州政府の仕事を請け負うには
-米国マイノリティと女性企業プログラム-
去年1年、完全にストップしてしまったNY市政府とのビジネス、Eラーニング制作プロジェクトがやっと再開した。知っている人も多いと思うが、これはMWBEプログラムと言われる少数民族、あるいは女性オーナー向け(企業規模の制限はあるが)の、多数の州政府や市政府が繰り広げる優先ビジネスプロジェクトである。トピックとして、ちょっと皆さんへの有効性は低いかもしれないが、自由と平等を貴ぶアメリカ政府の施策の一つの紹介として、今回はこのMWBEプログラムと、弊社の政府ベンダーへの道のりについて書いてみたい。
MWBEはMinority and Woman Business Enterprisesの略で、主に少数民族、女性が設立した企業を指す。各政府は、ベンダー企業の規模やオーナーの民族、性別などによる偏りを是正するという目的でMWBE企業への発注機会を増やしている。また地元の企業に発注することで、落としたお金がほかの地域や海外に出にくい、という地産地消の利点もある。特にNY市ではその動きが顕著で、1992年ディンキンズ市長が発足させ、ブルンバーグ市長、現在のデブラジオ市長と引き継がれて今日に至り、特にデブラジオ市長は市長オフィスの中にMWBE部署を発足させ、目標値を掲げながら大きな施策の一つとしている。
デブラジオ市長の目標は、2015年にから2025年までに$25BのコントラクトをMWBEに発注するというものである。現在はその$17.1B, 68%まで達成できており、2020年の発注額は$1.103B、全体の発注額との比率は28%で、今年中(NY市の決算は6月)に30%を達成したいといっている。
当然ながら、一番発注額が多い分野は建設である。しかし市が必要とするすべての物資が含まれるわけだから、COVID対策のマスクやPPE、生徒児童に配給したラップトップやフリーランチの食料、当然ながらIT関連や会計、法務サービス、最近はヘリコプターの受注も見たし、弊社のようにEラーニング制作や研修、コーチングの需要もある。
当社は6年前にNY州とNY市から、MWBE認証を受け、少しずつ両政府にコンタクトをしていた。しかし本当のところ、MWBE認証があるとはいえ、政府の牙城に食い込んでいくのは大変。でも、MWBEへの注目は大きく、そして1回食い込めば連続して発注してもらえる利点もある。誰でもできることなので、興味のある方は以下の弊社の経験談を読み進めてほしい。
会社と製品・サービスを1分で
質問:どうやってお目当てのコンタクトとつながったか?
当社の場合NY市全体の研修を取り仕切っている人がターゲットだったが、その人とどこに行けば繋がれるのかが分からない。現在はすべてオンラインになってしまったが、たくさんセミナーがあるので登壇者のEメールを控えておいてコンタクトする方法にスイッチ。実際NY市の職員はフルタイム職員だけで32万人(2015年調べ)いるし、NY市長付の部署だけで50もあることから、お目当ての人を見つけるのには沢山のオンラインのネットワーキングセミナーに出ながら、道なき道をたどっていくしかない。当社の場合は、延べ20以上のネットワーキングイベントに参加するうちに、当社に興味をもった部署からのコンタクトが舞い込んだ。そして曲折はあったものの、その部署からほかの部署を紹介してもらうことができた。また、MWBE企業はそれ以外の企業と違って、RFPのような正式な発注プロセスを使わない少額発注の抜け道を使うことができる。
質問:政府にセールスするときの準備は?
アメリカで売り込みに行くときには、政府も企業も問わず自社の製品やサービスを明確に、どうしてそれが必要なのか、自社を選んでもらう理由などを1分のスピーチにまとめて覚えておき、いつでも話せるようにしておくことが重要。特に営業や企業のトップが話に来たら、1分もあればその会社のことを完璧に魅力的に説明してくれるはずという期待をもっている。日本のように、仲介者に頼るマーケティングも実際、相当な力を発揮するが、そのようなケースに当たることはまれ。とにかく会う人ごとに自社の業界でのポジショニングと製品の特長をすらすらとしゃべり、その人から関連のある人を紹介してもらったり、「そういえばこんな会社を知っている、コンタクトしてみたら」という口コミマーケティングをしてもらうことを狙う。だから、当社も政府ベンダーになるため、1分のエレベータースピーチ、1枚で会社の全体像を表すケイパビリティステートメントの作成に多くの時間をかけた。実際、そういうことをじっくり教えてくれるMWBE向けの研修もたくさんあって、サービスは至れり尽くせりだと感じた。ちなみにスピーチでは、最初の1行目で何をしている会社か、次の1行でどんな問題を解決するか(数字を用いて説明)、最後の1行で自社の強みや差別化、過去の実績などを説明するように教わった。
反応がなくてもしつこくアタック
質問:ターゲットコンタクトへのアタック?
コンタクトするのに「遠慮はいらない」。ミーティングを申し込むためにどんどんメールを送り、電話をかける。メルマガリストにその人を登録して定期的にメルマガを送る。関連のない内容を送りつけたり、同じ内容のものを何度も送ったりすることはご法度だとくぎを刺された一方で、遠慮なくしつこくマーケティングすることは大事だとも教えられた。
当社の場合、最初にコンタクトを受けたのは、高齢者保護を担当する部署。彼らとの話は頓挫したが、代わりに市政サービス全般を担当する部署のSさんがNY市全体のEラーニング制作の権限を握っているという、思ってもみなかった情報を得た。そこで、Sさん向けにミーティングを申し込むためのメールと電話を初月は毎週2回、2カ月目からは毎週1回に頻度を下げてコンタクトした。しかし返信は全くなし。「メールを受け取った」もなければ「多忙なので来月連絡する」もない。2カ月間アタックしたところで自信をなくしかけたが、Sさんの上司を紹介してもらい上司にもメールを送った。それでもなしのつぶて。「パーソナルに取るな(傷つくな)」と励まされたが、これではもうお手上げである。3カ月目は2回のメールで終わりにし、あとはメルマガを送るだけにした。ところが、それから6カ月後、突然Sさんから「プロジェクトがあるので、会いたい」と連絡が来たのである。こちらはほとんどSさんの存在を忘れていた頃だ。当初の自分のしつこさを申し訳なく思っていたので、晴れてミーティングでSさんに会ったときには、最初にそのことを謝った。でも彼女は次のように言ったのである。「だからあなたの会社を覚えていた」。
日本だったら反対に嫌われる可能性のあるほどのしつこいコンタクトだったと思う。でも、アメリカでは歓迎されていた、という例である。担当者はほかのプロジェクトに忙殺されていて、返信すらしてくれないかもしれない。でもアメリカでは攻めの一手が功をなす。
※この記事に関してご質問は、Waterview Consulting Group, Inc.まで、お気軽にお問い合わせください。
【執筆者】
今泉江利子
CEO
Waterview Consulting Group, Inc.
email: eriko@waterviewcoaching.com
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