わりや人間関係において大切なことを教えたり、進路など目標を一緒に考えてモチベーションを上げるなど、人間形成に関わるとても重要な役割を担います。機械の苦手とするコミュニケーションが日々の業務に必須であり、日々変化する生徒の状況や気持ちを踏まえた対応はパターン化も難しいため、AIが代替する可能性は低いと思われます。
営業・コンサルタント
問い合わせに24時間自動応答が可能なAI搭載のチャットボットの精度はどんどん上がっており、また購入履歴や属性などを解析したリコメンド機能も一般的に活用されるなど、単純なご用聞きとしての営業職の役割はAIに代替されていっています。
しかしクライアントの要望に応じてカスタマイズしたり、抱える課題を発見して解決のために提案するなど、「提案する」力や「相談に乗る」力はまだまだ人間の方が優れています。お客様の表情や会話などからニーズをくみ取って提案する、状況に合わせたフォローをするなど、きめ細やかなサポートができる信頼される営業職であれば、当面AIに仕事を奪われることはないでしょう。
カウンセラー
人が言葉にしていることと本当の思いは別であることも多いため、クライアントの本音を引き出し、感情を理解することはAIが苦手とする分野です。カウンセリングにはとても高度なコミュニケーションスキルが必要となります。
データに基づいた的確なアドバイスを手軽にもらいたいという場合はチャットボットのようなツールで十分、というケースもあるかもしれませんがAIがどれだけ言語処理能力が高くても、人が相談したい、話を聞いてもらいたいと思う相手はAIではなく人であることも多いため、代替されにくい仕事であるといえるでしょう。
データサイエンティスト
データサイエンティストは意思決定の局面においてデータを活用して合理的な判断を行う、ビジネスとITの両方の知識が求められる専門職です。
つまりAIが集めてくる膨大なビッグデータを解析し、その中から価値ある情報を読み解いて活用する仕事であり、創造力や発想力、提案力が必須となります。AIにはバラバラに集められたデータを構造化し、意味を与えて戦略的に活用することはできません。将来的には可能となるかもしれませんが当面データをクリエイティブに活用して0から1を生み出すのは人間の役割になりそうです。
クリエイター
AIはプログラムされた通りに筆を動かしたり演奏したりすることはできてもゼロから新しい価値を生み出すことは不得手です。独自のコンセプトを打ち出したり感性に訴える表現をすることは機械にはまだまだ難しいでしょう。
新しいものや価値を生み出すクリエイティブな発想や創造力は人間特有のセンスであり、既存のものを組み合わせることはできても、素材が全くない状態から創造することは機械にはできない仕事だといえそうです。
7.AIを使いこなせる人材になるには
これまではAI人材というと、「AIを作る」専門家に注目が集まりがちでした。ですが、今後AIが社会にどんどん浸透していくことを考えると、「AIを使う」人材が必要になります。現状では「AIを作る」人材は増えていても、「AIを使う」人材の育成が追いついていない状況です。今、社会においては、AIを理解し的確に使うことのできる人材が決定的に不足しているのです。
AIを使いこなせる人材になるには理系AI人材が学ぶアルゴリズムやプログラミングの知識がなくても、まずはAIについての基礎知識や、種類、仕組みなどを学び、実際にAIが使われている場面でどのようなAIが使われているかわかるようになることが大切です。
AIは機能別に大きく分けると、見て認識する「識別系」、会話する「会話系」、考えて予測する「予測系」、身体(物体)を動かす「実行系」の4タイプに分かれてますが、例えば動画サイトなどで、自動運転が可能な自動車には実行系のAIが使用されているな、などとAIがどのように自分の周囲で使用されているか理解できる能力を磨きましょう。
こうした知識をしっかり身につければ自分の周囲で使われているAI について分析をして、アイデアを応用させてAIを自分の職務や会社でどう生かせるか企画できるAI人材になれるでしょう。AIを使いこなすにはAIと前向きに向き合い、きちんと学ぶことが重要なポイントになります。
今回はAIについてさまざまな角度からご紹介させていただきました。これからはますますAIと共存しなくてはならない社会になっていくでしょう。AIと上手に共存するために今回の記事をぜひ役立ててみてください。