アメリカでは、日本からの駐在員として勤務している人やアメリカ現地で採用された人など、多くの日本人が様々な分野で活躍されています。このコーナーでは、アメリカで働く方々に“ハタラク”楽しさや難しさなどをお伺いし、ご紹介しています。
自分の作品や考えを、世界に発信していきたいです。
堀下さんのお仕事について教えてください。
私は、現在ニューヨークをベースにフリーランスでイラストレーターの仕事をしています。クライアントはアメリカと日本が中心ですが、インターネットが発達した現代においては世界中から仕事の依頼を受けることができます。つい先日もイギリスの雑誌社からイラストの依頼を受けました。新聞や雑誌、本などエディトリアルのイラストの仕事が中心ですが、ギャラリーでのショーなどにも参加しています。クライアントにとっても、自分にとっても、お互いにとって良い仕事ができるよう、イラストを描かせていただいています。
イラストレーターの仕事は依頼主の要望に応じてイラストを描く仕事です。まずはどのような媒体にどのようなイラストが必要とされているかという打ち合わせから始まります。期限、点数、予算などもこの段階からクライアントの要望を尋ねます。次に、記事等文章を読ませていただき、作者が伝えたいことを読みとりイラストで表現していきます。最初はラフを作成し、クライアントに見ていただき、その後スケッチで確認し、作品を仕上げていきます。
また私は、イラストレーターの仕事と並行してP.I.アートセンターというアート・デザインの学校で、デジタルアートのクラスの講師も務めています。フォトショップやイラストレーターを使って絵を描いたり、デザインするクラスです。自分の持っている知識や技術を誰かに教えるということ自体が楽しいことですが、普段自宅にこもって一人で仕事をしていますので、外に出て色々な人達と会って話をすることができるのでとても良い機会をいただいていると思っています。
The Monk’s Revelation
Nine Doves
The Great Gatsby
Alfred and Tippi
イラストレーターになるためにどのような勉強をしてこられましたか?
高校を卒業した後、アラバマの州立大学に留学しアートを専攻しました。3年生になった時に、美大でアートを本格的に勉強したいと思い、ジョージア州のサバンナ美術大学に転校し、コミュニケーションアートのイラストレーション専攻で学士と修士を取得しました。
高校までは、美術の教育を専門に受けてきたわけではありませんが、小さい頃から絵を描くのが好きでした。両親は医療関係の仕事をしていたので、私も同じ道に進むことを希望しており、理系の大学に進学すべく受験勉強をしていました。でも、受験勉強を通じて医療関係の仕事は将来自分の進みたい方向ではないとはっきりわかり、受験勉強の途中で思い切って両親に相談しました。初めは、アートの大学に進むことをすんなりとは受け入れてくれなかった両親も、話をしていくうちに理解してくれ、アートならアメリカという父の一言で、留学することになりました。従兄弟もアメリカにいたこともあり、留学の準備は比較的スムーズにいったと思います。
アラバマの州立大学から、サバンナ美術大学に移ってからは、イラストレーションを専攻し学びました。卒業後はアニメ業界へ就職する生徒も多い学校でしたが、私は一番好きなイラストを仕事にしたいと在学中から思っていました。卒業後にアーティストビザを取得する意味でも、「3X3」「Communication」「American Illustration」「The Society of illustrators-NY」等、イラストレーターのコンペに積極的に応募し、数多くのコンペに入選させていただきました。特に「3X3」のコンペの学生部門でブロンズメダルを受賞させていただいたことは思い出深いです。
Addiction
The Empress Hummingbird
The Galaxy of Possibility
お仕事でのやりがいや喜びについて教えてください。
大学、大学院でイラストを学んだ自分にとって、イラストレーターになることはとても自然な流れでした。仕事としてイラストを描くイラストレーターは、クライアントに満足してもらう絵を描くことが第一です。絵ができ上がって、依頼主に喜んでいただいた時がやはり一番嬉しいです。
また、一つひとつの仕事は私にとって全てチャレンジで、毎回とてもやりがいの高さを感じています。これまで描いたことのないイラストの依頼も自分にとっては一つのチャレンジです。先月引き受けた仕事の中に「炎」のイラストの注文がありました。これまで、炎のイラストを描いたことがありませんでしたので「おおっ~!どうやって描こう」と新鮮でわくわくしました(笑)。私は、最初にオイルパステルまたはインクで下絵を描き、フォトショップで色をつけていくというプロセスでイラストを描いていますが、ちょっとした表現や描き方などを変えるだけでもイラストがかなり変わってくるので、チャレンジの連続です。
インクで下書き。途中、インクをこぼしてしまうというアクシデントもありました。。。
フォトショップ上で色付け
完成品
お仕事をしていく上で心がけていらっしゃることは?
