アメリカでは中央政府(連邦政府)と地方政府(州政府)の権限を分けて統治する国の制度(フェデラリズム)が採用されているため、州ごとに法律が異なります。アメリカ合衆国憲法は、連邦政府と州政府の権限を明確に分けており、特定の分野(通商、外交、防衛、移民など)は連邦政府が管轄し、それ以外の多くの分野は州政府が独自に立法できるものとしています。各州はすべて独自の歴史、文化、経済的背景などを持ち、地域のニーズや価値観に応じた法律を制定しています。
今回はテキサス州とその他の州の雇用上における法律や規定の違いについてクローズアップして紹介させていただきます!
★今回ご紹介させていただく法律は2024年7月現在のものとなります。
【雇用法と規制】
雇用法について
テキサス州は日本の終身雇用制度とは異なり、アメリカの雇用の原則となる任意による雇用(Employment at Will)を適用しており、差別やハラスメント、報復措置など解雇上での理由が違法でなければ、雇用者と労働者はお互いの合意なしに雇用関係を解消することができ、明確な雇用契約条件がない限りは、いつでも解雇や辞職が自由です。ニューヨーク州やカリフォルニア州も同様に任意による雇用を適用していますが、不当解雇や差別に関してより厳しい規制があります。アメリカの中では唯一モンタナ州がこの任意による雇用を適用していません。
参照
https://www.usa.gov/termination-for-employers#:~:text=At%20will%20employment&text=This%20means%20that%20an%20employer,origin%2C%20disability%2C%20or%20genetic%20information
https://www.bls.gov/opub/mlr/2001/01/art1full.pdf
最低賃金について
テキサス州は全ての州で最低限保障される連邦最低賃金の時給7.25ドルに従っています。ですが、多くの州ではこの水準が生活費に対して不十分であると見なされ、州独自の最低賃金を設定しています。ニューヨーク州の最低賃金は時給15ドル(ニューヨーク市、ナッソー郡、サフォーク郡、ウェストチェスター郡は16ドル)、カリフォルニア州の最低賃金は時給16ドル(大手ファストフードチェーン従業員の最低賃金は時給20ドル)となっています。
参照
https://www.dol.gov/agencies/whd/minimum-wage/state
【労働法】
残業手当に関する規定
残業手当に関してはテキサス州は週40時間を超える労働に対して1.5倍の賃金を支払う連邦法の基準に従っています。これに対してカリフォルニア州は残業手当に関する規制が厳しく、1日8時間を超える労働に対して1.5倍の残業手当、1日12時間を超える労働に対しては2倍の残業手当を支払わなくてはなりません。
参照
https://pro.bloomberglaw.com/insights/labor-employment/overtime-pay-laws-by-state/
有給病気休暇について
テキサスでは州による有給病気休暇義務の法律はありません。ワシントン州では雇用主に有給病気休暇の提供を義務付けています。カリフォルニア州では雇用者は全従業員に対して30時間の勤務につき1時間の有給病気休暇 (Paid Sick Leave) を付与しなければなりません。
参照
https://www.paycor.com/resource-center/articles/paid-sick-leave-laws-by-state/
【従業員福利厚生】
家族および医療休暇について
テキサス州では社員本人の病気、および育児・出産、家族の介護のための休暇(無給)を、12か月の期間中に最長12週間まで労働者 (休暇前12カ月間に1,250時間以上働く者) に対して、企業が付与することを義務づけている連邦の家族医療休暇法 (FMLA:Family and Medical Leave Act) に従っています。メリーランド州では育児、家族の看病・介護、自身の深刻な病気の療養などを行なう労働者 (休暇前12カ月間に680時間以上働く者) に対して、有給の家族休暇と医療休暇をそれぞれ年間、最大12週間 (合計で24週間) 付与することが法律で定められています。
有給休暇について
アメリカでは民間労働者に対する有給休暇の付与を連邦法では規定していません。カリフォルニア州、コロラド州、ニューヨーク州、メリーランド州、コネチカット州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州などいくつかの州やワシントンD.C.では家族への介護や看護など特定の条件下における有給休暇付与を公的保険適用の枠として法律で定めていますが、テキサス州では義務付けられていません。さらに、カリフォルニア州では消化できなかった有給休暇は次年度へ繰り越すことが義務づけられており、企業は退職時に休暇未消化分を支払わなければいけませんが、テキサス州では企業が退職時に未消化分を払うことは義務付けられていません。
健康保険の要件
テキサス州では50人以上の週最低30時間以上働くフルタイム従業員を抱える雇用主は、従業員に健康保険を提供しなければならないという連邦が定めた、通称「オバマケア」と呼ばれる医療保険制度改革法(ACA:The Patient Protection and Affordable Care Act of 2010)に従っており、州法による健康保険の提供義務は特にありません。マサチューセッツ州やニュージャージー州は州法により全州民が健康保険を持つことが義務付けられています。
参照
https://www.cigna.com/employers/insights/informed-on-reform/employer-mandate#:~:text=Employers%20with%2050%20or%20more,may%20be%20subject%20to%20penalties.
