H-1Bビザは、大変人気の高い米国の就労ビザのため、毎年発行されるビザの数に制限(キャップ)があります。雇用主から提出されたH-1Bビザ申請の数が年間キャップを超えると、米国市民権・移民局(USCIS)は抽選を行い、処理対象となる申請をランダムに選びます。H-1Bビザ抽選は、H-1Bビザの需要の高さに起因しており、米国でH-1Bビザステータスを取得しようとする雇用主や潜在的な従業員にとって大変、競争の激しいプロセスです。もしも、H-1Bビザ抽選で選ばれなかった場合は速やかに利用可能な代替ビザオプションを検討することが重要です。今回は、H-1Bビザの抽選に外れてしまった時の代替ビザオプションとして、6つの就労ビザをまとめてご紹介させていただきます。
アメリカで働きたい方で、H-1Bビザについてあまりご存じない方は、以前ご紹介した記事「2024年最新!アメリカ転職で絶対に知っておきたい【米国就労ビザ】重要ポイント!」をご覧ください。
1. キャップ免除H-1Bビザ
H-1Bビザには年間の上限(キャップ)が設定されていますが、特定の雇用主はこのキャップの対象外とされ、これを「キャップ免除H-1Bビザ」と呼びます。
また、キャップ免除雇用主が申請するH-1Bビザの申請は抽選対象外なので年間を通じていつでも申請できる上に、通常、キャップ対象のH-1Bビザより処理が早くビザ取得プロセスがスムーズです。H-1Bビザ抽選に外れてしまった場合、キャップ免除H-1Bビザを検討することは有効なオプションといえます。
キャップ免除のH-1Bビザを提供できる雇用主は主に下記の3つになります。
- 高等教育機関
- 米国の認定された大学やカレッジが該当します。これには公立および私立の大学が含まれます。
- 高等教育機関に関連するまたは提携している非営利団体
- 高等教育機関と提携する教育病院や、時には小学校・中学校なども含まれます。
- 非営利または政府系の研究機関
- 専門分野の知識を深める研究を行っている非営利団体や政府機関が該当します。
こうした雇用主のもとでご自分の専攻分野に関連するポジションを獲得することが出来れば、H-1Bビザの抽選に落ちても、再度H-1Bビザを申請することが可能となります。
しかしながら、キャップ免除の雇用主が必ずしもH-1Bビザスポンサーになることを望んでいるわけではないので、雇用主の選定やリサーチが重要です。また、キャップ免除が可能な雇用主は特定の業界や地域に限られることが多いため求人が少なく、また、多くは非営利団体や政府系機関であるため、給与がキャップ対象の雇用主よりも低い場合があることにも注意しておきましょう。キャップ免除職からキャップ対象職への転職を希望する場合、ビザの移行が必要で、その際は通常のH-1B抽選プロセスに従う必要があります。
2. L-1ビザ【駐在員ビザ】
L-1ビザは「駐在員」ビザとも呼ばれ、海外の会社がアメリカの関連会社に社員を派遣する場合に使われるビザです。Lビザには主に以下の2つの種類があります。
L-1Aビザ (管理職・役員向け)
L-1Aビザは管理職または役員のポジションにある従業員が対象です。取得するには、申請者が過去3年間のうち、少なくとも1年間はアメリカ国外の関連企業(親会社、子会社、支店、または提携企業など)で管理職や役員として勤務していた経験が必要です。初回の滞在期間は最大3年間で、延長すると最大7年間滞在が可能です。
L-1Bビザ (特殊技能職向け)
L-1Bビザは特殊な知識やスキルを持つ従業員が対象です。この知識は企業内で特に重要なものであり、他の従業員が簡単に代替できないものである必要があります。初回の滞在期間は最大3年間で、延長することで最大5年間滞在が可能です。
Lビザを申請する企業は、アメリカ国内にオフィスがあり、アメリカ国外にも関連企業(親会社、子会社、支店、または提携企業)を持っている必要があります。Lビザ保持者の配偶者や21歳未満の未婚の子供はL-2ビザの申請が可能です。L-2配偶者は就労可能ですが、 L-2 子供は就労不可となっています。またLビザ保持者は、アメリカでの滞在期間中に永住権(グリーンカード)を申請することが可能です。
企業は従業員がH-1Bのキャップ抽選に外れても、アメリカ国外に関連企業(親会社、子会社、支店、または提携企業)がある場合、その従業員を1年間海外に派遣すると、その後、L-1ビザで米国に呼び戻すことが可能となるため、海外に拠点を持ち、候補者を海外赴任させることが可能な米国雇用主にとって、L-1ビザという選択肢はH-1Bビザの代替オプションとして非常に有効です。
3. O-1ビザ【卓越した能力/業績ビザ】
