ホワイトカラー・エグゼンプションの給与引き上げ規則が無効化!

2024年11月15日、米国テキサス州東地区連邦地裁は、公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)のホワイトカラー・エグゼンプションの給与基準を引き上げようとする米国労働省(DOL)の最終規則を全国的に無効とする判断を下しました。今回の記事では、アメリカで働く際によく耳にするホワイトカラー・エグゼンプションについて、また、今回の裁判が起こされた背景や、この判決が与える影響について詳しく解説します。

 

ホワイトカラー・エグゼンプションとは

ホワイトカラー・エグゼンプション(White Collar Exemption)とは、アメリカの労働法において特定の「ホワイトカラー職」(管理職、専門職、事務職などの非肉体労働系の職業)を、時間外労働(オーバータイム)の支払い義務から除外する仕組みのことです。この規定は、公正労働基準法(FLSA)に基づいています。

 

ホワイトカラー・エグゼンプションが導入された背景

米国では1938年に労働者を保護するため公正労働基準法(FLSA)が作成され、この法律で、最低賃金や時間外労働の規制、児童労働の禁止などを規定しています。FLSAは雇用者に対して、週40時間を超えて働く従業員に残業代として1.5倍の時間外割増賃金を支払うよう義務付けていますが、その後FLSAの適用範囲を議論する中で、管理職や専門職といったホワイトカラー職は、以下の3点からブルーカラー職(肉体労働者)と異なるとみなされました。

独立性の高さ:
ホワイトカラー職は、より高度な専門知識や判断力を必要とし、自主的に業務を進める傾向があるため、厳密な労働時間規制が必要ないと考えられました。

賃金の高さ:
当時、ホワイトカラー職の給与はブルーカラー職よりも高いため、時間外手当がなくても十分な報酬を受け取っていると見なされました。

職務内容の違い:
ホワイトカラー職は、生産ラインで働くブルーカラーと異なり、直接的な労働生産性とは切り離された業務(例:経営管理、専門サービス)に従事していました。

 

そのため、管理職や運営職、専門職などのホワイトカラー労働者には、ブルーカラー職と同様の一律な労働時間規制が適用されないと判断されました。これに基づき、以下の要件を満たせば、残業代支給の対象外となります。

  • 賃金の支払い方法が時間給ではなく、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ規定水準以上の固定給与が支払われている。(サラリー要件)、
  • 管理、経営、または専門知識を必要とする(職務要件)、

(外勤営業職、医師、教師、弁護士等は職務要件のみ)。

 

現在のホワイトカラー・エグゼンプション規定

現在のホワイトカラー・エグゼンプション規定は、時間に応じた支払いではなく、労働の成果に対して一定額が支払われる「サラリー制」で労働者の週給が684ドル以上(年収3万5,568ドル以上に相当)」となっており、この規定は2020年1月から適用されています。

ニューヨーク、カリフォルニアなどの一部の州では、この連邦規定よりも高い給与基準が設定されており、より厳しい基準が適用されます。

 

ホワイトカラー・エグゼンプションに起きている変化

ホワイトカラー・エグゼンプションは、賃金労働者を保護するための法律の例外規定として機能してきました。しかし、時代が進むにつれて1970年代以降には経済構造の変化に伴い、ホワイトカラー職も長時間労働が増加し、不公平が問題視されるようになり、2000年代以降は給与基準が時代に即していない場合、労働者保護の役割を果たさなくなるとされ、ホワイトカラー・エグゼンプション給与基準の引き上げや職務基準の見直しが定期的に行われるようになりました。

2024年4月、DOLはホワイトカラー適用除外の給与基準を以前の基準(週給684ドル、年間35,568ドル)から、以下の2段階で引き上げる最終規則を発表しました。

2024年7月1日:週844ドル(年間43,888ドル)。(現時点では裁判所の判決により無効)

2025年1月1日:週1,128ドル(年間58,656ドル)。(現時点では裁判所の判決により無効)

また、「高額報酬従業員(HCE)」の基準も、2024年7月1日に107,432ドルから132,964ドルへ、2025年1月1日には151,164ドルに引き上げられました。

さらに、この規則では、3年ごとに最新の収入データに基づいて自動的に給与基準を引き上げることも定めており、これにより、アメリカ国内で約400万人の労働者に残業代が適用される可能性がありました。

DOLは新たな規則に関して「前回の改定から4年以上が経過し、その間、米国の俸給労働者は賃金の急速な伸びを経験し、現在の俸給水準の有効性が低下している。誰が真の管理職、運営職、専門職として雇用されているのかをより効果的に特定し、公正労働基準法(FLSA:The fair Labor Standards Act)が意図する時間外労働の保護が完全に実施されるようにするため」と説明している。

 

連邦裁判所の判断

これに対して複数のビジネス団体がテキサス州と共に、規則の全国的な無効化を求めて裁判所に訴えました。連邦裁判所はこうした大規模な規制変更を行う権限はDOLにはない、と結論づけ、この規則が全国の何十万もの雇用主と何百万人もの従業員に影響を与えることを考慮し、規則の全国規模での無効化が妥当であるとしました。これにより、2025年1月1日に施行予定だったホワイトカラー・エグゼンプションの給与基準引き上げは実施されないことが確定し、また、2024年7月1日に施行された給与基準引き上げも無効とされました

 

今後の展開

DOL(米国労働省)は判決を控訴する可能性があり、控訴裁判所が地区裁判所の命令に対して効力停止(ステイ)を発行する可能性もあります。この場合、控訴審が進行する間、規則が引き続き有効となります。しかし、一方で、次期トランプ政権が控訴を取り下げるか、控訴手続きを停止する方向に動く可能性も考えられます。

今回の連邦裁判所の判断により、現在、ホワイトカラー・エグゼンプション給与基準は2024年7月1日以前の水準に戻っていますが、引き上げられた基準が再度施行される可能性に備えて、雇用主はこの問題に関する最新の動向を注視する必要があります。

また、無効化された規則に基づき、給与やエグゼンプションのステータスを調整した雇用主は、これらの変更を今後、撤回するかどうかを専門家と共に検討することが強く推奨されます。

 

参照
https://www.dol.gov/agencies/whd/overtime/rulemaking/faqs
https://www.shrm.org/topics-tools/tools/express-requests/flsa–final-overtime-rule
https://www.hklaw.com/en/insights/publications/2024/11/federal-court-vacates-department-of-labor-overtime-exemption-rule#:~:text=Federal%20Court%20Vacates%20Department%20of%20Labor%20Overtime%20Exemption%20Rule,-Holland%20%26%20Knight%20Alert&text=A%20federal%20district%20court%20in,the%20white%2Dcollar%20overtime%20exemptions.
https://www.littler.com/publication-press/publication/federal-court-strikes-down-rule-raising-salary-threshold-white-collar
https://www.fisherphillips.com/en/news-insights/federal-judge-blocks-overtime-rule-nationwide.html
https://www.msci.org/federal-court-vacates-u-s-overtime-regulation/
https://www.hoganlovells.com/en/publications/federal-court-blocks-dol-overtime-rule-nationwide
https://www.dol.gov/agencies/whd/overtime/rulemaking/faqs

 

【監修】
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MBA, SHRM-SCP
山口 憲和   (Norikazu Yamaguchi)
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