https://www.peoplekeep.com/blog/which-states-require-you-to-have-health-insurance#:~:text=New%20Jersey%2C%20California%2C%20Rhode%20Island,but%20there’s%20no%20noncompliance%20penalty.
【職場の安全性】
労災保険について
米国では、50州のうち49州で労災保険の加入が義務付けられていますが、テキサス州だけは、企業にこの労災保険(Workers’ Compensation)への加入を義務付けていない唯一の例外的な州となっています。テキサス州以外の州では雇用主は労災保険への加入が求められ、保険料や給付内容は州により異なりますが、労働者の勤務中に生じた怪我や病気の治療代、逸失給与、死亡などに対して補償金が支払われます。保険料の支払いは、すべて企業が行います。
安全衛生について
テキサス州は連邦によって定められている、働く人々の安全で健康的な労働条件を保証する職業安全衛生法(OSHA:Occupational Safety and Health Act)に従っています。カリフォルニア州はより厳しい基準を持つ独自の州の職業安全衛生プランであるCal/OSHAを制定しています。
参照
https://webapps.dol.gov/elaws/elg/osha.htm
https://www.dir.ca.gov/dosh/WorkersPage.htm
【差別防止法に関する規定】
差別からの保護の適用範囲
テキサス州では連邦のガイドラインが適用されており、求職者、従業員、元従業員は、人種、宗教、出身国、肌の色、家族構成、性別、年齢(40歳以上)、身心障害、遺伝子情報、病歴、ヘアスタイルや天然の毛質などに基づく雇用差別から保護されています。ニューヨーク州では連邦のガイドラインに加えて性的指向、性別自認、婚姻、軍務経験、宗教上での安息日の遵守、勤務時間外での合法的な余暇活動、逮捕歴や過去の有罪判決、家庭内暴力の犠牲者などの追加保護が行われています。
参照
https://www.eeoc.gov/employers/small-business/3-who-protected-employment-discrimination#:~:text=Applicants%2C%20employees%20and%20former%20employees,(including%20family%20medical%20history).
