アメリカではさまざまな分野で、たくさんの方が活躍されています。このコーナーでは、アメリカで働いている方に「ハタラク」楽しさや難しさなど、お話をお伺いしています。今回はファスナー業界のリーダーであるYKK CORPORATION OF AMERICAのバイスプレジデントのジェシカ・コルクさんにお話を伺いました。
ジョージアで働く、YKK CORPORATION OF AMERICA Vice President, Jessica Kennett Corkさん
Jessica Kennett Corkさん
YKK CORPORATION OF AMERICA
Vice President of Community Engagement and Corporate Communications
おかげ様でYKKメーコンは50周年を迎えます!
…YKK CORPORATION OF AMERICAについて教えてください。
YKK CORPORATION OF AMERICAは、日本のYKK株式会社のアメリカ法人です。ファスニング製品、および建材メーカーであるYKKは1934年に日本で創業し、1959年にはニュージーランドへの進出を果たし、その後も海外展開を積極的に進めてきました。現在、世界72カ国/地域で事業を展開しており、従業員は合計で44,527名です。その内の約6割が日本国外に在籍しているという、グローバルな企業として成長し続けています。
…YKKのアメリカへの進出について教えてください。
米国への進出は、1960年にニューヨークに営業所を開設したのが始まりです。その後、1974年にアトランタ南東部のメーコンに製造工場を設立し、米国におけるファスナーの一貫生産体制の運用を開始しました。YKKはジョージア州で事業設立をした最初の日系企業でもあります。そして、米国で生産を始めて今年で50周年を迎えます。現在、アメリカにはジョージア州の他、カリフォルニア州、アラバマ州、ケンタッキー州に工場があります。
…ジョージアの事業所の役割について教えてください。
ジョージアでは北米・南米の統括を担っており、米国、カナダ、メキシコ、中米、南米にある事業会社16社を管轄しています。ジョージア州にはメーコン以外には住宅用建材を製造するYKK AP社の工場がダブリン市にあります。
…一貫生産体制とはどのようなものでしょうか?
YKKの商品は世界中どこでも同じ品質です。YKKでは製品を作る機械から材料にいたるまで、すべて自社で開発しています。そのため、世界中にあるどこの工場でも同じ品質の製品を作ることが実現できています。
…世界中で同じ製品を作っているのでしょうか?
同じ製品もありますが、国によって要望が違いますので、お客様のニーズに合わせた製品づくりを各国で行っています。アメリカでは自動車の生産が盛んですが、車のシートにはたくさんのファスナーが使われていることはご存じでしょうか?縫い目が外からではわからない工夫がされていますので、お気づきの方は少ないかもしれません。また、住宅用建材は寒い地域と暑い地域では求められる仕様が異なります。それぞれの気候に合った製品づくりを行っています。
…ジョージア州に工場を作られたきっかけは?
YKKがアメリカへ進出した60年代、70年代には、アパレル企業の多くはジョージア州、テネシー州、ノースカロライナ州などの南部に存在していました。そのため、弊社も南部で工場用地を探していました。当時、ジョージア州の知事はカーター元大統領で、海外の企業をジョージア州へ誘致することにとても積極的でした。そこで、弊社の創業者の吉田忠雄がジミー・カーター氏に直接お会いし、会社の精神などをお話したところ、とても共感していただいたそうです。その結果、YKKはジョージア州にアメリカで初めての工場を設立することになりました。その後もジミー・カーター元大統領と吉田は吉田が亡くなるまで、公私ともに親交を深めてまいりました。
…YKKの精神とはどのようなものでしょうか?
YKKの精神とはYKK創業者の吉田忠雄の企業精神「善の巡環」と言うもので、YKKの企業活動のすべての根幹にあります。「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という思想で、他の人に必要なことを考えて提供すれば、必ず自分に戻ってくるというものです。
…ジェシカさんのお仕事について教えてください。
社内および社外への広報とコミュニティ・エンゲージメントの仕事の二つを柱としています。カナダからチリにまたがるYKK Americasグループの社外および社内に対するコミュニケーション戦略の立案から実行。メディア対応、社内向けのニュースの配信、従業員向けのワークショップ開催、デジタルコンテンツの作成などを担当しています。また、YKKの企業目的、ESG/サスティナビリティの目標をステークホルダーに伝えたり、市長、議員など政府関係者、コミュニティ組織、シンクタンクなどの窓口担当も大事な役目です。
…「YKKサスティナビリティビジョン2050」について教えてください。
YKKは2050年までに「気候中立」を達成するための持続可能性目標である「YKKサスティナビリティビジョン2050」を掲げています。「気候」「資源」「水」「化学物資」「人権」の5つのテーマで目標を設定し、それぞれに関連する10項目のSDGsの達成に向けて取り組んでいます。
…YKKの環境保全への取り組みは長いのでしょうか?
