来るべき人材採用難と従業員の離職対策
先ごろ連邦労働統計局から発表のあった先月(2021年7月)の農業部門を除く失業率(速報値)は5.4%ということで、前の月(2021年6月)の5.9%に比べて一カ月の間に0.5%も下がっています。それだけ雇用された人々が増えたという証左になりますが、さらにその背景状況を垣間見てみますと、猛威を振るうデルタ変異種の影響で労働参入率は今も相変わらず低調なままであることがうかがわれます。それは、2年前(2019年)のコロナ禍前に比べると全米での労働就労者はいまだ570万人も下回っているということで、失業率の統計からも排除されてしまっている人々が相当数いるのではないかと察せられる次第です。
州の最低賃金が連邦の(7.25ドル)と同じである南部のある州においては、時給16ドルにて求人募集をかけたところ、募集に答える求人はまったくのゼロであったため、求人面接に来てくれるだけで50ドル支払いますという広告を出しているレストランがあって、ちょっとした話題になっていました。ことほど左様に、特に飲食業や接待業ではとりわけ求人の採用難に直面しています。他に深刻な求人難に見舞われている業種としては、長距離の大型トラック運転手、建設業者、引越し業者、製材工場の従業員、そして精神科の医師や獣医師なのだそうです。
これらの業種に直接的には関係のない日系企業様におかれましても、人材の採用難に関しましては、もはや他人事ではないと申し上げられるかと存じます。多くのアメリカ企業では、社内に求人が出て、そのことを自分の知っている友人や親戚などに照会(Referral)をして、採用までの暁に至った場合は、特別ボーナスを支給するという施策を提供しています。SHRM(Society of Human Resource Management)が会員アンケートで調査したところによりますと、その特別ボーナスは $1,000 ~ $30,000 のレンジであったといいます。ここまでしないと、アメリカ企業であってもいまや人材の確保はままならないということかと察します。
人材の採用難が深刻になる一方で、現在皆様の日系企業様で働き続けている既存の従業員の人たちに今後とも働き続けてもらうためのケアや配慮が必要になることは想像に難くありません。こう書きますと、すぐにでも給与体系の見直しを行い、賃上げの検討をしなければならないのかと頭を悩ませる管理職の方々が多くいらっしゃるのでありますが、給与の引き上げや見直しだけが従業員の引止めに直接つながる施策というわけではありません。長年にわたって従業員の退職理由の調査を行っているSHRMによりますと、給与が一番の原因で従業員が辞めるという調査の年は今までに一度もないといいます。代わりに常に一番の理由に来るのが上司との間の人間関係なのだそうです。給与が理由に挙げられるのは通常4番目か5番目の理由になります。
弊社では全米規模での給与調査サービスをご提供しているのですが、日系企業様への給与調査を行っていてわかることは、日系企業様の給与水準は全体レベルで3分の1の水準に入っていることが多く、中間値を下回っていることがほとんどです。そういう意味で給与レベルだけで日系企業様を見られてしまいますと、どうしても不利な状況となってしまいます。ところが、日系企業様の多くは規模が小さくても、従業員への手厚い医療保険プランを提供しているところが多く、会社からの負担率もアメリカ企業と比べて高い水準を維持しています。特にこのコロナ禍の昨今にありましては、こういった医療保険の手厚さ充実さは従業員にとってはとても心強く、安心につながるわけですので、とりわけ年配者やご家族をお持ちの従業員にとってはなくてはならないエッセンシャルで、当然従業員の定着を維持する上での重要な求心力になります。
それではあまり病気もせず医療機関にお世話になることも少ない独身の若い世代の(ミレニアルスと呼ばれる)従業員はどうでしょうか。確かに年配者や家族持ちの従業員と比べて医療保険の重要さはさほどないのかもしれません。そうなりますと、若い世代にとっては給与レベルだけのことに目がいってしまうということも観察されることになります。特に4年制大卒者や大学院卒業者は学生時代に多額の学生ローンを組んでいて、卒業後はその返済に苦しめられているのが現状です。アメリカの一部の企業では、そのような学生ローン返済プログラムを会社のベネフィットとして従業員に提供しているところが出てきています。このような施策によって若くて優秀な従業員をつなぎとめ、自社に定着させようとしているのです。
私は今後企業からの待遇面でいうと、給与の話だけではなく、もっとベネフィットの提供について企業として議論を傾けるべきではないかと考えています。会社から提供されているベネフィットに満足している従業員はそうでない従業員と比べて定着率が3倍高いという報告がSHRMから出されています。日系企業様で働いている従業員の方々が求めているところにマッチしたベネフィットを会社から提供することができれば必ずや従業員の定着率改善につながるはずです。そのような従業員が求めているニーズを知り出すためには、従業員との会話が欠かせません。会話のひとつに従業員定着のためのリテンションインタビューという施策があります。従業員を会社につなぎとめておくためにも簡単にできる施策です。一度社内で試してみる価値は十分あるものかと思います。
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【執筆】
President & CEO
酒井健吉
Ken Sakai
8532 SW St Helens Dr. Wilsonville, OR 97070
Email : kenfsakai@pacificdreams.org
Phone: 503-783-1390
【プロフィール】
信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。
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No.6 CDC雇用者向けページを確認しよう/After COVID-19の訴訟について
No.7 ポスト・コロナの職場環境/ビザ取得の状況/WEB面接のコツ
No.8 出社への不安という理由/職場再開における適正な準備と手順
No.9 Return to Workのポリシーを作ろう/オフォス再開に関する一問一答
No.10 コロナ禍で考える「評価制度の構築」/ Don’t be silent ~アメリカの人事は差別との闘いであるから
No.11 移民法、雇用調整助成金(ERC)最新情報
No.12 失業保険の不正受給が急増/評価制度Q&A
No.13 職場におけるコロナ関連訴訟/ オフィス対策/ 感染テスト
No.14 ジョブ型?メンバーシップ型?/自主隔離を終了させる新たなガイドライン
No.15 CA州無給休暇と収入保障/強い企業になる
No.16 ポストコロナの新入社員研修/最新移民法/
No.17 訴訟が多いワースト10/コーチングの活用目的
No.18 緊急有給シックリーブ法の改定/リモートでのコミュニケーション
No.19 各州の雇用に必要な給与額/従業員が感染!会社としての対策とは
No.20 2021年は2.6%昇給すべきか?!/採用もマーケティングと同じ
No.21 バイデン新政権誕生で変わる今後の雇用情勢/H1b申請新基準
No.22 企業が提供する祝日と割合/オンラインホリディパーティゲーム9選
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No.25 グラフで振り返る2020年/新世代のコミュニケーションCPaaSとは
No.26 ワクチン接種を強制しますか?/H-1Bビザ抽選プロセスの変更案について
No.27 大統領令と法律の違い/医療費控除を最大に/州政府の仕事を請け負うには
No.28 従業員ベネフィットのトレンド/COVID後のオフィスデザイントレンド
No.29 COVID-19救済法と人事関連情報/コミュニケーションは進化する/音声メディアを考えてみる
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No.38 なぜ過去の給与履歴を質問してはいけないのか?/ オンラインビジネスの主な形態
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