O-1ビザは、科学、芸術、教育、ビジネス、陸上、テレビ、映画などの分野で「並外れた能力を持つ外国人」を対象とするビザです。並外れた能力の具体的な基準は分野によって異なります。
O-1Aビザ
科学、教育、ビジネス、スポーツ分野で卓越した能力を持ち、その分野でトップに立つ少数の人物である個人を対象とするビザです。メディアでの取り上げや出版物で国内外での高い評価を受けているなどの証拠が必要です。
O-1Bビザ
芸術分野や映画・テレビ業界で卓越した能力を持つ、もしくは顕著な業績を持つ個人が対象で、国際的な評価や有名なプロジェクトへの参加などが求められます。映画やテレビ業界では、重要な賞の受賞や評価の高いプロジェクトへの参加が基準となります。
O-1ビザの有効期限は最長3年ですが、許可されたイベントや活動を完了するために継続的な滞在が必要であることを示す証拠があれば、通常、1年の延長が可能であり、延長回数の上限はありません。またO-1ビザ保持者は、アメリカでの滞在期間中に永住権(グリーンカード)を申請することが可能です。配偶者および21歳未満の未婚の子供はO-3ビザを利用して、アメリカに同行可能ですが就労することは出来ません。
Oビザは、H-1Bビザに比べて資格要件として、はるかに高い基準が求められるため取得が非常に難しい就労ビザの一つとされていますが、申請者がご自分の分野で卓越した能力や業績を証明可能であればH-1Bビザの有効なオプションになります。
4. Eビザ【貿易駐在員/投資家ビザ】
Eビザは日米間の貿易や投資を活発にすること目的とする日米間の条約によるビザです。E-1は「条約貿易業者ビザ」、E-2は「条約投資家ビザ」として知られています。Eビザは大企業から小規模のレストランやアパレルの貿易会社などでも申請可能です。Eビザの取得者は、一度の入国で通常、最大2年間まで滞在することが可能です。
E-1 貿易駐在員ビザ
E-1ビザは、Lビザのように申請者が多国籍企業の従業員であり、その企業が申請者をアメリカに転勤させたいと希望している場合に適しています。また申請者は、その企業の貿易活動において不可欠な技能を持っていることが求められます。E-1ビザ保持者の扶養家族もアメリカでの就労が可能です。
E-2 投資家ビザ
E-2ビザは、外国の国民がアメリカに多額の投資をし、その投資を管理・運営するために取得するビザです。投資に必要な金額は業界によって異なり、必要な投資額は決められていませんが通常、専門家は投資家ビザを取得するためには10万ドル(およそ1600万円)以上の投資をアドバイスする傾向が強いといわれています。
E-1またはE-2ビザ保持者は、ビザの条件を継続的に満たしている限り、何度でも2年間の延長を申請できます。Eビザの配偶者(E-1S 、E-2S 、E-3S のステータス)はアメリカ国内での就労が可能です。
申請者が貿易に関する多国籍企業の従業員である場合や、多額の投資が可能な場合におすすめのビザオプションです。
5. J-1ビザ【トレーニー、インターン、研究者・学者、オペア(チャイルドケア)ビザ】
J-1ビザは、アメリカ合衆国で特定の交流プログラムに参加するための非移民ビザです。これらのプログラムは、アメリカと他の国々との間で文化的および教育的な交流を促進するために設けられています。
J-1ビザにはトレーニー、インターン、研究者・学者、オペア(外国にホームステイして現地の子供の保育や家事をする見返りに滞在先の家族から報酬をもらって生活する人)など様々なカテゴリーがあります。
J-1トレーニービザ
このカテゴリーは、アメリカの企業や組織での実務経験を通じて、特定の職業や分野でのスキルを向上させたい個人を対象としています。年齢制限はありませんが、申請者は通常、大学の学士号、またはそれに相当する学歴と、学士号取得後1年以上の関連職業経験があるか、または大学卒業前の実務経験が関連していることが求められます。滞在期間は最大18カ月で、プログラムや雇用契約に基づきアメリカの企業から給与を受け取ることができます。
J-1インターンビザ
このカテゴリーは、現役の大学生または大学卒業後12カ月以内の個人が対象となっています。インターンシップは大学で専攻分野と直接関連している必要があります。J-1インターンビザの最大期間は12カ月で、このビザもアメリカの企業での実務経験を積むことができ、給与や手当を受け取ることができます。
J-1研究者・学者ビザ
このカテゴリーはアメリカの教育機関や研究機関での教育活動や研究活動に従事する個人を対象としています。滞在期間はプログラムによって異なりますが、通常は1年以上のプログラムが多く、最大5年間滞在することができます。このビザを取得するためにはアメリカの教育機関や研究機関が、プログラムスポンサーとして認定されている必要があり、通常、関連する分野の大学院修士号または博士号が求められます。ポスドクや専門的な職歴も考慮されることがあります。また、研究者や教授としての実績や経験が求められることがあり、これには、論文の発表、専門的なプロジェクトの遂行、指導経験などが含まれます。プログラムや雇用契約に基づき研究、教育機関から給与や報酬を受け取ることができます。
