このコーナーではアメリカのHR関連の情報や、ビザ等アメリカで働くために有益な最新情報を発信しています。今回は、Pacific Dreams, Inc.の酒井氏による「ギグワーカー従業員化へのカリフォルニア州法」についてです。
【アメリカ人事・労務関連】ギグワーカー従業員化へのカリフォルニア州法
カリフォルニア州ではこの9月上旬にAB(Assembly Bill) 5という新たな法案が州上院議会で可決され、その後ギャビン・ニューサム州知事も法案に署名を行いましたので、2020年1月1日より正式に施行の運びとなります。本法案は、労働者を自社の従業員とするのか、あるいはコントラクター(独立請負業者;Independent Contractor)とするのかをABC テスト という基準で採用前に確認しておかなければならないとするカリフォルニア州の新しい州雇用法となります。
本法案のターゲットとしている労働者というのは、お気づきのことかと察しますが、「ギグワーカー」と呼ばれている、インターネットやそのアプリ上で単発的あるいは短期的な仕事を日常的に請け負っている人々になります。ギグ(Gig)は英語のスラングのひとつで、単発あるいは一度きりといった意味があります。とりわけカリフォルニアで始まったウーバーやリフトなどのライドシェアに従事する運転手が年明けにはコントラクターではなく、ライドシェア会社の従業員にすることが本法律上、義務付けられることになるはずなのです。(ライドシェア会社は法律施行後も従業員にはしないと主張してはいるのですが)
今までは従業員ではなく、あくまでもギグワーカーで運転手として従事してもらっていた人たちを従業員化することで、ライドシェア会社は、ギグワーカーには支払う必要のなかった社会保障税やメディケア税、失業保険税、労災保険料などの負担、さらには州または市の最低賃金支払い、残業代支払い、有給病気休暇(シックリーブ)の提供など、相当な額の人件費が上乗せされることなります。外部コンサルティング会社の試算によりますと、運転手一人当たりの人件費は従業員にすることによって年間で$3,625のアップ、これはギグワーカーで働いてもらっている現状と比べると平均35%のコスト増につながるものとされています。
現在、カリフォルニア州内だけでもウーバーの運転手が14万人、リフトが8万人いるとされ、両社を兼業している人も多数いると推測されますが、いずれにしても相当な人々がライドシェアで自分の空いている時間を有効活用して、好きな時間に自由な働き方をしていることがわかります。またライドシェアだけに限らず、コントラクターあるいはフリーランス(両者の間に厳密な定義の違いは特にあるわけではありません)と呼ばれる業態で働く人々はいまや全米に1,060万人もいて、アメリカの全就業人口の6.9%を占めるまでに至っています(2018年度 BLS; 全米労働統計局)。これらの人々をギグワーカーから従業員化させるのかどうかを見極める基準となるのが、ABCテストだというわけです。
それではごく簡単にABCテストをご紹介してみます。従業員ではなく、コントラクターであるためには、以下の3つの条件すべてを満たしていなかればならないと、新州法であるAB 5 は謳っています。
1.会社の直接的な管理下あるいは監督下には置かれていないこと
2.会社の通常業務の範囲外での仕事をしていること
3.同じ業界内で独立した事業を手がけていること
つまり、会社としてこれら3つの条件をすべて証明できない限り、ギグワーカーの人たちも従業員として取り扱わなければならない、というのが今回の新法の主旨だということになります。
年が明けてから、果たしてライドシェアのギグワーカーたちはライドシェア会社の従業員として分類されることになるのものか、興味津々のところですありますが、これはカリフォルニア以外の全米規模においても同業者たちは固唾を呑んで見守ることになるものと思われます。雇用法に関しては新規の法律がまずはカリフォルニアでその産声が上がり、徐々に全米の進歩的な州へと採用されていく道筋を取ることがほとんどです。しかもライドシェだけに限定されない、たとえば単発にデリバリーを請け負う配送会社や宅配サービスの会社も本州法の影響を直接的に受けることになるものと察せられます。確かに蓋を開けてみないとどのくらいのインパクトとなるか正直わからないのですが、どの会社でもひとつやふたつの業務において法律の影響が出てきてもおかしくはありません。いまのうちからABCテストを遂行しておき、まずは法律施行への先手を打っておかれることをお奨めしてみたいと思います。
【執筆・記事に関するお問合せ】
酒井謙吉氏(Ken Sakai)
President & CEO
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【酒井謙吉氏プロフィール】
信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。
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