「日本の人事部」と「アメリカのHR部門」との違い
日本の人事部とアメリカのHR部門では企業における役割には大きく違いがあります。日本の人事はローテーション中心でジェネラリストが人事担当者になりますが、アメリカでは大学や大学院にて心理学や経営論を専攻した者、およびHR経験者であるスペシャリストがその役職に就きます。
日本の人事部は人事権を持っているケースが多いですが、アメリカのHRでは人事権は現場のマネジャーが持っていることが多く、そのためHRとしては、採用、評価、解雇、昇進、降格などで、適切で円滑に運営がなされ、従業員からのクレームや訴訟が起こらないように、また会社ベネフィットの見直し、教育育成のためのプログラム作りなどテクニカルな部分におけるサポート役に徹しているのが一般的です。
複雑な人種構成、文化や言語などの違いからくるアメリカならではの特異な背景があるからなのですが、日々グローバル化が推進される日本の職場にも今後は人事のスペシャリスト化が進むのではないかと考えられます。
一般的に日本本社での人事部は「人事権」という、採用、育成、異動についての権限を持っています。新卒者の一斉採用から始まり社員の能力向上や経験のためにジョブ・ローテーションを行う人事戦略が基盤にあるのが理由です。また多くの日本企業の経営層は人事部出身者も多いということからしても人事部が本社の中で力を持っているといえるでしょう。
一方アメリカのHRでは、採用、評価、解雇の権利は現場のマネジャーが握っており、人事に関する責任は現場責任者の重要な任務となっています。ではアメリカのHRの役割ですが、「各現場チームを支える」という「ピープルマネジメント」の側面が顕著であるといえます。現場チームごとにおける目標設定、評価、育成や教育等、全社にわたる制度構築的な部分を担い、現場マネジャーの相談に乗り、サポートを提供します。
もちろん複雑多岐にわたり、毎年のように変わる雇用法にも対応し、社内規定や文書をアップデートし、会社ベネフィットを見直し、従業員からのクレームに適正に対応し、訴訟リスクの芽を摘むのも欠かすことの出来ない重要な業務であるのは言うまでもないことです。
日本の人事部は経営の中枢層にも近く本社内での権力も持っているに対して、アメリカのHRは専門職集団としてスペシャリスト化しているといえるでしょう。またスペシャリスト化しているからこそ「人事のアウトソーシング化」もトレンドとして増えてきているといえます。
アメリカ国内で行われるHRのセミナーやカンファレンスなどに参加しますと9割近くが女性で、ここ10年ほどでより顕著になったと感じています。70年80年代では労働組合代表者との間でのタフネゴシエーションを取り仕切るマッチョ的な人間が必要でしたが、時代と共に変わり今やHR部門は女性進出を象徴する花形的職場となっています。一方で、日本の人事部ではいまもやはり男性中心の職場が多いのではないでしょうか。
このように「日本の人事部」「アメリカのHR」は似てはいますが、非なるものでもあります。歴史、文化、人種構成、言語、雇用法、慣習、訴訟リスク等において日米間には大きな違いがありますので、一概にどちらが良い悪いというような判断はできません。ですが、世界は日々グローバル化が進んでいるのだから、人事もいずれ近い将来グローバル人事、あるいはグローバルHRが確立されて、グローバルに統一されるのではないだろうかと感じられても不思議ではないのですが、どうもそのようなことにならないだろうと考えます。
日米間に違いが存続する限り、人事あるいはHRはそれぞれの国においてこれからも独自の展開を遂げていくように思えてなりません。グローバル人事あるいはHRというのはどうも幻想にすぎないのではないでしょうか。「アメリカの日系企業の人事部」をこれから皆様とご一緒に考察してまいりたいと願っております。
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【執筆】
President & CEO
酒井謙吉
Ken Sakai
8532 SW St Helens Dr. Wilsonville, OR 97070
Email :kenfsakai@pacificdreams.org
Phone: 503-783-1390
【酒井謙吉氏プロフィール】
信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。
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