アメリカでは、日本からの駐在員として勤務している人やアメリカ現地で採用された人など、数多くの日本人が活躍しています。このコーナーでは、アメリカで働く方々に“ハタラク”楽しさや難しさなどをお伺いしています。今回はニューヨークでフラワーショップ「ADORE Floral 」を経営していらっしゃる内野千代美さんにお話を伺いました。
スタッフに望むことは、
仕事の経験がたくさんあるよりも、
「一緒に気持ちよく働けるかどうか」です。
…本日はよろしくお願いします。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
…千代美さんを知ったきっかけはインスタグラムなんです。素敵なお写真をたくさん掲載していらっしゃって、フォローさせていただいたのがきっかけです。ずっとお写真を拝見していたので、初めてお会いしたように思えない。(笑)
「ちょっと恥ずかしいですね」(笑)
…インスタグラムからフラワーショップを経営していらっしゃることがわかり、ウェブサイトを拝見させていただいたら、これがまたすごく素敵で。お店のインタグラムにも、きれいなお花がたくさん!なんて、センスの良い方なんでしょうと思いました。是非、お話をお伺いしたいなと思いました。
「それはありがとうございます。インスタグラムすごいですね」(笑)
千代美さんのお仕事について
…まず、千代美さんのお仕事について教えてください。
「マンハッタンのノリ―タで「ADORE Floral」というフラワーショップを経営しています。お店での販売の他、ウェディングやパーティーなどイベントでのお花も承っています」
…お花屋さんにとって一番忙しいのはいつでしょうか?
「うちの場合、一年中忙しいですが、特にあげるとすれば「バレンタインデー」ですね。朝早くからずっと、一日中、列が途切れません。男性はみなさん、がんばっていらっしゃいますよ」(笑)
…こちらでは「バレンタインデー」に、男性から女性にお花を贈る習慣がありますよね。日本とは少し事情が違いますね。(笑)
「そうですね。バレンタインデーに限らず、こちらではお花は基本、男性から女性に習慣的に贈る事が多いです。日中は仕事関係のオーダーが多いですけど、夕方は仕事帰りに奥さんや、恋人、もしくはお母さんにも、お花を買って帰る男性が多いですよ」
…お花はいついただいても嬉しいですね。
…ところで、「ADORE Floral」はどのようなきっかけでオープンされたのでしょうか?
「義理の母と叔父がマンハッタンでお花屋さんをやっておりまして、ずっとお店を見てきていたんですね。でも、お花のアレンジとか、植物の置き方とか、全然かわいくない。(笑)それで、主人と二人でやってみよう、ということになったんです」
…お店のノウハウはご家族から学ばれたのでしょうか?
「いえ、ほとんど独学です。会社の設立に関しては主人がやってくれましたが、お花についてはいくつかレッスンは受けましたが、ほとんど自分で勉強しました」
…それはすごいですね!独学とはどのように勉強されたのですか?
「枝の切り方や焼き方など技術的なことは本から学びました。お花のアレンジは、ほとんどセンスでやっています」
…それは、またすごいですね。(笑)お店も、お花のお仕事もはじめてということですね?
「はい、そうですね。自分でもかなり無謀だと思いますよ。(笑)でも、あまり深刻に考えない方がうまくいく事もあるように思います」
…どういうことでしょうか?
「周りをみていると、やりたいことがあっても、先にコストとか計算してしまって、結局やらない人が多いように思います。あれこれと頭で考えすぎると、怖くなっちゃうのでしょうね。あんまり考えすぎずにやってしまった方がいいんじゃないかと思います」
…やりたいと思う気持ちや、パッションが大事ということですね。
「もちろん、大変なこともありますけどね」(笑)
…お花は小さい頃からお好きだったとウェブサイトで拝見しました。
「好きでしたね。幼稚園の頃はよく近所のお花屋さんに行っていました。お花も好きでしたが、花束につけるリボンが大好きで、お花屋さんのお姉さんによくリボンをもらっていました」
…ずっとお花がお好きだったのでしょうか?
「高校生になってからはますますお花が好きになって、お小遣いをすべてお花に使っていました。その時から「この花はもつな」「この花はもたないな」とか、かなりお花屋さん目線でしたね」(笑)
…将来はお花屋さんを開きたいと思っていらしたのでしょうか?
「大学生の時に、お花屋さんとカフェが一緒になったお店をもてたらいいなと思ったことはありました。お店のフロアープランを描いて、友達に見せたりしていたんですよね。でも、その時はまさかこのような形で実現するとは夢にも思っていなかったです」
お店オープンから軌道に乗るまで
…「ADORE Floral」というお店の名前はとても素敵ですが、どなたがつけられたのですか?
「主人です。私のことを思ってつけてくれたそうです」(笑)
… “愛らしい”、“愛”という意味ですよね。ますます素敵ですね。
「ありがとうございます」
…ところで、アメリカにいらしたきっかけは?
