近年、「結びつき」や「つながり」の強さを指す「エンゲージメント」という概念が、ビジネスの領域にも浸透してきました。従業員の職場におけるエンゲージメントの向上は、企業のパフォーマンスを改善することにダイレクトに結びつくからです。
エンゲージメントが高い職場とは従業員が会社に対して「愛着心」や「思い入れ」を持ち、従業員と企業が一体となって相互に成長し合い、絆を深めているよい状況を指します。
就職・転職の際に従業員のエンゲージメントが高い職場を選択することは、就職後の人生に大きな影響を与えます。今回は最近のアメリカビジネスシーンにおけるエンゲージメントの傾向、就職や転職に役立つ従業員のエンゲージメントが高い職場の特徴や具体例、そしてその選び方をご紹介します！
アメリカの従業員のエンゲージメントの低さは2015年以来最低に！
昨年のアメリカの世論調査及びコンサルティングを行う企業であるギャラップ社の発表によると、米国の従業員のエンゲージメントはますます雇用主から離れており、2015年以来最低の水準に達しています。
こうした従業員エンゲージメントの低下は、特にリモートワーク、ハイブリッドワーク、若年層で顕著であり、2023年時点で仕事に満足し熱意をもって従事していると回答した従業員は33％でした。
調査によると従業員の企業に対するエンゲージメントの低さは、職務の不明確さ、組織に対する満足度の低さ、会社の使命や目的とのつながりの薄さ、また職場内で誰かが自分のことを気にかけてくれていると感じる割合の低さなどに起因することが明らかになっています。2024年第1四半期もこの減少傾向は続いており、従業員のエンゲージメントは正社員、パートタイム社員ともに3ポイント低下して30％となりました。
ちなみに日本企業における従業員ののエンゲージメントはギャロップ社の調査によると139か国中、132位となっており、熱意がある社員の割合は5%で世界でも最低ランクとなっています。
従業員のエンゲージメントが低い企業はこうなる！
業績の低下
企業への従業員のエンゲージメントが低下すると、従業員が仕事に対してやりがいを見出せず、ネガティブな発言やマイナス思考、無気力といった状態で仕事をしていることが多くなり、企業全体のパフォーマンスの低下につながっています。
従業員の離職増加
また企業に対する従業員のエンゲージメントの低さは従業員の離職に直結してしまいます。従業員の在籍する企業で働き続けたいという心理的価値が低くなっているため、給与や立地条件などが良くても、やりがいを求めて他の仕事や志の高い企業に人材が流出してしまうのです。
こういった従業員のエンゲージメントが低い企業は業績悪化から、人件費が削減されたり、また離職による人員不足から従業員の業務負担が増えるなど悪循環に陥いってしまう傾向にあるため、就職や転職をする際には避けるべき企業となっています。
従業員のエンゲージメントが高い職場の特徴
一方、従業員のエンゲージメントが高い企業は下記の様な特徴を持ちます。
1.企業の明確なビジョン
従業員のエンゲージメントが高い企業は、社員にも、株主・顧客・取引先など社外のステークホルダーにも周知できる、明確なビジョンを持っています。そして、企業が目指す方向性について経営陣はもちろん、社員からも共感を得ているのが特徴です。社員全員が納得のできる明確なビジョンの存在は、皆が同じ方向を向き社内に一体感を生み出すのに役立ちます。
2. 強いリーダーシップと良好なコミュニケーション
従業員エンゲージメントが高い企業では、優秀なリーダーが企業のビジョンを明確に理解し、従業員とのコミュニケーションを重視しながら組織の方向性を示し、チームや個人をサポートしています。双方向でオープンなコミュニケーションを実現できることで、業務進捗の共有やフィードバックがしやすくなって業務がスムーズに進行し、従業員が仕事により周囲に貢献でき、職場が自身に合っていると感じられます、また従業員が仕事に対して「こうありたい」と感じる願望が達成されやすくなっています。
3. 働きやすい環境
従業員エンゲージメントが高い企業は、働き方への選択肢があり、労働時間に対しても柔軟な対応をしてくれるなど、働きやすい職場環境が整っています。また、仕事に対して適正な評価が行われ、それに見合った報酬システムが構築されているのも大きな特徴です。さらに従業員に対してキャリアサポートや福利厚生も充実している傾向があります。こうした環境では従業員のモチベーションやパフォーマンスが向上し、企業の目標達成も実現しやすくなります。
