アメリカでは、日本からの駐在員として勤務している人やアメリカ現地で採用された人など数多くの日本人が活躍しています。このコーナーでは、アメリカで働く方々に“ハタラク”楽しさや難しさなどをインタビューしご紹介しています。今回は絵本作家&肖像画家としてニューヨークで活躍中の高林さんにお話を伺いました。
ニューヨークでハタラク、絵本作家&肖像画家
高林麻里さん
Mari Takabayashi
Author/Illustrator/Portraitist
https://www.maritakabayashi.com/
温かい、優しい気持ちになってもらえるような、絵本をつくっていきたいと思っています。
まず、絵本作家になられたきっかけについて教えてください。
小さい頃からずっと絵を描くのが好きで、いつも絵を描いていました。日本で短大を卒業した後OLも経験しましたが、絵を描くのが好きでしたので、雑誌などのイラストレーションのお仕事をするようになりました。絵本のイラストを描くきっかけとなったのは、私の個展を見に来てくださった出版社の編集の方から「あなたの絵の感じは絵本に合っているので、絵本に絵を描いてみませんか?」とお誘いを受けたことからです。デビュー作は「だっだ子みきちゃん1ねんせい」(金の星社)という絵本でした。その後いくつかの出版社とも絵本のお仕事をさせていただいて、いまでも当時の編集の方々とお仕事を続けさせていただいています。
ニューヨークでお仕事をされたきっかけは?
いまから30年以上も前ですが、観光でニューヨークに来たんですね。その時にこの街でイラストレーターとして住んでみたいと思いました。私にとって外国に住むということは大挑戦とは思いましたが、どうしても住んでみたいと思い一度日本に帰り、1990年にこちらに住むために準備を整えてから再渡米しました。当時はパソコンなどなかった時代で、仕事をするためにファックスが必要と、ファックスの機械を日本からわざわざニューヨークまで機内小荷物で運んできました。(笑)
ニューヨークで仕事はすぐに見つかりましたか?
はじめは出版社にアポを取って、ポートフォリオを持って自ら売り込みに行っていました。こちらで仕事をしたこともないし、英語もあまりできなかったのに、若いってすごいですね。(笑)でも大抵の場合、出版社の編集者やアートディレクターは会ってもくれず、あなたの絵にぴったりの企画は今のところないけれど、もし出てきたら連絡しますという内容の手紙とともにポートフォリオを返されます。でも売り込みを続けていたら絶対仕事は来ると信じ20社以上まわったと思います。
そして、Houghton Mifflin Companyという出版社から発行された「RUSH HOUR」という絵本のイラストを描かせていただきました。その後、この本は日本語版( 題名は「いってらっしゃいおかえりなさい」)も発売されています。「RUSH HOUR」の仕事はある人から編集の方にご紹介いただいたのがきっかけなんですが、アメリカではコネもとても大切なものなんだということも学びました。
アメリカと日本とでは仕事の進め方で違いはありますか?
一番の大きな違いは、アメリカでは契約書にサインをすることから仕事が始まるということだと思います。契約の内容について確認して、納得できたらサインをします。フィーについても仕事をはじめる前にきちんと契約書で取り決めを行います。アメリカでは良い意味でも、悪い意味でも、とてもビジネスライクに仕事がはじまり進んでいくのが特徴的だと思います。
絵とお話共に手がけられた作品について教えてください。
日本、アメリカ、韓国で、これまで50冊くらいの絵本をつくってきましたが、お話とイラスト共に手がけたアメリカでの最初の作品は「I live in Tokyo」という絵本です。日本の文化に関する絵本で、日本の日常的な生活や伝統行事などを文章とイラストで紹介しています。日本のカルチャーの絵本として、アメリカの図書館や学校などでも所蔵されています。また、この本はフランス語にも訳されたとても思い出深い本の一冊です。
その後、「I live in Brooklyn」という本も絵とお話と両方かかせていただきました。この絵本は地元でベストセラー、ロングセラーとなり、初版から10年以上も経っていますが、いまでもニューヨークの本屋さんに置いていただいています。
最近手がけられたのはどのような絵本ですか?
