アメリカでは、日本からの駐在員として勤務している人やアメリカ現地で採用された人など数多くの日本人が活躍しています。このコーナーでは、アメリカで働く方々に“ハタラク”楽しさや難しさなどをインタビューし、ご紹介しています。今回はジュエリーデザイナーのSATOMI KAWAKITAさんにお話を伺いました。
ニューヨークという風土や人が、私を育て、夢をかなえてくれたと思います。
KAWAKITAさんの会社について教えてください。
弊社では18金やプラチナ等の貴金属、ダイヤモンド、サファイヤ、エメラルドなどの石を使用して、ファインジュエリーのデザインから制作までを手がけています。主力商品は結婚指輪や婚約指輪ですが、指輪の他イヤリング、ネックレス、ブレスレットなども制作しており、販売経路としては卸、e-commerce、直接オーダーの3つとなります。ブライダル商品は皆様思い入れも強く、実際に目で見て、試着してからご購入される方が多いので、弊社のトライベッカのスタジオに併設しているショールームにてアポイント制でコンサルテーションさせて頂いています。人生で最も幸せな瞬間のお手伝をすることができて、私まで幸せな気持ちにさせて頂いています。
どのようなお客様が多いですか?
人の購買の行動がこれまでの大量生産・消費時代から大きく変わってきているようにも思います。流行にとらわれず、人が持っていないようなものを見つけ、長く愛用する方が増えてきていると思います。街を歩いていると、個性的で素敵なファッションを身に纏ったニューヨーカーをたくさん見かけます。みなさん自分に似合うもの、好きなものがわかっています。ここニューヨークにはローカルで活躍している個性豊かなデザイナーがたくさん活動していますが、個人で活動しているデザイナーが育っていくのはこうした風土があるからかと思います。今はインターネットの時代で、弊社でもブログなどインターネットで商品を見つけてくださり、アメリカ国内はもとより、はるばるオーストラリアやヨーロッパなどから来店くださるお客様も多く、大変ありがたいことと思っています。私達の商品を心から気に入って喜んで頂けると本当に嬉しいです。
KAWAKITAさんのお仕事について教えてください。
私の仕事は、オーナー兼デザイナー、そしてプロダクションマネージャーです。会社の経営からデザイン、制作スタッフのマネージメントまで多岐に渡ります。ビジネススタート時は全て一人でこなしていましたが、現在はセールス、事務、プロダクションスタッフ合わせて9人おります。プロダクションはほぼプロダクションスタッフが行っており、私は新作のデザイン、サンプル制作、展示会やトランクショーへの参加などを主に行っています。今年5月にはラスベガスで開催された「Couture」というファインジュエリー最高峰の展示会に参加しました。普段は交流がない他のデザイナーと情報交換ができたり、新しいお店との出会いもあり、また、社員のモチベーションの向上という意味でも参加してよかったと思います。
これまでどのような勉強、お仕事をされてこられましたか?
京都の嵯峨美術短期大学の生活デザイン科で、木工、金工、テキスタイル、陶芸などクラフトを勉強しました。在学中に吹きガラスに強く惹かれるようになり、「流工房」というガラス工房で吹きガラスのクラスを取りました。先生は80年代にアメリカでガラスの勉強をされた方で「アメリカのガラスは面白い。君も若いうちに外の世界を見て視野を広げなさい」といつも楽しいお話を聞かせてくださいました。卒業後、ノースキャロライナのクラフトスクールで吹きガラスを学びましたが、作品をプレゼンする際に、英語で伝えたいことを100%表現することができず、語学力の足りなさに悔しい思いをしました。日本へ帰国後、「流工房」で先生のアシスタントをさせて頂くことになりましたが、工房が閉鎖に。将来ガラス職人をずっと続けていくか迷っていた時期でしたので、残念でしたが自身の進路をもう一度見つめ直す良いきっかけになったかと思います。次なる目標を語学留学とし、留学資金を貯めるために雑貨屋さんでアルバイトを始めました。当時ビースが大流行していて、趣味で始めたビーズ織のアクセサリーを友人のブティックで委託販売して頂くことになりました。そのお店で商品が売れたのをきっかけに、他のお店にもサンプルや商品の写真を持ち込み営業を開始しました。地元の関西で始めましたが、関東までお客さんを増やすことができました。振り返れば、それが現在の仕事の原点であるように思います。
ニューヨークでのお仕事のきっかけは?
アルバイトとビーズアクセサリーの販売で貯めた資金で、ボストンへ留学しました。ウィークデーは学校で英語をしっかり学び、学校が終わった後や週末にはインターン先を見つけるためにガラス工房廻りをしました。思ったより簡単にインターン先を見つけることができ、ガラスのクラスを開催している工房で先生のアシスタントをさせて頂くようになりました。就職のオファーも頂きましたが、本当にガラスの仕事がしたいのか再び迷いました。アメリカで、ものづくりができるチャンスでしたので大変悩みましたが出した結論はガラスではないということ。ガラスづくりのスケール感や素材との相性は、最終的に自分のやりたいことではないとここでまた再確認しました。その後、ジュエリーメーキングの基礎を学ぶためにニューヨークの専門学校へ転校。卒業後は先生の紹介でダイヤモンド街にある小さな工房に石留め職人として就職することができました。
現在のビジネスはどのようにしてスタートされましたか?
