2016年、アメリカの求人マーケットは売り手市場といわれています。就職や転職を考えている人にとっては有利な年と言えるでしょう。そこで、アメリカにおける日系企業の求人の動向や採用担当者のマナの声など、QUICK USA, Inc.で営業を担当しているスタッフに話を聞きました。
NY Kunihide Miyazawa × LA Chisato Nakagawa
ズバリ、2016年の日系企業の採用動向はいかがでしょうか?
(中川)ロサンゼルスでは去年も採用はよかったのですが、今年はさらに企業の採用意欲が高まっています。欠員補充もありますが、事業計画があっての増員などの採用が多く、今後に備えて「いい方がいればいつでも紹介して欲しい」と言われることも多くなっています。
(宮澤)ニューヨークも同じですね。4月になりましたが、今年の初めからずっと雇用は堅調に推移していて、欠員のリプレースというよりは上向きの業績に応じた前向きの採用という傾向で、採用意欲の高いお客様も多いです。
採用の多い職種などはありますか?
(宮澤)メーカー、商社など多くの業界で、営業やマーケティングのポジションが多く募集されています。昨年の暮れにバジェットが組めたので、2016年にはアメリカ市場の開拓や既存顧客を厚くフォローするために営業を強化されている企業さんの攻めの姿勢が見受けられます。
(中川)ロサンゼルスでも営業の増員の件でよくご相談を受けています。景気が好調なので、売上、利益に直結する営業職の増員で一気にマーケットを広げようとされていらっしゃる企業さんも多いようです。あとは、ITエンジニアや会計などの専門職のポジションも引き続き積極的に採用する傾向にあるようです。
(宮澤)ITのエンジニアはニューヨークでも需要が高いです。先日、STEMのOPTが最長36カ月まで使用できるというニュースがありましたが、条件さえ整えば理系の学生さんは企業でも採用しやすくなっています。引き続きこの傾向は続くと思ます。
業界はいかがですか?
(中川)LAでは比較的どの業界でも採用のニーズは増加しているようです。中でも「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、アメリカでは再度日本食がブームになっています。和食はヘルシーな食事として70年代からブームが何回かにわたって起こっていますが、これまではお寿司が中心でした。最近はラーメンだったりお寿司以外の和食も脚光を浴びています。「食」というキーワードでメーカー、商社、レストランなどフード業界はとても活発です。
(宮澤)ニューヨークでも同じですね。食品業界はニューヨークでもとても忙しく、元気のよい業界です。日本から、新しいレストランの出店も引き続き増えていて、人が足りない状況です。お店のポジション以外にも経理など事務関係のバックのポジションも需要は高いです。
食品業界を目指す方は多いですか?
(宮澤)食品は私達にとって身近な存在ではありますが、仕事となるとまだまだ理解されていらっしゃらない方も多いです。アメリカで日本の食品や食材はこちらの人にとっては異文化ですので、日本の文化を広めていくことなんですね。ギャップを埋めるのも間に立つ自分達の役目だと思っています。
(中川)ある日系食品メーカーさんに伺ったお話ですが、これまでは日系やアジア系がターゲットだったそうですが、ある程度行き渡ってしまっているそうで、これからはローカルのレストランやマーケットに売り込んでいきたとおっしゃっていました。
(宮澤)メーカーや商社の方にお話を伺うと、アメリカは広く、内陸部に行ったりするとまだまだ日本の食材の使い方を知らない人も多く、まだまだ伸びしろが尋常なくあると聞いています。日系のスーパーやレストランだけでなく、これまで日本の食材を使ったことのないシェフなどにどんどん提案していけたら、未開の市場がどんどん開けるはずですね。
企業はどのような人を求めていますか?