YKKが初めて環境宣言を発表したのは1994年です。当時、リサイクルのプラスチックで作ったファスナーを開発しました。ところが、その時は誰も買ってくれなかったそうです(笑)。YKKでは2030年までに、ファスニング製品の繊維素材を100%持続可能な素材(リサイクル素材や天然由来素材など)に変えるという目標を掲げています。
…ジェシカさんのこれまでのご経歴について教えてください。
マサチューセッツ大学で日本語と日本文学を専攻しました。大学時代には一年間、日本の国際基督教大学に交換留学いたしました。大学卒業後、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)で3年間広島で勤務し、アメリカへ帰国後、日系のトラクターのメーカーで通訳・翻訳の仕事に一年間従事しました。その後、在アトランタ日本国総領事館での勤務を経て、YKK CORPORATION OF AMERICAに入社いたしました。
…日本や日本語に興味をもたれたきっかけは?
10歳くらいの時にIBMに勤務していた祖父が、日本へ出張する度にお土産を買ってきてくれました。浴衣や可愛らしいお人形などで、全てが可愛らしくて、魅力的で、日本という国にとても興味をもつようになりました。その後、日本の映画などが好きになり、もっともっと日本について知りたいと思うようになりました。
…日本へいらしたのは大学の時の交換留学が初めてですか?
高校生の時に夏休みの8週間、広島でホームステイをしています。英語が全くしゃべれないご家族でしたが、とてもよくしていただいて、色々な所に連れていってくださり、さらに日本が大好きになりました。
…JETプログラムはいかがでしたか?
国際交流員として、広島の加計町(現在の安芸太田町)という広島県の西部にあった町に派遣されました。主な仕事は日本人の方達にアメリカの文化や政治、制度などを理解していただき、相互理解を深めるというものでした。「アメリカってどんな国?」「アメリカと日本の違い」「アメリカの教育制度」などをテーマに、3年間で50回以上のワークショップを日本語で開催しました。
…ワークショップは日本語でされたのでしょうか?
今では人前でお話することはなんともなくなりましたが、当時は大勢の人の前でスピーチをするのがとても苦手で、しかも日本語でしたので、前の晩は怖くて眠れなかったり、当日はとても緊張しました。でも、今振り返るとあの時の経験があって本当によかったと思っています。日本語でしゃべることに全く不安を感じることがなくなり、苦手意識を克服することができました。
…日本での勤務で、他に苦労されたことはありましたか?
上司が広島弁をしゃべる方で、最初はまったく理解することができませんでした。隣の同僚に標準語に通訳をしていただいて、毎回意思の疎通をしていました(笑)。方言はジョージアのメーカーで通訳をした時も本当に困りました。専門用語だけでも大変でしたが、その上ジョージア弁と大阪弁を理解しなければならず何十苦にもなってしまいました(笑)。
…現在のお仕事はどのようにして探されましたか?
メーカーで通訳・翻訳の仕事が決まりジョージアへ参りました。こちらへ来てすぐにジョージア日米協会やジョージア日本商工会のメンバーとなり、仕事と並行して活動を続けてきました。活動を通じてネットワークが広がり、在アトランタ日本国総領事館でのお仕事や現在のYKKでのお仕事に就くことができました。
…仕事の喜びややりがいはどのような時に感じていらっしゃいますか?
どの仕事もやりがいは高いですが、仕事を通じて社会に貢献することに一番の喜びや、やりがいを感じています。YKKはメーコン市と富山県の黒部市の姉妹都市の提携の実現に貢献しました。以来、高校生の交換留学や医師や看護士などの医療従事者の交換研修プログラムを実施しています。私自身も高校生の時に初めて日本でホームステイをしましたが、その後の人生に大きな影響を与える良い経験となりました。次世代の若い人たちが異文化への理解を深めることのできるプログラムに携わることができてとても嬉しく思っています。
…社外でもボランティア活動をしていらっしゃると伺いましたが。
ジョージア日米協会では昨年まで会長を務めさせていただきました。また、ジョージア日本商工会、ジョージア州経済教育協議会コミュニケーション委員会など、地域の活動に参加させていただいています。ジョージアチャーター学院の設立では設立前から参加し、理事会の運営にも携わっています。ジョージアチャーター学院は日本語と英語のイマージョン教育が特徴です。幼稚園から小学5年生までの子どもたちが、日本語のクラスでは日本の文部科学省の教科書を使用して勉強しています。
…今後の夢や抱負を教えてください。
これまでの継続ですが、YKKでの仕事やボランティア活動を通じて、できる限りアメリカ人と日本人との良い関係づくりに貢献していきたいと思っています。
…読者の方へメッセージをお願いします。
自分が興味をもっている分野で、ボランティア活動をされてみることをお勧めします。いきがいが感じられ、人生を豊かにすることができると思います。また、ボランティア活動を継続していると人間関係の輪が広がります。ネットワークから良い機会をいただくこともあるかもしれません。
また、計画は大切なことだと思いますが、人生の中では面白いことや興味のあることが突然やってくることがあります。あまりきっちりと計画をしないで、その波に乗って、とにかくやってみるのもよいかと思います。
【取材協力・お問合せ】
Jessica Kennett Corkさん
YKK CORPORATION OF AMERICA
Vice President of Community Engagement and Corporate Communications
Email: jessicacork@ykk.com
https://ykkamericas.com/
https://www.linkedin.com/in/jessica-cork
【取材・文】
QUICK USA, Inc.
菰田久美子(Kumiko Komoda)
Email:quick@919usa.com