何年かして石留めの職人としての仕事に余裕が生まれた頃、ゴールドやダイヤモンドを使って自分で身に付けたいと思うジュエリーをつくるようになりました。ある日他の人の評価を聞きたいと思い、ニューヨークでビジネスに成功しているアメリカ人の友人に私の作品を見てもらいました。彼は私の作品をとっても気に入ってくれすぐに彼の会社のアートディレクターに紹介してくれました。彼女からニューヨークで自立している女性のご友人をたくさんご紹介頂き、またそのご友人がホームパーティーを開いて私の商品を紹介してくれるなど、徐々にオーダーが増えてきました。私がデザインして制作したジュエリーをみなさん心から喜んで、身につけてくださる姿を見て、自分もとても嬉しくなり、独立を現実的に考えるようになりました。
ビジネスは順風満帆でしたでしょうか?
販売先もビジネスプランもないまま独立を決め、走り出しましたがファインジュエリーはコストもかかるので、金銭的な苦労もありました。また、委託販売のお店の中には支払いでトラブルを起こすお店もありました。契約書も作らずに委託販売をしていたのですから、今から思えば無謀だったと思います。何もかも手探り、失敗してから学ぶということの繰り返しでした。仕事が順調にまわりはじめ、人を採用するまでになった時も、スタッフに気を使いすぎてしまって結局やりたいことができなかったという失敗も経験しました。紆余曲折がありましたが、経営者としての自覚も芽生え、一時失いかけていた自分の中の大切にしてきた軸もようやく最近取り戻せてきたように思います。
仕事をしていく上で大切にしていらっしゃることは何ですか?
現在、実際のプロダクションの大半はスタッフに任せています。長い間、ずっと一人で好きなようにやってきましたので、人に任せるということに抵抗があり葛藤がありました。今は、きちんと教育した後はスタッフを信じて任せていかないとスタッフも成長しませんし、自分の仕事も減らないということを学習しました。人を雇うことで一人では到底できなかったことが実現できたり、スタッフから教わることの多さ、得られることの大きさも今は実感しています。また、これはものづくりをしていく上ではとても大切なことですが、プロとしてものをつくっていく以上、つくっておしまいではなく、つくったものの行き先まで見届けてやっと生業と言えると思います。自分でつくったものに責任をもちたいと常に考えています。
KAWAKITAさんにとって仕事とは?今後の抱負は?
私にとって仕事は、自分を表現する場であり手段です。今まで好きなことしか仕事にしてこなかったので、仕事は自分の全てだと言っても過言ではありませんし、仕事のことを考えない時はなかったです。仕事は私にとってそれほど夢中になれるものであり大切なものです。ずっと迷いながら走り続けてきて何度も挫折しそうになりましたが、それでも自分を信じてがんばってきてやっと努力が実を結び、形になってきたように思います。これからは少し仕事以外のことでも楽しませてもらおうと思っています。仕事場でずっと過ごしているばかりでは良いデザインも生まれてこないと思いますので、色々な人に会って、たくさんのものを見て、違う場所に行って、外のエネルギーをたくさん受け取りたいと思います。そして、自分で感じたことを私のフィルターを通してジュエリーという形に表現していくのが私の仕事ですので、心身ともに健康的な生活を送ることを今は一番に考えて、仕事に反映させていきたいと思います。これからは仕事でもプライベートでも、今まで以上に貪欲に自分のやりたいことを打算や妥協なしに自分らしく思いっきりやっていきたいと思っています。
最後に、後進の人達のためにアドバイスをお願いします。
何をするにも「可能性は無限大」です。自分自身で自分の限界を決めてしまわないということです。私は、自分自身でやってみて、そして自分がどう感じるかを体感することが大切だと思います。自分で目標を立てそれを実現する為に一番良い方法は何かを自分で考える。どうするかを決めたらそれをとことんやってみる。それでもうまくいかなかったら方法を変えてみる。とにかくやり続けることです。何事も一朝一夕では成し遂げられません。チャンスを待っているだけではいけません。チャンスが訪れた時に最良のタイミングで最高の形でものにできるかどうか。日々の努力が明暗を分けます。そして大きな山を一気に登ろうとせず小さな山をたくさん越えていくという感覚でいた方が良いと思います。何かをなし得るのにはそれ相応の時間がかかるのでとにかく辛抱強く周りに流されることなく自分を信じて少しずつでも進んでいってください。気づいたら一番最初に自分で設定したゴールより遥か高い地点にいる自分に気づくかもしれません。
〔取材協力〕
NEW YORK
〔取材・文〕
QUICK USA, Inc.
菰田久美子