このコーナーではアメリカでの就職・転職活動に役立つようなトレンド記事を紹介しています。今回はアメリカの労働権法について、Pacific Dreams, Inc.の酒井謙吉氏の記事をご紹介させて頂きます。アメリカの労働組合の仕組みがわかります。
【執筆者】
Pacific Dreams, Inc.
President & CEO
酒井謙吉
www.pacificdreams.org
Tel:503-783-1390
Pacific Dreams, Inc.は、迅速で精度の高い技術翻訳サービスを手頃な価格で提供することを目的に、オレゴン州のポートランドにて酒井謙吉氏とアイリーン酒井氏によって1992年に設立されました。現在は翻訳サービスに加え、全米50州の日系企業に対して人事・労務コンサルティング・サービスを提供しています。
労働権(RTW) 法を持つ州と持たない州
アメリカの州法のひとつになっている ”Right-to-Work(RTW)Law” という労働法があります。日本語では「労働権法」という訳語があてられています。 この労働権法というのは、労働組合のある企業、あるいは今後労組が結成される企業の場合であっても、そこで採用された従業員は労組に加入するかしないかの選択をとる権利を認めるという法律になります。面白いことにこの法律は連邦法ではなく、州法(あるいは州憲法)ですので、州によってこの法律を持っていたり、持っていなかったりと広いアメリカの中でも様々です。2015年9月時点で全米でちょうど半数の25州がこの法律を州法(あるいは州憲法)として制定しています。
(下図参照;緑色の州が本法が設定されている州)
1. アメリカ南部で制定の多い労働権法
この労働権利法が制定されている州であっても、もちろん労組組織の結成を阻止することはできませんが、本法が設定されていない州と比べてみますと、組合組織率はやはり低い傾向が見られます。とりわけアメリカ南部諸州は図を見ても明らかなように、歴史的にもすべての州が本法を採択し設定しています。この構図はアメリカ南部地域への製造業進出に対して大きな影響力を持つとされています。つまり、ミシガン州をはじめとする北米五大湖周辺に当初君臨していたアメリカの自動車産業が近年積極的な企業誘致活動に動いている南部諸州に対して新たな工場進出を進める姿勢を鮮明に打ち出してきているのです。
2. アメリカの労組率は11.1%まで低下(2014年調べ)
アメリカの労組率は1983年の20.1%をピークとして、その後毎年凋落傾向にあり、最新の米国労働省統計局(BLS: Bureau of Labor Statistics)の発表によればいまやその労組率は11.1%(2014)にまで低下しています。州別に見てみますと、もっとも組合員の多い州がカリフォルニア州で250万人強、州の全労働人口の16.3%を占めています。次に多い州がニューヨーク州で200万人強、州の全労働人口の24.6%を占め、加入率としては全米でトップに位置しています。この2つの州はもともと人口自体が全米トップクラスの州ですから、労組加入者がダントツで多く、他州を圧倒しているのはうなづける話です。
3. UAW(United Automobile Workers)の現況
アメリカの労組といいますと、UAW(United Automobile Workers; 全米自動車労働組合)を思い浮かべる方も多いかと存じます。このUAW、1979年のピーク時には150万人強いた組合員も現在では3分の1以下に激減し、弱体化が叫ばれて久しいのですが、近年最も大きな打撃を受けたひとつの事例が、2012年にかつてのUAWの牙城であった中西部エリアのミシガン州、そしてインディアナ州の労働権法制定でした。冒頭にも書きましたように、この法律の制定によって従業員は組合員に加入するかどうかを自分で決められるようになり、その結果、UAWからの組合離反者が続出するという事態となりました。
その後UAWは南部諸州、とりわけ労組加入率の低いミシシッピ州を標的として危機的状況の打開を狙って水面下で工場をすでに進出している企業側と激しい攻防を繰り広げているとのニュースが伝えらてきています。この州にはいくつかの外資の自動車関連製造業が工場進出を果たしており、その中には同州キャントン市にあります日産自動車もUAWの標的に定められています。いまのところ、日産をはじめ南部に進出する外資の自動車メーカーがUAWの矛先に屈したというニュースは出てきていませんので、水際作戦でUAWからの攻略を何とか阻止しているという状況なのではないかと察しています。
いずれにしましても労働権法を持つこれら南部諸州の労組活動はUAWといえども大変な苦戦を強いられていることだけは間違いないようで、かといって労働権法の制定されていない州に進出するような大規模な製造業はアメリカではあまり見当たらないというのが現在の状況となっています。多くの従業員を雇用してくれる大規模製造業を州として積極的に誘致していこうとするためには、まずはこの労働権法の制定が州としては生命線になるかと思われます。ただし、もともと民主党の強い州では、労組は党にとっては重要な票田であり支持基盤であるため、本法案を州議会に通すことはやはり至難な展開であることも間違いありません。
4.労働権法の有無は重要な線引き
アメリカの地において製造業としての進出先をお考えになるうえで、労働権法の有無は重要な線引きを与えてくれる指標のひとつになるのではないかと考えます。アメリカの労組加入率は減少の一途をたどっていること自体明らかなことではあるのですが、このままズルズルといってしまってそのうち労組という言葉がアメリカ英語の辞書から消えてしまうのかというと、どうもそんなこともありえないことだろうと思います。南部諸州を標的にするUAWの不気味な動きは私にもやはり大いに気になるところであります。
お忙しい中、長文にもかかわらず、最後まで読んでいただき、どうも有難うございました。
Ken Sakai
President & CEO
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HRMトーク2015年9月号
第57回:HRトレンドとベストプラクティスより記事転載
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