~必須となる8つのリーダーシップスキル~
採用担当者がマネージメント・ポジションを採用する際や、企業内で従業員をマネージメント・ポジションに昇進させる際に重視する能力リストのトップにあるリーダーシップスキル。マネージメント・ポジションで優れた成果を上げるためには、確かなリーダーシップスキルが必要です。効果的なリーダーシップスキルは、プロフェッショナルな場面でも個人的な場面でも非常に重要で、チームのダイナミクスを促進し、成功を導き、変化を管理し、個人およびプロフェッショナルの成長を促進するために欠かせません。必須となるリーダーシップスキルをはじめ、基本的なリーダーシップスタイル、さらに今後ますます求められるリーダーシップスキルのトレンドを前編と後編に渡ってご紹介します。
また、リーダーシップに関してさらに詳しく採用面接で企業が求めるリーダーシップについてや、採用面接でリーダーシップの質問にどう答えるか?についてなどは、以前の『採用面接で企業が求める「リーダーシップ」とは』の記事をご覧ください。
必須となる8つの重要リーダーシップスキル
優れたリーダーになるには、継続的な学びと成長が必要です。これはチャレンジを行い、フィードバックを求め、人間関係を築き、理解を深めることで発展するプロセスです。ハーバード・ビジネス・スクールの教授でリーダーシップの世界的な専門家であるリンダ・ヒル氏は、優秀なリーダーは生まれつき特別な能力を持っているわけではなく、意図的に自ら学んで適応し、成長する必要のある状況に身を置くことで、他者を動機づけて導くための忍耐力と強さを培っていると述べています。
スイスとシンガポールのキャンパスを拠点に、インパクトある経営幹部教育をワールドワイドに展開する世界トップクラスのビジネススクール、IMDは必須となる重要なリーダーシップスキルとして下記の8つをあげています。
- 関係構築スキル
- 機敏性と適応力
- イノベーションと創造性
- 従業員のモチベーションを上げるスキル
- 意思決定スキル
- コンフリクト・マネジメントスキル
- 交渉スキル
- クリティカルシンキング
IMDのMBAプログラムはフォーブスのMBAランキングでは(米国外で)2013年度および2011年度に世界第1位、英エコノミストのグローバルMBAランキングに2011年に世界第3位、2008年に世界第1位と評価されるなど世界最高峰のプログラムと評価されています。
下記に、これらの8つのスキルについて詳しく説明させていただきます。
1.関係構築スキル
まとまりのある、よりエンゲージされたチームを築くためには、優れたマネージャーは従業員と強力な関係を築くためのスキルが必要です。部下と強い信頼関係を持つリーダーは、これらの絆を築くために時間を投資することが、リーダーとして成功の基盤を築くことを理解しています。
また良好な関係の構築は従業員のエンゲージメントを高めます。コンサルタント企業、Gallupの従業員エンゲージメントに関する分析によると、良好な従業員エンゲージメントがある事業部門では、品質不良が41%削減、欠勤は37%削減するという結果が出ています。また、従業員エンゲージメントが高まると、生産性も21%向上することも確認されています。
2.機敏性と適応力
2008年に行われた、米国に本社を置く世界最大規模の人材開発コンサルタント会社であるDevelopment Dimensions Internationalの研究では、最も重要なリーダーシップの資質の1つは、変化を促進する能力であるとされていました。2024年には適応力が最も重要なリーダーシップスキルの1つとされています。リーダーは、非常に競争が激しいビジネス環境、地政学的な状況、気候変動、COVID-19パンデミックによってもたらされた変化などの、多くの要因に対して機敏に対処し、適応することが求められます。
リーダーとして、業界の変化に遅れを取らないようにするため、そしてビジネスに競争優位性をもたらすためには、内部および外部の変化に適応できるよう、常に学習する姿勢を育む必要があります。リーダーシップの機敏性と適応力を養うための一つの方法として、変化に対応するための達成可能なタイムラインを設定し、自分が変化にどれだけ適応できているか、またそれをチームにどのように示しているか、常に進捗状況をチェックできるようにして、その計画に対して責任を持ち、自分の責任を果たすことがあげられます。
3.イノベーションと創造性
リーダーシップにおけるイノベーション(革新性)は、すべての企業にとって非常に重要です。成功するイノベーションは、優れたアイデアから始まります。
例えばAppleのスティーブ・ジョブズやティム・クックは、革新性と創造性をリードし常に競合他社に先駆け、顧客を念頭に置いて製品を次々と革新することでテクノロジー業界のリーダーになりました。イノベーションと創造性に対する需要はますます高まっており、企業を成長させ、かつ競争力を持つために、リーダーはイノベーションと創造性を持つことが強く求められています。
4.従業員のモチベーションを上げるスキル
関係構築スキルと関連しますが、従業員のモチベーションを高めるスキルは、従業員のエンゲージメントを高めることと同じくらい重要です。従業員のモチベーションを継続的に高めるには、リーダーはチームと深く繋がり、周囲で何が起こっているかに注意を払う必要があります。
