アメリカでは、日本からの駐在員として勤務している人やアメリカ現地で採用された人など、多くの日本人が様々な分野で活躍されています。このコーナーでは、アメリカで働く方々に“ハタラク”楽しさや難しさなどをお伺いし、ご紹介しています。
仕事をしていく上で一番大切にしていることは
「絶対に手を抜かないこと」です。
まず業務内容など、御社について教えてください。
弊社はニューヨークにあるクリエイティブ会社で、ブランディングが主な業務となります。ブランドとして認知されていない商品やサービスをブランドへと育て上げたり、すでにあるブランドを強化し活性化させるための戦略を提案させていただいています。具体的には、ブランドネームやロゴを開発したり、広告やウェブなどのさまざまなマーケティング手法で「ユーザーの獲得」と「ブランドの価値創造」を絶妙なバランス感覚で調整して、ブランドの為に貢献することが仕事です。最近は、いわゆるウェブサイトの制作はもちろんの事、スマートフォン対応のウェブサイトや、アプリ開発などのご相談も増えています。今後ますますこうしたモバイルに特化したご相談が増えていくかと思います。
カゲさんのお仕事について教えてください。
日本の大学で電子工学を学び、卒業後はシステムエンジニアとして印刷会社に入社しました。昔から一味違うアイデアを考えることが好きで、大学の美術部で陶芸をやっていたことと学生時代から音楽活動をやっていたことから、会社の面接にはデモテープと陶芸の作品を持参しました。それが功を奏したのか採用となり福岡の本社で勤務を開始しました。会社の忘年会でもかなり目立ったため、“面白いやつ”という評価をもらい東京へ転勤となりました。九州の会社はそういうアバウトなところがあるような気が致します。東京の事務所は規模が小さかったので、タイトル、肩書き等は一切無く、営業をメインにデザインやクリエイティブディレクター的な仕事など何でもやりました。(正確にはやらされました)転勤した直後に外資の車メーカーから大きな仕事の受注が決まり、その縁でブランドの中に入って、ブランディングのサポートの仕事を外部の会社にも関わらず、長年、担当させていただきました。その後、渡米し2年間の学生生活を経て現在の会社を起業しました。日本では紙広告が殆どでしたが、渡米してからは殆どがウェブやウェブ広告の仕事が殆どになってしまいました。ただし、やっていることの基本(所謂私がハタラク上での重要視している部分)は全くと言っていい程変わってないですね。
仕事をしていて楽しいと感じるのはどういう時ですか?
私が携わっている仕事は所謂「商業広告」の世界であり、アートではありません。お客さんが儲かることを常に念頭に置いて戦略を考えています。自分は営業畑が長かったのでやはり数字をすごく気にします。お客さんの会社の業績がよくなることに貢献できた時にやはり大きな喜びを感じます。私の仕事はクリエイティブディレクターですが、何かを作る事が仕事ではなく、お客さんにとっての「正解」を導きだし、作り出すこと、また、その正解を誰もがわかりやすく、ビジュアル化させることが本当の仕事だと思っております。その「正解」を見つけるために、クライアントと打ち合わせをする前からかなりの時間をかけて、商品のリサーチを行い、コンペティターの有無、勝算はあるか、などの下調べを行います。そして、その「正解」が本当に「正解」であることの仮説を組み立てます。そして、その仮説を時間とお金をかけて検証していく作業が広告活動なんだと思います。目に見えるものだけを作ることが私たちの仕事ではありません。しかしながら、何はともあれ目に見えるものを作る事は楽しいですし、実際に目に見えないところに沢山重要なモノが隠れていて、それを見つけていくことももちろん楽しい作業です。
アメリカで仕事をしていく上で、心がけていることはありますか?