https://www.justia.com/employment/employment-laws-50-state-surveys/employment-discrimination-laws-50-state-survey/#texas
ハラスメント防止研修の要件
テキサス州では州によるハラスメント防止研修は推奨されていますが、義務ではありません。カリフォルニア州、ニューヨーク州、イリノイ州やメイン州などではスーパーバイザー以上の管理職および従業員に対するハラスメント防止研修が企業に義務付けられています。
【採用における規定】
「Ban the Box」法について
企業の採用過程で求職者の犯罪歴を確認することを禁止する「Ban the Box」法はアメリカ国内で広がりを見せており、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州を含む37の州で現在適用されていますが、テキサス州には州全体での「Ban the Box」法はありません。
しかし、州内のいくつかの管轄区域では、犯罪歴調査に関する規制があります。ダラス郡、トラヴィス郡、サンアントニオ郡では、市または郡の職員に対して「Ban the Box」が適用されており、オースティンには、民間および公職に適用される「Ban the Box」条例があります。またオースティンでは、従業員15人以上の民間雇用主は、犯罪歴に関する質問を含む求人応募書類を使用することはできません。
バックグラウンドチェックについて
また州によっては過去の犯罪歴チェックに対して制限を設けていませんが、テキサス州ではカリフォルニア州やニューヨーク州でも適用されている7年ルールが有効で、処分、釈放、仮釈放から7年以上経過した前科をリポートすることは認められていません。この7年間の制限は年俸75,000ドル以上の職への応募者には、適用されません。75,000ドル以上の給与を支払うポジションの場合、雇用主は応募者の犯罪歴を18歳まで遡ってチェックすることが可能です。
さらに、テキサス州法では、裁判所命令により抹消された犯罪歴の有無を応募者に開示することを義務付けていません。また、未成年者の犯罪歴は保護されているため、応募者が18歳になる前の犯罪歴が犯罪歴調査で明らかになることはありません。
ちなみにオースティンでは、従業員15人以上の雇用主は、候補者にオファーレター提示されるまで、バックグラウンドチェックを行うことはできません。この規則に違反した場合、1件につき500ドルの罰金が科せられます。
参照
https://www.testgorilla.com/blog/ban-the-box-laws-by-state/
https://www.robwiley.com/background-checks.html#:~:text=Many%20states%20have%20laws%20restricting,for%20positions%20paying%20under%20%2475%2C000.
https://www.backgroundchecks.com/our-data/coverage-map/texas-state-background-check
E-Verify登録に関する規定
E-Verifyはアメリカ合衆国国土安全保障省(DHS: Dept. of Homeland Security)が提供する、企業が米国人や外国人の従業員が米国で働く資格があるかどうかを判断できるオンラインシステムです。テキサス州では州機関および契約者の登録は必須となっています。アリゾナ州ではすべての雇用主に登録が必須となっており、一方ニューヨーク州やカリフォルニア州では登録は任意となっています。
参照
https://www.ncsl.org/immigration/state-e-verify-action
【解雇およびレイオフ】
解雇通知に関する規定
企業が工場閉鎖や大量解雇をせざるを得ない場合、テキサス州では連邦の定める労働者調整再教育通知法(WARN Act: The Worker Adjustment and Retraining Notification Act)に従い、雇用主は影響を受ける従業員に対して60日前に通知することが義務付けられています。また 雇用主は、レイオフが永久的か一時的か、また一時的な場合には予想されうる期間を従業員に通知する必要があります。さらにカリフォルニア州、イリノイ州、メリーランド州、二ューヨーク州などでは連邦法に加えて追加の要件を持つ各州独自のWARN法(mini-WARN Act)の適用がなされています。
参照
https://www.dol.gov/general/topic/termination/plantclosings#:~:text=Worker%20Adjustment%20and%20Retraining%20Notification%20Act%20(WARN)%20(29%20USC,plant%20closings%20and%20mass%20layoffs.
https://gtm.com/business/new-york-mini-warn-act/#:~:text=The%20Worker%20Adjustment%20and%20Retraining,mass%20layoff%20or%20plant%20closing.
人事・労務のご相談
今回はテキサス州とその他の州の雇用における法律の違いについてクローズアップして紹介させていただきました。雇用法は私たちの仕事と生活とに密接に関わる大切な法律です。テキサス州にお住まいの方は、ぜひこの記事を活用して雇用に関する法律への理解を深めてみてください。アメリカでは州ごとに法律が異なっていますので、他の地域にお住まいの方は、ぜひご自身がお住まいになっている地域の法律と比較してみてください。クイックUSAはアメリカでのお仕事探しのお手伝いをする人材紹介・派遣サービスを提供していますが、企業に対しては採用のお手伝いの他、ハンドブックの作成・見直し、ジョブディスクリプションの作成など人事労務関連のご相談も承っております。下記クイックUSAまで、お気軽にご連絡ください。
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協力
Gephyro Consulting(ジェフィロ・コンサルティング) 様のウェブサイトにご紹介いただいたクイックUSAの記事をご紹介させて頂いています。
【監修】
酒井謙吉 Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.(www.pacificdreams.org)