アメリカの10,000人の従業員を対象に行われた調査によると、従業員がマネージャーについて抱く最大の不満(63%)は「感謝の欠如」であり、逆にマネージャーが従業員の貢献に感謝することで、従業員のエンゲージメントは60%向上することが示されています。
モチベーションが高い従業員は、エンゲージメントも高く、自分の仕事に自信を持っているため困難な状況に積極的に対応したり、ビジネスパフォーマンスを最適化するための革新的なアイデアを生み出すことができます。
5.意思決定スキル
リーダーは常に意思決定を行う任務を負っているので、優秀なリーダーになるためには、意思決定スキルは欠かせません。特に組織に大きな影響を与える重要な決定は、自分自身だけでなく、組織全体の成功を左右する可能性があるため合理的かつ堅実なものである必要があります。
意思決定は、大小を問わずリーダーシップの基本的な部分であるためリーダーは強力な意思決定スキルを育み、必要に応じてその決定を変更する柔軟性を持つことが重要です。また、これには独特のバランス感覚も必要とされます。
リーダーとして最も困難な任務の1つは部下に好まれないが、必要な決定を下すことかもしれません。時には部下に不満を持たれてもリーダーとして自分の責任を認識し、チームや組織のために明確な決定を行うことは重要なリーダーシップスキルです。
6.コンフリクト・マネジメントスキル(問題解決能力)
アメリカのマネジメント協会によれば、マネージャーは少なくとも24%の時間を問題解決の対応に費やしています。問題は職場のどのエリアでも発生し、また職場を超えて顧客、サプライヤー、さらには競争相手を巻き込むこともあります。
問題が発生した場合、優秀なリーダーは迅速に介入し、ビジネスに悪影響を及ぼす前にそれを解決、もしくは少なくとも軽減する能力が必要です。適切に対処された問題は、組織にとって時によってはプラスに働き得ることもあり、新たなアイデアやより強固な絆につながることもあります。優秀なリーダーであるためには、冷静に問題を特定し、それを解決する方法を予測する能力が必要です。
また、リーダーとして、問題を管理することは重要ですが、チーム内でも問題解決能力を開発することで、問題を事前に防ぐことが可能となります。
7.交渉スキル
交渉のプロセスには下記の6つの段階があるとされています。
準備
話し合い
目標の明確化
Win-Winの結果に向けた交渉
合意
行動方針の実行
優れた交渉スキルは、社内外においてより良い関係を築くことができるため組織にとって大変有益です。また異なる2つの立場の意見を最大限に取り入れることにより、長期的に最善な解決策を見出すことにもつながります。有能なリーダーは組織を前進させるために自分の交渉スタイルを熟知し、その交渉スキルを組織目標を達成するために、また従業員の利益を理解しその利益を満足させる方法を見つけるために用いることが重要です。
8.クリティカルシンキング
クリティカルシンキング(critical thinking)は、批判的思考とも呼ばれ、主観や感情に流されずに物事を判断しようとする思考プロセスであり、自分の考えや意見に客観性を持たせるための手法です。
ビジネスにおいてリーダーシップをとることは大きなチャレンジです。成功するためには、リーダーは多くの困難な意思決定を行う必要があり、その多くはプレッシャーと共に行われます。人事コンサルティング企業のBrandon Hall Groupの調査によると、クリティカルシンキングは、組織を成功に導くための最も重要なスキルです。
クリティカルシンキングを行う際は、明確に考え、異なるアイデア間に論理的なつながりを構築することが必要です。具体的には次の3つのステップが含まれます。
ステップ1 – フレーム化
複雑な問題は、一見しただけではわからないことが多いものです。自分が何に対処しているのかをよりよく理解するために、「問題は何か?」と自問することで問題をフレーム化します。
ステップ2 – 探究
いくら自分の判断を信じていても、直感だけに頼っていては、別の視点から物事を見る機会を逃してしまいます。「どうすれば問題を解決できるだろうか?」と自問し、自分にとって重要な価値を考え、より魅力的な解決策を探ります。
ステップ3 – 決定
ほとんどの場合、ある解決方法がすべての属性において他の解決方法より完全に優れているわけではありません。決断する際には、「どのように問題を解決すべきか?」という点にポイントを置き、それぞれの解決策のトレードオフを明らかにし、自分がより価値があると思う解決策を特定します。
通常、複雑な問題においてクリティカルシンキングを進めていくと、問題に対する理解が変化していきます。この3つのステップは、直線的な順序というよりは反復ループの要素があり、新しい結論が出てきたら、以前の結論を修正することをためらわないようにすることが重要です。
一般的に、クリティカルシンキングに長けている人は、考えや前提に厳しく疑問を投げかけ、考えや議論、結論が正しいかどうかを常に見極めようとし、望ましい結果を得るための推論の矛盾や誤りを認識することができます。
今回はマネージメント・ポジションで求められるリーダーシップにおいて必須となる8つの重要リーダーシップスキルについて詳しくご紹介させていただきました。後編ではこれらのスキルを活用するためのリーダーシップの基本スタイルをはじめ、さらに今、注目されているリーダーシップスキルのトレンドについて詳しくご紹介します!