より理解を深めるために、相手の方の話を「よく聞く」ということを心がけています。依頼主の要望や記事の内容をもとに、イラストで伝えたり、表現する仕事なので、依頼主が求めていることを細部にわたって注意深く理解することがとても大切です。また、直接会って話ができたらよいですが、私の場合海外との仕事も多いので、メールでのやりとりも多くなっています。メールはとても手軽なツールですが、顔の表情や声のトーンがわからないため、誤解を招くこともあります。またその時の感情をストレートに伝えて相手の気分を害してしまうこともありますので、書いたメールを翌日読み返してから送信することもあります。仕事は気持ちよく、やりやすく進めていきたいと思っていますので、言い方や表現には気を使うよう常に心がけています。
また、クリエーターとして自信をもつことはとても大切ですが、自分の置かれているポジションを常に頭に置きながらハンブルに仕事をするようにしています。これからもクライアントを含め色々な人の意見を聞きながら、さらによい仕事をしていきたいと思っています。
Truth in Fiction
Personal Pieces
Bunny Hunter
堀下さんにとって仕事とは?
“遊び”と言ったら語弊があるかもしれませんが、自分にとってイラストを描いている時が一番楽しい時間です。遊びと仕事の境目がわからないほど、本当に自分が好きなことを仕事にさせていただいています。自宅でイラストを描いていて、気がついたらシャワーも浴びず2日間イラストを描いていた。なんてこともよくあります(笑)。イラストを描くということは、自分にとっては食事をしたり眠ったりするのと同じように自然なことの一つです。先日、イラストを納品したクライアントから、こちらが恐縮するくらい感謝されました。お金をいただいてイラストを描かせていただいているのに、とても不思議な気持ちになりました。自分が描いた絵で、誰かが喜んでくれたり、気持ちが変わったりしてくれるのは、とても嬉しいことだと思っています。
Tell’em
Calling of Sunshine
One in a Million –Aaliyah
今後の抱負や夢を教えてください。
とても幸せなことに、私にはイラストレーション業界で成功している、尊敬できる3人のメンターがいます。ビル・マイヤー氏、リック・ラベル氏、そしてユウコ・シミズ氏です。プロとして活躍していらっしゃる先輩方の意見やアドバイスは自分にとってかけがえのないものです。先輩方のように私もイラストレーターとして将来絶対に成功したいと思っています。
身近なところでは、色々な仕事をしていきたいと思っています。これまで新聞、雑誌、本などの媒体やステーショナリーの分野で仕事をしてきましたが、ポスターやインタラクティブな絵本など、これまで経験したことのない媒体や分野でもイラストの仕事をしてみたいと思っています。今後テクノロジー等の発展で、新しい媒体などもたくさん生まれてくるかと思いますので、そうした新しい分野でも自分が表現できる場が増えていくことを楽しみにしています。
また、私が大切にしていることの一つに「自分を大事にする」というものがあります。“自分”を発信してくことによって、他者はそれを個性として見てくれます。これからも、自分の作品や考えを、世界に向けてどんどん発信していき、世界中の人達と多くの仕事をしていければ嬉しいです。
Yohey Horishita
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Email : yohey@yoheyhorishita.com
〔取材・文〕
QUICK USA, Inc.
菰田久美子