(宮澤)よく言われるのが「やる気とバイタリティのある方」です。海外という厳しい土壌で外国企業が勝負していくには、オフィスで座っていればお給料がもらえるという生易しい気持ちでは雇ってはもらえないでしょう。また、企業さんからよく言われることは履歴書と実際会ってみたのとでは違うことが多いということです。履歴書にいかにもバイタリティがあるように書かれているので会ってみると、返答からバイタリティがまったく感じられなかったとがっかりされることもあるそうです。
(中川)そうですね。レジュメは自己ピーアールですからみなさん素晴らしい経験や成績を書かれていますが、弊社との面談でその点も厳しく見極めますね。どの業界、職種でもそうかと思いますが、大切なのは人間力です。経験があっても人間力が伴わなければなかなか企業さんも採用してくれません。経験が少なくても、ポテンシャルがあり、人間的な魅了をもった方が採用されるケースはたくさんあります。
(宮澤)そういう意味でも、我々のような人材紹介会社を使っていただけば、第一スクリーニングは我々が行っているわけなので、レジュメと実際の面接でのギャップが少なくて、余計な手間が省けるというわけです。
(中川)あと、日本では「とんがり人材」というそうですが、どこに行っても生きていけそうな人材が求められている傾向にあるそうです。実力が勝負ですから、アメリカでも「とんがり人材」はよさそうです。(笑)紙で勝負してくるのではなくて、実際に会って何かを感じさせる人はよいですね。
他に企業さんが求めている人物像はありますか?
(宮澤)企業さんやポジションによって、求められる人物像は変わってくるので、企業さんからじっくりお話を聞き、求職者ともきちんと会ってお話した上で、ご推薦させていただくのが一番よいかと思います。ただ、自分が求職者の方とお話していて思うことは自己分析がきちんとできている人は、就職先が決まるまで早いし、就職した後でも続いていると思います。
自分の思い込みだけでなく、自分のスキルやバックグランドが求人市場で見た時にどの程度なのか冷静に分析できる人。採用が決まったあとで、どのくらいのパフォーマンスを発揮できるかなど。過少でも過大でもなく評価できる人はよいのではないでしょうか。昇進にも関係しますし。
(中川)弊社は日系企業のクライアントが多いので、日本のビジネス慣習を熟知している方であると職場環境に順応しやすいということで、印象がよい場合もあります。必ずしも必要ないかもしれませんが、日本で勤務されたことがない方は、ビジネスのマナーのセミナーなどがあれば参加するなど慣習などを知っておかれるとよいかもしれません。
時々、アメリカ人は残業しないから、私も残業しません。という方がいらっしゃいますが、結果が出せてこそ言える言葉です。パフォーマンスが悪ければ、評価が低くなりますので、気をつけなければいけません。また、職場では異文化の上司や同僚達と仕事を進めていきますので、異文化の中でもコミュニケーションがスムーズにとれる方を企業さんは求めていらっしゃいます。
最近の求職者の方々の動きはどうでしょうか?
(中川)求人市場が活発化していますので、在職中の方の転職活動が増えています。転職をすることにより、給料や待遇がアップすることも多いので、これまで転職活動をしていなかった人も、積極的に活動する人が増えてきました。転職に成功した人からは「お給料がアップしてとても嬉しい」。「よい職場環境で気分一新して仕事に取り組めています」。「責任のある仕事を任されるようになりやりがいを感じています」など、お手伝いできて本当によかったと感じられるメッセージもたくさんいただいています。
(宮澤)社会人の方はニューヨークでも同じですが、学生の方でアメリカで仕事をしたいと考えていらっしゃる方で、ビザの問題などでなかなか夢を実現することができず苦慮していらっしゃる方を見受けます。我々の力でなんとかしてあげたいなといつも思っています。昨年、当社ではメキシコに会社を設立しました。海外で働きたいと思っている方は、アメリカだけに固執せず、他国でのチャンスも模索してみてもよいのではないかと思いま
すので、是非相談していただきたいです。
企業の採用に関する動きで変化は見られますか?