まずは忍耐強くなることですね。日本で仕事をしていた時にスムーズにいっていたことが、ここアメリカだとまったくスムーズに進まないことが多々あります。忍耐強く、一つひとつ解決していくことです。また、アメリカに限らず、仕事をしていく上で一番大切にしていることは「絶対に手を抜かないこと」です。それは自分に対しては勿論のこと、一緒に働いている人達にも、今まで働いてきた後輩達にも常に言い続けてきています。自分にとって仕事とは、挑戦をさせてくれる為の理由付けだと思います。自分に挑戦をさせてくれる為に、もちろん誰かと一緒に挑戦をする為に、企業としてチャレンジしているのがたまたま仕事なんだと思います。
企業活動の中でのウェブマーケティングの位置づけは
今後どうなっていきますか?
つい先月、2013年のアメリカのインターネットの広告の年間売り上げがテレビ放送広告を上回ったというニュースが報道されていましたが、今後もモバイルを中心に間違いなくウェブマーケティングは企業活動の要になってくると思います。正しく言うと、オンラインとオフラインの融合がベストな状況かと思います。また、極端な意見かもしれませんが、今後はモバイルを制覇した会社がそのマーケットのビジネスを制覇すると思います。今、最前線の旬なテック系の話ですと、google glassやTelepathy等のウェアラブルに関する情報が色んなニュースサイトに溢れています。私もgoogle glassは日頃つけていますが、コンシューマーレベルに落とすにはまだまだ時間がかかると思います。現状はやはり最も普及している「モバイル」という実体のある装置と、ウェブ上にしか存在しないSNSをどううまく使いこなせるかが今の一番の勝負だと思っています。企業が広告としてのSNSに頼りすぎてもだめですし、無視しすぎても駄目だと思います。そのバランス感覚を調整するのが私のような立場の仕事だと思います。
今後SNSはどうなっていくのでしょうか?
SNSの考え方が浸透して、おそらく10年程経ったと思いますが、まだまだその可能性は眠っていると思います。SNSといっても今は沢山の考え方がありますし、いろんな使い方があります。友達同士の連絡ツールから、ただの書き留めるだけのツールなど。自分の仕事上良く頼まれる仕事ですが、いかに広告として、バズらせる(話題になる。流行らせる)ためにどうしたらいいかというところを焦点を当てて仕事をすることが多いです。6月4日にクイックUSAにて開催される「リンクトインセミナー」の講師を勤めさせていただきますが、リンクトインも企業のマーケティングツールとして、個人のマーケティングツールとして、今後もますます利用が活発化されるかと思います。セミナーでは基本的なことから、少し専門的なことまでお話ししていきたいと思います。SNSが産まれてからは、個人を売り込める沢山のツールが出来上がったと思います。リンクトインのそのツールのひとつにすぎませんが、アメリカ国内に限っては、非常に使えるツールだと思います。
今後のお仕事の抱負を教えてください。
ブランディングの仕事は奥が深く、実は働く人達の中に、会社の中に答えがあります。本当に重要なものを探るために、本当は社内に入って、社長の考え方を聞き、スタッフ同士のコミュニケーションはどうなっているのかを知り、お客さんへ伝えていきたいこと、伝わりやすいこと、伝わりにくいこと、伝えるとお客さんが喜ぶこと、等を知るための作業を行わせていただけるのが一番有効です。ビジュアル化というのは表層のものと思われがちですが、内面からにじみ出るものだと思います。この考え方は学生時代から大好きな日本の陶芸の世界に影響を受けているのかもしれません。内面から形造り、そしてそれが外形へと表現される。内面が美しくないと、外面は美しくならない。内面が美しければ、自然と外面も美しくなるという考え方です。
理想論ではありますが、本当にお客さんの利益を考えて自分はそこまでできるのが本望だと思っております。おこがましいかもしれませんが、働く方々のワークフローや企業が負担するコストまで考えながら、お客さんのマーケティングの一助となれれば嬉しいです。
〔取材・文〕
QUICK USA, Inc.
菰田久美子