「留学です。親戚がこちらにいたということもありますが、日本で大学に通っていた時に、ここで授業料を払うより、アメリカの留学に使った方がいいなと思ったんです。それで、大学を辞めてサンフランシスコの語学学校に行きました」
…行動力がありますね。
「なんでも、無謀なんですよね。(笑)その後、ニューヨークの学校に転校しました」
…お店は2005年からだそうですが、オープン時から順調でしたか?
「いいえ、そんなことはありませんでしたよ。最初の頃は主人と二人だけで毎日、7日間働きました。ノウハウもなく宣伝もしていなかったので売り上げもなくて、とても大変でした」
…どのくらいの期間、大変だったのでしょうか?
「オープンして、1~2年は大変でした。でも、毎日お店を開けていたら、だんだん近所の人が来てくれるようになりました。そして、常連さんも増えていき、毎週家にお花を届けて欲しいというお客さんもできてきました。そして、ホームパーティーやウェディングの仕事、企業からの注文も増えてくるようになりました」
…どのように宣伝されていかれたのでしょうか?
「ほとんど宣伝はしていなくて、ウォークインでいらしてくださるお客様が多いです。そして、うちはリピート率がかなり高いですね」
…それは素晴らしいですね。ご自宅のお花とはどういう方から注文を受けるのでしょうか?
「ニューヨークは富裕層の方がたくさん住んでいらっしゃるので、家に飾るお花やホームパーティーなどの注文を受けています」
…ゆとりのある方が多いのですね。
「そうですね。今はもういらっしゃらないんですが、以前、ビリオネイヤーのお客様がいらして、毎週、数千ドルというバジェットでお花を生けさせていただいたこともありました」
…それは楽しそうですね。(笑)
「はい。とても楽しくお仕事をさせていただきました。当時はとても貴重だった日本から輸入の一番高い花を使わせていただいたりして、やりがいも高かったです」
お花のトレンドについて
…日本からお花が輸入されているんですか?
「日本のお花は質がとてもよくて評判がいいんです。数年前はとても高価で、輸入の数も少なく入手しにくいお花でしたが、今は流通の関係で、入手しやすくなってきました」
…お花の世界もグローバルが進んでいるんですね。(笑)日本からはどのようなお花が輸入されているんですか?
「ラナンキュラス、スイトピー、デルフィ二ウム、スパイリア等たくさんあります」
…ニューヨークでもお花は生産されているのでしょうか?
「ニューヨークの生産農家は少ないですが、枝ものはニューヨークのアップステートから来ているものが多いです。お花にも流行があって、最近はローカルのものをなるべく使いたいという傾向が見られます」
…流行とはどういうものでしょうか?
「リーマンショック前のバブルの頃は、みなさんバジェットがたくさんあったので、ウェディングなどでは、テーブルごとにお花に400ドルくらいかけていらっしゃいました。当時は、緑ものを使わないで、お花だけでコンパクトに真ん丸なボールのようにアレンジをするのが流行っていました」
…その後の流れはどうなったのでしょうか?
「リーマンショック後は、バジェットも小さくなったということもあるかもしれませんが、メイソンジャーに”今庭で摘んできたばかりの花”というスタイルとか、ナチュラル志向になってきました。緑もの、枝ものを取り入れるようになってきました」
…興味深いですね。
「そして、なんとかローカルのものを取り入れようとする動きや、花の動きをいかしたアレンジをするようになってきました。また、お花屋さんから生産側、お花の農家に転向される方も出てきています」
お店のスタッフのこと
…ところで、お店のスタッフは何人いらっしゃるのでしょうか?
「現在は12人です。交代制なので今日は7人働いています」
…大勢ですね。スタッフの方と接する時には、どのようなことに気をつけていらっしゃいますか?
「みんなで楽しく仕事をしていけるようにしています。みんな仲がいいですよ。私も雰囲気をよくするように気をつけています。あとは、がみがみ言わないこと。前の職場で怒鳴られながら働いてきた子もいて、この店ではみんなで仲良く、楽しくやっているのでびっくりしたみたいです」(笑)
…それはよい職場ですね。(笑)
「一人ひとりがパーフェクトであるよりも、みんなで協力していけるような職場にしていきたいです。いまのメンバーはそれぞれ役割が分かれていますし、それぞれの強い分野があるので、そこに集中してもらっています。ミレニアル世代の従業員が多いので、ガツガツすると続かないですし(笑)。でも、今のメンバーはとてもいいですよ。みんなやる気があるし、みんなお花が好きなんですね。ある意味みんなアーティストです。プライドをもってやっています」
…採用時のポイントについて教えてください。
「スタッフを雇う上で、望むことは、仕事の経験がたくさんあることよりも、一緒に気持ちよく働けるかと言う事です。性格が良ければ、育てる事ができますので」
…お花の技術についてはいかがですか?
「最初から技術があれば助かりますが、技術は後で教え込めばよいと思っています」
ニューヨークでのビジネス
…ニューヨークでビジネスをしてきて大変なこと、難しいなと思ったことはありますか?