(中川)採用が難しいと企業さんもわかっていらっしゃるので、条件はよくなっています。給与もここ数年と比べて確実に上がっています。保険などのベネフィットは新しい採用の方だけよくするわけにはいきませんので、給料は交渉をすれば考慮してくださる企業さんもあります。
(宮澤)ニューヨークでもカルフォルニアでも最低賃金がここ数年のうち、15ドルになるという法律が制定されました。企業はコストが上がっていくわけですので、さらに売上を上げなければいけないということになります。賃金の上昇にともなって事業の見直しや人員構成など人事の見直しをされていく企業さんも多いのではないでしょうか。
採用方法として新しい手法やトレンドなどがあれば教えてください。
(中川)確約ではありませんが、数年間日本でトレーニングした後、海外に赴任させるというスタイルの採用があらわれてきました。背景にはアメリカではビザが取得しにくくなっている。企業のグローバル化が加速している。少子化で採用そのものが難しくなってきている。ということがあげられると思います。
(宮澤)ニューヨークではまだそうした動きは見られませんが、一つのトレンドとなっていくことは間違いないでしょう。こちらでは特にIT技術者ですが、日本で経験のある人でアメリカ勤務を希望されている方を日本からひっぱってくるというケースは増えてきました。ITに限らず会計士など専門のスキルをお持ちの方はアメリカで採用されるケースは今後も増えていくと思います。
(中川)LAオフィスで企業さんにも積極的にご提案しているのは、「ママさんワーカーの積極採用」です。お産や育児で職場を離れたママさんの中で、機会があればもう一度働きたいと思っていらっしゃる方は意外と多いんです。でも、ネックになるのは退社時間。子どもを預けて働くことになりますので、残業はできませんし、もしかしたら早めに退社しなければならないケースもあるかもしれません。でも、即戦力になる優秀な人材でもある方がたくさんいらっしゃいます。たとえ時短で勤務しなければならないとしても、抜群のパフォーマンスを発揮される方も多いのです。お話できる企業さんにはフレックス制の導入や勤務時間など就業規則の見直しなどを検討していただくよう提案させていただくこともあります。
採用の提案で他には何かありますか?
(中川)選考フローの見直しをお願いすることもあります。とにかくいまは買い手市場でよい方はすぐに決まってしまいます。3次、4次面接など時間をかけているうちに他でオファーをもらってしまい、就職先が決まってしまう方もいらっしゃいます。可能であれば、市場のスピードに合わせた形で選考を進めていただくこともあります。
(宮澤)市場は逐次変化しています。また、我々は毎日企業さんに伺いお話を伺っていますので、情報をたくさんもっています。企業さんも求職者の方も是非我々を活用していただきたいです。また、我々は求職者の方に企業の事業内容や職務内容を正確に、さらには未来のビジョンまで含めてお話ししますので、面接に行った時に双方のギャップが少なくてすみます。そうしたきめ細かな対応もスピードを速め、結果、よい方を採用できるということにも繋がると思います。
アメリカで働く魅力について教えてください。
(宮澤)私は日本で9年間働いた後、こちらに来ました。決定的に違うのは、スピードです。日本では稟議を回したり、決定までに時間のかかるケースが多かったのですが、アメリカではディシジョンメーカーの方と直接ビジネスさせていただくことが多く、決定までのプロセスや時間が圧倒的に短いと実感しています。いまではそのスピードに自分も慣れてきて、こちらのビジネス環境の方が心地よく感じられるようになりました。
(中川)個人的には、「みんな人生を楽しむ中で仕事をしている」というのがいいなと思っています。日本で仕事をしていた時は「仕事が人生」みたいな自分がいて、人生と仕事を同時に楽しむということを考えたこともなかったように思います。
(宮澤)海外で実際に仕事をすると見えてくることがたくさんあります。例えば法律。アメリカでは法律がものすごくよく変わることに初めはびっくりしました。常にアンテナをはって最新の情報をキャッチしておかなければいけませんが、より良くしようとする柔軟な姿勢は気持ちよいですね。今まで見えていなかったことが見えてくる。自分の幅を広げるという意味でも海外で働くことはよいことではないでしょうか。
(中川)アメリカで働く人達をサポートさせていただく仕事をしていて思うことは、就職先をご紹介した皆様が、何かしらの形で日本とアメリカをつなぐ架け橋となり、活躍されていることがとても嬉しいです。日本の優れた物や技術をアメリカにもってきてビジネスをされている企業さんの成長の原動力として、自分も含めて日本の代表として働けることは魅力の一つだと思います。これからも一人でも多くの「アメリカで働きたい」と思う方の一助になれるよう、自分自身も成長していきたいと思います。
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