アメリカでは、日本からの駐在員として勤務している人やアメリカ現地で採用された人など数多くの日本人が活躍しています。このコーナーでは、アメリカで働く方々に“ハタラク”楽しさや難しさなどをインタビューしご紹介しています。今回はニューヨークの「OKONOMI/YUJI RAMEN/ RAMEN OMAKASE」のオーナー&シェフの原口さんにお話を伺いました。
周りの人達の夢をかなえるお手伝いを、していきたいと思っています。
原口さんのお仕事について教えてください。
ブルックリンのウィリアムズバーグで「OKONOMI/YUJI RAMEN/ RAMEN OMAKASE」という和食レストランを経営しています。うちの店では、東海岸で獲れた天然魚だけを使った一汁三菜の定食を朝ごはんとしてお出ししていますが、魚は毎日変わります。というのは、魚は鮮度を一番に重視してフルトンフィッシュマーケットから魚屋さんに持ってきてもらうようにお願いしているので、日によって入ってくる魚が違うというわけです。漁は天候などに左右されますので、自分達が魚を選ぶのではなく、自然が与えてくれるものを調理するのが一番自然で理想的な形だと思いそのようにさせていただいています。
朝の定食が終わった後、夕方からはラーメンがうちのメニューとなります。ラーメンのスープは朝さばいた魚のあら、コブ、オーガニックの豚やチキンで丁寧につくっています。一尾の魚の身は定食の焼き魚になり、あらなどの副産物は無駄なくスープの材料になります。「もったいない」という考えを基本に、魚一尾を無駄なく使うためにも、うちでは定食とラーメンのどちらもないとだめなんです。土、日には4組限定でティスティングコースを提供していますが、こちらも平日に使った魚に白子が入っていれば、このコース料理で使うなど、あるもので最大限のパフォーマンスが生まれるような料理の工夫をしています。世の中で、捨てられてしまっている良いものを無駄なく使うこと。ゴミをなるべく出さないこと。この二つが私達の料理の哲学です。
現在のお店をオープンする前はどのような仕事をしていましたか?
交換留学から編入してオレゴンの大学を卒業した後、一旦日本に帰国したんですが、自分のレストランをもちたいという夢をかなえるため、ボストンにある魚の卸が中心の食品商社に営業として就職しました。フード関係の仕事を通じて魚や食材のことを学びたかったんですね。いまのお店で鮮度重視で魚を仕入れているのもその時の経験から学んだことです。当時は、レストランに行くことがあれば、商談をしながらシェフの魚のおろし方などを見て勉強していました。そして、家に帰ってから見てきたことを思い出しながら、魚をさばいて料理していました。初めておろした魚は平目で、初心者にとってはとても難しくてかなりてこずったことを今でも覚えています(笑)。
商社時代はどのように仕事をされていたのでしょうか?
自分は負けず嫌いなんですが、誰にも負けたくないと思う気持ちはビジネスでは大切だと思います。日常の仕事ってフィジカルにこなすことが多いですよね。でも、体を動かしながらも「何を考えているか」でかなり違ってくると思います。先輩がたくさんいる中で成績を上げていくためには、自分ができて彼らのできないことは何かをいつも考えていました。魚を売りながら、よいものがゴミとして捨てられていくのを見て、何とかうまく使える方法はないものかといつも考えていてお客さんに提案したりしていました。そのうちに全米でトップの成績をおさめるようになって、よい案はお客さんに提案するよりも自分でやったほうがよいなと考えるようになりました。
そして、現在のお店をオープンされたのですか?
いえ、最初はポップアップから始めました。週に3日くらいバーフードで料理をサーブしたのがはじまりです。その後、ブルックリンの屋外フードコートで有名な「スモルガスバーグ」でお店を出していたところ、「ホールフーズマーケット」からフードセクションに出店してみないかと誘いを受け、2013年にハウストン・ストリートの店の2階に「Yuji Ramen」を開店しました。当初は1カ月の予定で始めましたが、お客様からの評判がとてもよくてセミパーマネントの契約となり、さらにブルックリンのホールフーズにまで出店するようになりました。結局、ホールフーズでは1年半店を続けました。
その頃のメニューは、いまのお店と同じですか?
「ホールフーズ」でのメニューは「混ぜ麺」でした。スープのない麺にベーコン、魚介類などの具材をトッピングするという商品です。これは、「寿司の裏巻き」の発想をラーメンに応用したものです。寿司の裏巻きというのはカリフォルニアロールに代表されるように、海苔が内側でご飯が外側に巻かれた巻き寿司です。70年代、日本食ブームでアメリカで寿司が流行った頃、アメリカ人にとっては海苔が外側の巻き寿司は見た目が黒く気味が悪いということで敬遠されていました。であれば、黒い海苔を中に巻いて白いご飯を外側にすればよいと考えた人がいて、裏巻きがとても人気になりました。まさに発想の転換ですね。
「混ぜ麺」はアメリカ人にとって馴染みのあるスパゲティなど、スープのないパスタ料理にヒントを得て、ラーメンをスープなしで提供したらラーメンに馴染みのないアメリカ人にも受け入れてもらえるのではないかと思いつき生まれました。具も、ベーコン、魚介類など既存のラーメンの具とは全く違うオリジナルなものでした。「混ぜ麺」は、またたく間にニューヨークの人達の間で評判となり、地元のメディアにもたくさん取り上げていただくようになりました。
ビジネスを成功させるコツみたいなものはありますか?