「アジア人は若く見えるので、オーナーに見られないんですよね」
…アルバイトの方かな?って思われてしまう?(笑)
「そうですね。私がオーナーよって。(笑)あと、最初の頃は言葉の問題にも苦労しました。ニューヨークはプロフェッショナルな人が多く、みんな自分は特別と思っている人が多いですよね。そうした人達にちゃんと対応できるようになるまで時間がかかりました」
…お客様に育てていってもらったとも言えますね。
「そのうちにだんだんと、人を雇えるようになって、電話もプロフェッショナルに対応できる人を雇えばいいし。電話はスタッフに任せて、私は花のデザインと、店のよい雰囲気づくりに努めたり、スタッフの面倒をみる役割にまわってもいいかなと思うようになりました」
…これまでで、一番大変だったことは何でしょうか?
「実は3月に、9年一緒に働いてくれていたスタッフがフリーランスになりたいということで辞めてしまいました。そして、他の長く働いてくれていたスタッフ2人も妊娠や別の仕事に転向したいという理由で辞めてしまったんです」
…それはお困りでしたね。
「どうしようかと思いました。私は去年一年、家や子どもの面倒などで忙しくて、お店はその9年働いていた彼女にすべてお任せしていたんですね。私がいなくてもお店がまわっていましたので、安心していました。急に彼女が辞めることになって、私もお店に戻ってきました」
…新しい方は採用できたのでしょうか?
「はい。総入れ替えという感じで、新しいスタッフがたくさん増えました」
…スタッフが変わっていかがですか?
「心配していましたが、実は雰囲気がとてもよくなりました」
…どのような風にでしょうか?
「みんなやる気があるので、活気にあふれていてとてもよい感じです。そしてみんなやる気があるから、次々と新しいアイデアも出てきています」
…アイデアとはどういうものですか?
「イベントですね。新しいクラスをやりたいとか、スタッフから提案が出てくるようになりました。クラスは以前から春にやっていたんですが、通常の業務にプラスになるので、マンネリ感がありました。みんな疲れていたんだと思います。今スタッフも増えて余裕も出てきたので、イベントをやりたいって、みんなが言ってくれています」
…直近ではどのようなクラスを予定されていますか?
「今、大きなイベントや、母の日が迫っていますので、かなり忙しいので、この季節が少し過ぎたあたりで、新しいスペースで、お花のクラスなどをする予定です」
…クラスの情報やお申し込みは、ウェブサイトで確認できますでしょうか?
「はい、お申し込みはウェブサイトで直接オーダーするのが一番ですが、メール(theshop@adorenyc.com)や電話でも対応できます。日本語でも大丈夫ですので、お待ちしています」
大切にしていること、心がけていること
…仕事をしていく上で心がけていることは何でしょうか?
「視野を狭めず、色々なものを取り入れるようにすることです」
…例えばどのようなことでしょうか?
「数年前、メイソンジャーにお花を生けるのが流行っていましたが、覚えていらっしゃいますか?」
…なんでもメイソンジャーでしたね。(笑)
「今はもう時代遅れだからやらないほうがいいと言うスタッフもいるんですね。でも、私は今でもニーズに合わせてやっていけばいいと思っています」
…流行りに合わせなくてもよいということですね。
「そうですね。先ほどお話したお花をコンパクトにまん丸に生けるスタイルも、今はあまり流行ってはいませんが、それぞれに“美”があると思うので、流行りにとらわれず、オープンマインディッドでやっていけばいいんじゃないかと思っています。うちは“街の花屋”がコンセプトなので、これからも色々なニーズに対応できるようにしていきたいです」
子育てと仕事の両立について
…ところで千代美さんはお子さんがいらっしゃいますね。
「はい、4歳と9歳の二人です」
…家事と仕事はどのように両立されているのでしょうか?
「これまでは何でも自分でやってきましたが、今は朝から夜遅くまで働いているので、だんだん難しくなってきました」
…一人で何でもは、無理ですね。
「そうなんです。最近、週に一回食事のつくり置きをしてくださる方をお願いするようになりました」
…仕事と家事・子育てを両立させるには誰かの手を借りるのがよいですね。
今後の夢や抱負
…これからの夢や抱負について教えてください。
「実は移転が決まっていて、内装工事も始まっているんですが、このお店の近くで、1階を花屋とカフェ、2階にイベントスペースを開く予定です」
…大学生の時の夢が実現するんですね。
「そうですね。そして、2階のスペースで、ウェディングや、パーティー、いろんな教室を開いていきたいと思っているんですが、さらに今ニューヨークでこれから活躍していく日本人のアーティストの方や、シェフの方ともコラボレーションができたらなあと思っています」
…新しいお店楽しみですね。ぜひ伺いたいです。
「ぜひお待ちしています」
…今日はありがとうございました。
「こちらこそありがとうございました」
【取材協力・お問合せ】
内野千代美さん (Chiyomi Uchino)
オーナー
ADORE Floral INC.
https://adorenyc.com/
357 Lafayette St. New York, NY
Phone: 212-925-8182
Email: theshop@adorenyc.com
Instagram: https://www.instagram.com/adore_nyc/
【取材・文】
QUICK USA, Inc.
Kumiko Komoda
8 West 38th Street, Suite 802, New York, NY 10018
Phone:212-692-0850
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