従業員エンゲージメントが高い職場の選び方
企業の理念（ビジョン）は明瞭ですか？
企業理念とは、企業の活動方針の基礎として位置づけられる考え方です。企業として何を大切にしているか、価値観や存在意義を言語化したものが企業理念です。企業のビジョンは企業ホームページ（会社情報・人材募集ページなど）、会社案内パンフレット、決算資料など投資家向け情報で確認することができます。就職、転職を希望する企業がどういったビジョンを持っているのかしっかり確認しておきましょう。
働き方に選択肢があり、労働時間に対して柔軟な対応をしていますか？
従業員の時間的、身体的な負担を減らすためにリモートワークやテレワークが導入されているかチェックしましょう。企業が従業員に対して柔軟な労働時間を提供することは、働きやすさに繋がります。近年は、労働者がワークライフバランスを重視する傾向が強まっているため、フレックスタイム制を導入する企業が増えています。早出や遅出、時短勤務など自分の都合に合わせて働ける環境を整備されているか確認しましょう。
仕事への適正な評価と報酬が達成されていますか？
従業員にとって働きやすい環境とは、上記のような物理的な要因だけではありません。自分の仕事や成果に対し、適正に評価されているかどうかも重要な要素です。
企業によっては評価基準・評価シート・評価手続きなどを公開し、結果がどのように賃金や処遇に反映されるかを明らかにしています。就職や転職を希望する企業がウェブサイトや社内報などの公開情報で人事評価方法や報酬体系を公開していないかチェックしてみましょう。
公開されてない場合は、面接や選考プロセス中にも、直接人事担当者や面接官に質問することで、詳細を尋ねることも可能です。
キャリアサポートや福利厚生は充実していますか？
従業員のキャリアサポートや福利厚生の確認も重要ポイントの１つです。従業員のキャリアサポートには、研修やトレーニングの実施だけではなく、キャリアカウンセリングやメンタルサポートなども含まれているかチェックするのもおすすめです。
また福利厚生は、社会保険や退職金制度以外にも、各種有給休暇制度の充実や子育て支援、健康支援などがあります。女性にとっては産休や育休制度がどうなっているかも重要チェックポイントですよね。企業それぞれの福利厚生制度をしっかり確認しておきましょう。
企業のリアルな情報をゲットしましょう！
各種制度や社風などの情報は、企業サイトや採用情報サイトなどから入手することができます。ですが、外部から見る光景と中に入って見る光景にはギャップがあるものです。制度があっても実際に中で機能していなければ意味がありません。社内における制度は使いやすいのか、実際に使っている人はいるのか。職務において男女格差はないのか、女性も昇進しやすいかなど、外部からはわかりにくいことも多くあります。
企業サイトや採用情報サイトなどで紹介されている情報をうのみにせず、企業のリアルな情報を得ることをおすすめします。説明会や面接で積極的に質問するのもよいですし、SNSが普及している現在では、応募前に企業の内情を知ることも可能です。
企業のレビューをみたり、応募を考えている企業があれば、SNSのネットワークをたどってその企業のトップや働く人たちにアプローチするのもよいでしょう。ダイレクトメッセージを送ったり、直接やりとりはしなくても、現在、その企業で働く方々のSNSをフォローしたりすることで、日常の投稿からリアルな企業の様子が見えてくるかもしれません。
従業員エンゲージメントが高い企業の具体例
★アドビ
クリエイティブ・ソフトウェア企業のアドビは、世界を変える革新的な製品を生み出すという理念に基づいて設立されました。
アドビは、人々に創造力を与えるテクノロジーを提供すると同時に、従業員のエンゲージメントも大変重視しており、従業員に冬休みと夏休みを提供することで、ワークライフバランスを促進しています。さらに、各従業員には最高600ドルのウェルネス基金と、5年以上在籍している社員を対象に4週間の有給休暇（サバティカル休暇）を提供しています。
さらに、アドビは、社会的地位の低いグループの社員がキャリアを成長させることに注力しており、そうした社員がリーダーシップスキルを身につけ、会社の中の他の社員と幅広くつながることができるようなプログラムを提供しています。
★パタゴニア
カリフォルニアに本社を置くアパレル会社のパタゴニアは、ポジティブな職場文化を築き、社員のエンゲージメントを促進するためにさまざまな制度を提供しています。