お店を開ければ人が来ると勘違いしている人がいますが、お客さんはつくるものです。お客さんを呼ぶのって難しいですよ。できれば、お店を開店させる時にはすでにお客さんがいるという状態が理想的だと思います。自分の場合、ポップアップというスタイルから始めたことがとてもよかったと思います。商品のテストにもなるし、お客さんもできます。そこで成功しなかったらお店を開けても成功しないと思います。あと、限られたリソースでなんとかしようとするパッションがあるので、自分の周りでもポップアップから始めて成功している人は多いです。
近々、魚屋さんをオープンされると聞きましたが。
今年の8月のオープンを目指して「OSAKANA」の準備をしています。場所はここから一つ隣の駅のグラハムアベニューです。「料理人が経営する魚屋さん」として、魚の調理方法、保存方法など魚について何でもアドバイスできるお店です。魚はレストランと一緒で、東海岸で獲れた天然魚です。
魚については、商社で働いていた頃から、大金をかけて空輸したマグロやサケなどがレストランで大量に消費されているのに、新鮮で美味しい地元の魚があまり食べられていないことが不思議でたまりませんでした。本マグロも東海岸で獲れるんですが、意外と知っている人は少ないです。新鮮で美味しい地元の魚をもっと身近に感じていただけるようなお店になります。魚のおろし方を勉強したいという方には、教室を開いていく予定です。魚を中心としたちょっとしたコミュニティ形成をイメージしています。
「OSAKANA」はとてもユニークなお店と伺っていますが。
「OSAKANA」は他の魚屋さんと全く違うクオリティ、展示方法、サービスを提供するお店になります。きれいな切り身の魚を、他のお店では見たことのないような陳列方法で販売していきます。こちらの魚屋さんでは、魚の扱い方や料理方法もわかってない人が売っているケースが多いんですね。よくあるのは氷の上に魚を重ねて陳列している方法。しかもふたは開けっ放し。あれでは魚の鮮度が損なわれるし、身が乾燥してしまいます。また、氷にふれているのは一番下の魚だけで、バクテリアの繁殖を増長させてしまいます。
私達の目指している魚屋では、魚のクオリティや鮮度をできるだけ保てるよう、温度や湿度がコントロールでき、魚をなるべく空気に触れさせないよう引き出し型のイタリア製の冷蔵庫を使います。アメリカではもちろんのこと、日本でも見たことのないような美しい魚がディスプレイされた魚屋が誕生する予定です。
原口さんにとっての仕事のやりがいについて教えてください。
自分のやることで人が幸せになってくれることがやりがいです。お客さん、スタッフ、自分に関わる全ての人達が自分がやりたかったことを実践してくれて、それが彼らのやりたいことだったというような仕事をやっていきたいです。自分だけがやりたいことをやっていたらビジネスになりません。お金を出してくれるお客さんにとって得なことでなければビジネスは成り立たないんですよね。例えば、自分は会計のことはできないので会計士さんにお願いしていますが、自分ではできないことを助けてくれて、しかもその時間を他のことにあてることができます。料理を提供するのも、同じことだと思っています。また、これまで誰もやっていないことを自分が手がけて、成功させるということも自分にとっては仕事のやりがいです。
仕事をしていく上で何か大変なことはありますか?
大変なことというか、仕事をしていて私が一番気を使っていることはチームづくりです。採用する時もトレーニングする時も一番気を配っています。現在のコアのメンバーは、まったくフード業界と関係ない職場からキャリアチェンジしてきた人ばかりです。みんな夢をもっていて、今の仕事をしてくれています。その夢がどれだけ本気なのか。自分を信じ、やりたいことに対する熱意が大きければ、できないことはないと思います。ニューヨークは夢を実現させる機会がある街だと思います。
これからの抱負や夢について教えてください。
自分の夢をかなえるために、これまでたくさんの人達に助けられてきました。これからは、スタッフ、お客さん、友人達など周りの人達の夢をかなえるお手伝いをしていきたいと思っています。やりがいでもあるんですが「人が幸せになってくれる」ことがいまの自分にとって喜びです。
ここで販売している陶器もそうなんです。友人でもあるアメリカ人の陶芸家がつくっているんですが、彼はいまでは日本でも数少なくなった薪を使った薪窯で焼き物をつくっています。ニューヨークの周辺には陶芸家が結構いて、コネチカットにはなんと登り窯まであるんです。そういう人達から自分のところにコンタクトがきたりするようにもなりました。
日本の文化の中で育っていない彼らのギャップを埋めたり、彼らの素晴らしい作品を売る場をつくっていきたいと思ったのが、陶器市のはじまりでした。定期的に開催しているんですが、彼らが陶器をつくるモチベーションにもなっています。夢をもっている人は自然とつながっていきます。共感する人は自然とついてきてくれます。そういう人達とだけこれまで仕事をしてきたし、これからもそうしていきたいと思っています。
【取材協力】
「OKONOMI/YUJI RAMEN/RAMEN OMAKASE」
150 Ainslie St. Brooklyn NY 11211
Email:info@okonomibk.com
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【取材・文】
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菰田久美子
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