J-1オペアビザ
このカテゴリーは英語能力がある18歳から26歳までの若者で、アメリカの家庭で生活し子供の世話をしながらアメリカの文化を学び、体験したい個人を対象としています。申請者は子供の世話や育児に関する一定の経験や資格が求められることがあります。ホストファミリーは、オペアに対して宿泊費と食費を提供し、子供の世話や家庭内での軽い家事を手伝ってもらい、一定の給料を支払います。給料の額は家庭によって異なりますが、最低限の額は規定されています。滞在期間は通常12カ月ですが、プログラム終了後、さらに6カ月の延長が可能な場合もあります。
J-1ビザ保持者の配偶者や21歳未満の子供は、J-2ビザを申請してアメリカに同行就労許可(EAD)を申請して就労することが可能です。J-1ビザは比較的取得しやすく、就労も可能なため人気のビザですが、プログラム終了後に最低2年間は母国で過ごさない限り(もしくはしかるべき手続きをして帰国義務免除が承認されない限り)、H-1Bビザやグリーンカードなど、特定のビザに申請できなくなるという2年ルールが適用されるケースが多いので注意が必要です。
6. TNビザ【カナダ、メキシコの国籍保有者の専門職ビザ】
TNビザは、北米自由貿易協定(現在の米国-メキシコ-カナダ協定(USMCA))に基づき、メキシコとカナダの国籍を保有する方が利用できるビザです。TN ビザは企業のスポンサーシップを必要としませんが、このビザを申請したい個人は、米国の雇用主から米国政府が決めたTNビザの専門職リストにあたる職種(会計士、エンジニア、グラフィックデザイナー、弁護士、ソーシャルワーカー、都市計画士、医師、科学者、教師など)に該当するオファーを受けている必要があり、それ以外の職種でのTNビザの申請は出来ません。
カナダ国籍をお持ちの方
カナダのアメリカ大使館や領事館でビザ申請を行う必要はなく、アメリカ入国時に国境で直接TNビザを申請することが可能です。
メキシコ国籍をお持ちの方
メキシコのアメリカ大使館や領事館でビザ申請を行う必要があります。
TNビザの有効期間は最大3年間で延長できる回数に制限はありませんが、TNビザは非移民ビザでありアメリカでの永住を目的とするものではないので、ビザの取得にはアメリカでの一時的な滞在であることを示す必要があります。 TNビザ保持者の配偶者や21歳未満の子供は、アメリカでの就労が許可されていませんが、教育や生活のために滞在することができます。
今回は、H-1Bビザの抽選に外れてしまった時の代替ビザオプションとして、7つの就労ビザをまとめてご紹介させていただきました。H-1Bビザ抽選の競争率は大変高く、当選率は2023年の当選率は約27%、2024年は約25%となっています。残念ながら抽選に外れてしまった方は今回の記事を参考に、ぜひ代替ビザオプションを検討してみてください。
参照
https://cilawgroup.com/news/2024/04/01/h-1b-alternatives-available-visa-options/
https://www.boundless.com/blog/alternative-visas-if-you-lose-h-1b-lottery/
https://www.hio.harvard.edu/tn-visa-process-administrators
https://www.forbes.com/sites/andyjsemotiuk/2023/01/23/why-h1b-visas-suck-and-7-best-alternatives-to-choose-from/
https://ogletree.com/insights-resources/blog-posts/not-selected-for-an-h-1b-alternate-work-authorization-options-in-the-united-states/
https://icenter.tufts.edu/wp-content/uploads/TN_Appendix1603D1.pdf
【監修】
木村 原(Gen Kimura)
Managing Attorney
中小機構国際化支援アドバイザー
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