アメリカの企業の中でも先駆けて育児中の従業員のために託児所を作ったり、公正な報酬と手厚い医療保険、柔軟性のある勤務体系の提供、また環境インターンシップ・プログラムに参加するための有給休暇など、優れた福利厚生を従業員に提供しています。
またパタゴニアの社員は、勤務時間中であっても、いつでも好きなときにサーフィンに行ってよいことになっています。従業員のエンゲージメントは高く、パタゴニアの産休後の職場復帰率はなんと100％です。
退職率全体を見ても4〜4.5%と小売業界の中でも群を抜いて低水準であり、こうした数値からパタゴニアの組織文化が多くの社員に愛され、継続的に会社に貢献しようという思いを生んでいるということが伺えます。
パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナード氏は、従業員のエンゲージメントを高める鍵は、「信頼できる人、仕事に情熱を持っている人を雇い、彼らに自発的に仕事をしてもらうこと、そうすれば彼らは物事を成し遂げてくれる 」と考えています。パタゴニアの経営理念は「地球を救うためにビジネスを営む」です。
★エヌビディア
アメリカの半導体メーカーであるエヌビディアの従業員のエンゲージメントは非常に高く離職率は5%未満となっています。フォーブス誌が発表した2023年度の「公正な企業100社ランキング」では第２位を獲得しており、従業員の給与や教育、福利厚生などの項目で、平均を大きく上回る評価を得ています。
人材開発のためには、上司や先輩からマンツーマンで指導を受ける「オン・ザ・ジョブ制度」を採用、公正な判断に基づいて給与や昇進を行えるよう、判断を第三機関に委ねています。2021年度には従業員の11.4%が昇進し、中でも女性の昇進は19.5%にも及んでいます。昇進のスピードに関しても公平性が確保されています。また、フレックス制が採用されていて仕事のスケジュールは従業員の自由な裁量にゆだねられています。
また、エヌビディアには業界でも条件がよいとされる従業員株式購入制度があり、過去5年間で自社の株価が約1200%上昇したことで従業員は大きなメリットを享受しました。さらに多くのオフィスでは、社員の生活負担を減らすため、自動車の保守整備、クリーニング、移動診療など、社内サービスも提供しています。
エヌビディアは企業理念として強く「1つのチーム」を掲げており、社内政治も上下関係もなく、従業員が情報を共有できるオープンな環境を築いています。こうした企業文化は、従業員のエンゲージメントを高め、従業員同士の信頼関係を築き、職場への参加に自信を持たせるのに役立っています。
あなたにとっての働きやすさとは
就職、転職においてエンゲージメントが高い職場を探すことは大切ですが、働く原動力となる要素は人それぞれです。つまり、どのような企業ならエンゲージメントが高い状態で働けるのかは、人によって異なります。
また同じ個人でも人生において職場で何を優先したいかは時期によって異なってきます。キャリアにおける「成長」を重視したい時期もあれば、育児や介護などファミリーケアが必要な場合には「ワークライフバランス」を重視したい時期もあるでしょう。
今の自身にとって働きやすさとは何かを考え、今回の記事を参考にぜひ、ご自分が「エンゲージメント高く働ける環境」を探してみてください！
参考
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/8712
https://www.zavvy.io/blog/employee-engagement-examples
https://doublethedonation.com/employee-engagement-companies/
https://www.gallup.com/workplace/643286/engagement-hits-11-year-low.aspx
https://www.gallup.com/394373/indicator-employee-engagement.aspx
https://www.shrm.org/topics-tools/news/inclusion-equity-diversity/gallup-employee-disengagement-hits-9-year-high
https://www.cnbc.com/2023/01/10/the-2023-just-100-list.html
