マネージメント・ポジションで求められる、リーダーシップスキルのトレンド(後編)

~6つのリーダーシップの基本スタイルとトレンド~

採用担当者がマネージメント・ポジションを採用する際や、企業内で従業員をマネージメント・ポジションに昇進させる際に重視する能力リストのトップにあるリーダーシップスキル。前編では今、リーダーシップを取る際に『必須となる8つのリーダーシップスキル』について詳しくご紹介させていただきました。後編ではリーダーシップの基本スタイルをはじめ、今、注目されているリーダーシップスキルのトレンドについて詳しくご紹介します!

また、採用面接で企業が求めるリーダーシップについてや、採用面接でリーダーシップの質問にどう答えるか?について知りたい方は、以前の『採用面接で企業が求める「リーダーシップ」とは』の記事をご覧ください。

 

6つのリーダーシップの基本スタイル

感情知能(EQ)に関する研究で知られる心理学者ダニエル・ゴールマン氏は、「優れたリーダーであるためには、状況に応じて異なるアプローチが必要であることを認識することが重要だ」と述べています。ゴールマン氏は研究と経験に基づき、状況やチームメンバーのニーズに応じてマネージャーが適用できる6つの異なるリーダーシップスタイルを特定しており、2000年のハーバード・ビジネス・レビューの記事で紹介しました。それ以降、これらの6つのリーダーシップスタイルは効果的なリーダーシップの基本的な枠組みとして広く認識されています。下記にその6つのリーダーシップスタイルをご紹介します。

1.強制的リーダーシップ (Coercive Leadership)  トップダウンの決定と命令に基づくリーダーシップスタイル。短期的な危機や緊急時、迅速な決断や明確な指揮系統が必要な場合に適しています。しかしながら、長期的には社員の士気を下げ、離職率を高めるなど、組織文化に悪影響を及ぼす可能性が高いスタイルです。

2.指導的リーダーシップ(Authoritative Leadership)  
ビジョンを示し、チームメンバーの日々の仕事が大きな目標にどのように貢献するかを理解させることでメンバーのやる気を引き出すスタイルです。明確なガイドラインを設定しつつ、マイクロマネジメントは行わず個人の自主性や創造性を尊重するので、変化や不確実な状況でのモチベーション向上に最適です。このリーダーシップスタイルは6つのリーダーシップスタイルの中でも最も効果的でインスピレーションを与えるスタイルとされています。

3.ペースセッティングリーダーシップ (Pacesetting Leadership)  
高い基準と成果を追求するリーダーシップスタイル。高いモチベーションと能力を持つメンバーには効果的ですが、結果を過度に重視し、失敗に焦点を当てすぎると、プレッシャーがかかりすぎてチームの士気を下げる可能性があります。限られた場面での使用が推奨されるスタイルです。

4.アフィリエイティブリーダーシップ (Affiliative Leadership)  
チーム内の感情的な絆や団結力を強化し、仲間意識とチームスピリットを生み出し、ポジティブで協力的な職場環境を作るスタイルです。これにより、チームメンバーは自分の居場所があると感じ、自由にアイデアやフィードバックを共有し、共通の目標に向かって協力し合うことができます。特に社員の関係性が重要な時期や、チームの士気を高める必要がある状況において有効です。ただし、パフォーマンス問題への対応には十分なフィードバックができないため、他のスタイルと併用することが望ましいです。

5.民主的リーダーシップ (Democratic Leadership)   
時間をかけてチームの意見を収集し、懸念事項や多様な視点に耳を傾け様々なフィードバックを積極的に取り入れるリーダーシップスタイルです。メンバーはそれぞれの声が届きやすくなるため当事者意識や責任感が生まれます。新しいアイデアを出したい時や方向性に迷った時に有効ですが、緊急時やチームメンバーの経験や情報が不足しているときには適していません。

6.コーチングリーダーシップ (Coaching Leadership)  個々の成長と開発に焦点を当て、従業員の長期的なキャリア目標をサポートするスタイルです。このスタイルは特に1対1のパフォーマンス評価や個別の指導に効果的で、リアルタイムのフィードバックを通じてスキルの向上を促します。コーチングリーダーシップは「あなたはAが得意だが、Bをする時は、こういう理由でうまくいかない。代わりにCの方法を試してみてはどうだろう?」といった日常的な会話の中にも取り入れやすいスタイルです。

 

研究によれば、最も効果的なリーダーは環境の変化、組織のダイナミクスのシフト、またはビジネスサイクルの転換などの状況に応じてリーダーシップのスタイルを変えることができる人だといわれています。

例えば、新しいプロジェクトを立ち上げるときには、チームをまとめ、共通の目標に向けて人々を鼓舞するために、明確な方向性と説得力のあるビジョンが必要な権威的なスタイルを使用します。従業員が特定のタスクに苦戦しているときには、部下が新しいスキルを学べるよう支援するコーチングスタイルに切り替えます。また、経験豊富で意欲的な従業員のチームが厳しい締め切りを守る必要がある場合には、ペースセッティングスタイルを採用します。

複数のリーダーシップスタイルを状況に応じて使い分けることの難易度は高いですが、ゴールマン氏は、練習と繰り返しによってリーダーシップスタイルの範囲を広げることが可能だと述べています。また、ゴールマン氏は「リーダーの成功は、部下の生産性と効果にかかっており、部下のパフォーマンスに逆効果なリーダーシップスタイルを使っているとしたら、自分で自分の足を撃っているようなものた。」と述べています。状況に応じて部下のパフォーマンスを最大限に引き出せるリーダーシップスタイルを使用できるようにしましょう。