2年前、偕成社から出版された「おたすけやたこおばさん」という絵本です。この本は絵とイラストの両方かかせていただいています。ストーリーは人間の世界に憧れていた、たこおばさんが、ある日海から上がって人間の世界で生活することを決意するんですね。でも、人間の世界を歩いてみると、「ぬめぬめしてる。こっちに来ないでほしいわ」とか、みんな気味悪がって近くに来てはくれません。それでも、たこおばさんはくじけず、おたすけやの仕事をはじめます。そんなある日、小さな女の子からお友達をつくりたいという依頼を受けます。「はーいはい、わかりました」と言ったものの、その後「私だって、友達ができなくて困っているのに」と考え込んでしまいます。でも翌朝には元気に女の子の家に出かけていき、女の子が友達ができるように奮闘するというお話です。
この本は、学校などで読み聞かせをよくしていますが、子ども達に「たこおばさんが嫌われるのは、たこおばさんが悪いの?みんなもたこおばさんが歩いていたら、やっぱりこっちに来ないでって思う?」と質問し答えを考えてもらうようにしています。人と違っているからといって、外見で判断したり、差別するのはよくないということをこの本を通じて、一人でも多くの子どもに考えてもらえたらと思っています。
また、たこおばさんは人間たちに冷たくされて、すごく落ち込むのですが、くじけません。翌日には、おたすけやのチラシを作り掲示板に張りに行きます。めげずに頑張り続けると絶対何とかなるよということや、とにかく明るく前向き、そして愛に溢れているキャラクターということも伝えたかったことです。
どのような気持ちで絵本をつくられていますか?
常にマイノリティの見方でいたいと思っています。群衆の絵を描く時は、すべての肌の色の人達を入れるようにしていますし、車椅子に乗っている子どももいます。色々な人が共存している世界、それが私達の社会です。絵本の世界でも同じです。絵本は、すべての子ども達に読んでもらいたいですし、誰でも絵本の中に自分を見つけてもらいたいとも思っています。読んだ後に、温かい、優しい気持ちになってもらえるような本をつくりたいと思っています。
肖像画も描いていらしゃるそうですが。
2年前に生まれて始めて犬を飼いはじめたんですが、とてもかわいくて自分の犬の絵を描きはじめました。そのうちに、お友達から描いて欲しいと言われるようになり、どんどん噂が広がり、色々な人から依頼されるようになりました。絵本作家が描く肖像画というのは、ちょと珍しかったのでしょう。
ペットとご一緒の絵、ニューヨーク生活の思い出となるような絵、お子さんの絵など、今ではリクエストに合わせて肖像画を描かせていただいています。絵本や雑誌の仕事とは違い、個人の方とのお仕事となりますので違った意味での緊張感があります。いつも心をこめて、真剣に描かせていただいています。絵をお渡しした時にみなさんの喜んでいらっしゃる様子のお顔を見るのはとても嬉しいです。
学校でアートを教えていらしゃるそうですね。
ブルックリンの公立の学校のアフタースクールプログラムで、幼稚園から5年生までの子ども達を対象に週1日絵を教えています。じっとしていることができない小さな子ども達ですので、なかなか大変ですが、絵を描く楽しさをたくさん経験してもらえたらと思っています。絵を描いている時間は誰にとっても癒しの時間やエスケープの時間にもなります。落ち着いて絵に向かう時間をもてるようにしてあげられたらよいなとも思っています。
高林さんのこれからの夢について教えてください。
絵を描くということは私にはなくてはならないもので、ライフワークです。今日には今日しか描けない絵があると思っていますので、常に「一期一会」の気持ちで絵を描いています。絵本、肖像画、銅版画、テキスタイルなど、絵の形は違っていても生涯自分の作品を発表し続けていきたいです。
【取材協力】
Mari Takabayashi
https://www.maritakabayashi.com/
E-mail:maritakabayashi@gmail.com
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菰田久美子
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