 

今後、注目されるリーダーシップスキルのトレンド

最後に現在のビジネスシーンでトレンドとなっており、今後ますます有能なリーダーに求めらる注目のリーダーシップスキルについてご紹介します。

トレンド #1:  テクノロジーに精通したリーダーシップ 
近年のデジタルトランスフォーメーションの流れは今後も続くため、テクノロジーに精通したリーダーシップが不可欠です。リーダーはAIやデータ駆動型の意思決定に精通している必要があります。デジタル最新技術、データ分析、生成AI系サービスの基盤となっている大規模言語モデル、サイバーセキュリティなどの理解が、効果的な意思決定と戦略的計画のために重要となります。テクノロジーに精通したリーダーは、AIの力を活用して組織内の革新と効率性を推進することも可能となるでしょう。

トレンド #2:  感情知能(EQ)
感情知能(EQ)は、今後の重要なリーダーシップ特性となると考えられています。高いEQを持つリーダーは、自己と他者の感情を正確に認識し、管理する能力を持っています。このスキルにより、リーダーはチームメンバーと共感し、対立を解決し、ポジティブな職場文化を育むことが可能となります。リーダーがチームの感情を理解し、つながりを持つことができる能力は、チームのダイナミクスや全体的なパフォーマンスに大きな影響を与えます。

トレンド #3: リモートおよびハイブリッド勤務におけるリーダーシップ 
仕事の構造が進化し続ける中で、今後はリーダーシップに対する新たな挑戦が続くことが予想されます。リモートおよびハイブリッド勤務の普及が進むにつれて、リーダーは異なる場所に広がるチームを管理するために適応する必要があります。これには、強力なバーチャルチームを構築し、効果的なコミュニケーションとコラボレーションのために技術を活用するリーダーシップスタイルが求められます。時間管理、信頼の構築、成果重視のリーダーシップなどのスキルが新しい状況に対応する際により重要となります。対面勤務を実施することで利益を得る会社もあれば、リモート勤務で成功する会社もありますが、調査によると、リモート勤務を実施するリーダーは、対面勤務を実施するリーダーよりも部下から信頼される可能性が22%高いという結果が出ています。

トレンド #4: 多様性、公平性、包括性 (DEI)
また今後は、組織にますます多様性、公平性、包括性 (DEI)が求められることが予想されます。これらの価値観は、先進的な企業の文化の中心となり、リーダーは全ての従業員がそれぞれの背景に関係なく評価され、成長の機会が平等に与えられる包括的な職場環境を作るために積極的に取り組む必要が出てくるでしょう。多様性トレーニング、ダイバーシティ採用慣行などへの取り組みは、新しい視点や革新的なアイデアをもたらす多様で包括的なチームの育成が組織内で重要化されるに従い、ますます大きな価値を持ってくると考えられます。

また、ビジネスがグローバルに拡大し、多様なチームと協力する際にも多様性のあるリーダーが不可欠となります。これらのリーダーは、文化的な違いを理解、尊重し、国境を越えて効果的にコミュニケーションを取り、グローバルチームを効率的に管理する必要があります。

トレンド #5:  サステナビリティ・リーダーシップ
環境のサステナビリティは今後も多くの企業にとって重要な課題であり、リーダーはサステナビリティを企業戦略に組み込んでいく必要があることが予想されます。リーダーは、企業の利益を超えた長期的な視点を持ち、組織の行動が将来の世代に与える影響を考慮し、組織の環境負荷の低減、環境に配慮した職場や業務の育成などに注力することを求められます。サステナブリティ・リーダーシップは、企業の未来を形作る重要な要素です。リーダーが持続可能なアプローチを採用し、組織全体を巻き込んで変革をリードすることで、企業は環境、社会、経済のバランスを保ちながら成長を続けることが可能になります。

トレンド #6: 健康とメンタルヘルス 
さらに今後リーダーは、メンタルヘルスを含む従業員のウェルビーイングの重要性をますます認識する必要があるでしょう。具体的には従業員が心身ともに健康でいられるように、組織内でウェルネス・プログラムや柔軟な勤務形態、ワーク・ライフ・バランスを支援する制度を実施するなどがあげられます。従業員のウェルビーイングを重視することは、生産性を高めるだけでなく、職場における従業員の健康に対する包括的な取り組みを示すことにもつながります。

 

今回は前編と後編に渡って必須となるリーダーシップスキルをはじめ、リーダーシップの基本スタイルや、さらに今後ますます求められるリーダーシップスキルのトレンドについて詳しくご紹介しました。現在マネージメント・ポジションに就かれている方、また今後マネージメント・ポジションを目指している方は、ぜひこちらの記事を参考にリーダーシップスキルをより高めて、仕事で成果をあげたり、キャリアアップに活用してみてください。

 

参照

https://hbr.org/2024/04/6-common-leadership-styles-and-how-to-decide-which-to-use-when

https://www.forbes.com/sites/rachelwells/2024/02/06/5-essential-leadership-skills-to-learn-in-2024/

https://www.ddiworld.com/blog/leadership-trends-2024#

https://passe-partout.com/leading-the-way-in-2024-10-key-leadership-trends-to-watch/

 


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