これからの経営戦略にかかせない!「ダイバーシティ」と「インクルージョン」
最近、ビジネスシーンで見聞きする機会が増えた、「ダイバーシティ」や「インクルージョン」という言葉。詳しくは知らなくても聞いたことがある方や、まだ聞いたことがない方と、様々かもしれませんが、ダイバーシティやインクルージョンはこれからの企業にとってかかせない、また、働く全ての人によい影響を与えてくれる、大切なコンセプトです。
今回はダイバーシティやインクルージョンの詳しい紹介、具体的な取り組み方などを紹介させていただきます。
【ダイバーシティとは】
ダイバーシティは多様性という意味の英単語(diversity)で、組織マネジメントや人事の分野で、性別、人種、国籍、宗教、年齢、学歴、職歴などにこだわらず、様々な人材を登用し、多様な働き方を受容していこうという考え方のことです。
ダイバーシティという考え方は米国で生まれました。女性や有色人種などの社会的地位が低かった1960年代から1970年代にかけて、マイノリティーの地位向上や差別撤廃を求める声が高まり、政府は雇用機会の均等化や差別を是正するために「新公民権法」を制定しました。
雇用の面で、企業による性別や人種の差別が法により禁止され、企業は女性や人種的マイノリティの採用を積極的に行うようになりました。1980年代に入ると、企業はCSR(企業の社会的責任)の積極的施策として、ダイバーシティマネジメントに取り組み始めます。
1987年に発表された「Workforce 2000」という労働白書には労働力人口の中心を占めていた白人男性の新規参入者の割合が47%から15%まで急減し、今後、労働力が急速に高齢化・女性化していくことが予想されており、
このレポートにより企業は従来、戦力外とされていた女性や障がい者、非白人の人種、高齢者などを積極活用していく方向で人事や組織戦略を大きく見直さなければならなくなっため、さらにダイバーシティマネジメントが急速に広がり始めました。
現在は、ビジネスのグローバル化が進んでおり、企業は世界の多様なニーズに対応する必要性が高まってきています。このような時代の中で、多様な人材を活かしている企業のほうが、業績を伸ばしているという事実がダイバーシティマネジメントの普及をさらに後押ししています。
【ダイバーシティの表層的な属性5つと深層的な属性7つ】
ダイバーシティに含まれる多様性には実に多くの属性があり、一般的に考えられている国籍や人種、性別や年齢だけではありません。属性は見た目で判別しやすい表層的な部分と、外見からでは識別が難しい、人の内面の特性である深層的な部分があります。
全てではありませんが、以下がダイバーシティにおける属性となります。ダイバーシティを推進する取り組みでは、表層だけに限らず深層にまで拡大し、これら全ての属性の尊重と受け入れを目指すことが重要です。
表層的な目に見える属性5つ
国籍、人種・民族、性別、年齢、障がい
深層的な目に見えない属性7つ
宗教、学歴、職歴、性的志向、考え方、習慣、趣味、スキル・知識、コミュニケーション力
【企業におけるダイバーシティのメリット】
ダイバーシティが企業へもたらすメリットは数多くありますが、主として下記があげられます。
グローバルに優秀な人材の確保と活用
多様な属性を持つ人材に視野を広げることで、海外経験のある人や外国語が堪能な人、様々な文化的背景を持つ人など、グローバル社会に対応できる人材が候補者に入ってきます。
またダイバーシティに真剣に取り組む職場は、これからの企業が生き残るために必要な優秀で多様な人材にとっても魅力的で働きやすい場所となります。
また、リモートワークなどを取り入れ、就業形態を多様化させることで「最適な能力を持っているが、フルタイムでは働けない」といった人材の受け入れなども可能になります。
市場での有利性アップ
企業がダイバーシティを取り入れることで、多様化する消費者の嗜好や価値観をビジネスに結びつけ展開することが可能になります。多様な社員がいれば、多様な顧客ニーズや要求に対して敏感になり、迅速かつ的確に対応が可能になります。
米国のある会社はスペイン系住民が多い地域でスペイン語が堪能な社員に営業を担当してもらったところ、売り上げが大きく伸びたそうです。このようなメリットを得るには多様な人材の雇用は必須です。加えて、職場に様々な視点を持つ人がいることで多様なアイデアが生まれ、マーケティングや商品開発において多角的な視点をもたらすことが可能になります。
革新性や創造性の向上
多様性のない企業では大多数の人が似たような視点や価値観を持っているので、革新的なアイデアや問題解決策が生まれにくく、多様化する顧客のニーズにも適切に応えられないため、組織の競争力を低下させてしまいます。
これに対して多様性の高い企業では、多様な人材の様々な個性や経歴、能力をフルに発揮させることにより、異なるアイデアや視点、経験などが刺激し合い相乗効果により、革新性や創造性が多く生まれ、変化の激しい不確実な経済環境にフレキシブルに対応することが可能になります。
米国のシリコンバレーでは研究者やエンジニアたちの過半数以上が外国生まれという企業も多く、そのような多様な人材の集まりから、今までにない多くの斬新的な製品やサービスが生み出されているのです。
企業価値の向上
ダイバーシティマネジメントにより、多様な人材が働きやすい環境が整うと、現在、雇用されている従業員にも、より働きやすい環境になります。従業員の満足度が向上し、外部からもよい評価を受けて企業価値が高まると、業績が向上したり、さらに優秀な人材の採用が可能になるといった好循環が生まれます。
また、企業理念のひとつとしてダイバーシティを打ち出し、それを実践し魅力的な企業となれば、消費者からの信頼も得られ、ブランディングにも大変効果的です。
【従業員にとって職場でダイバーシティが必要なわけ】
ダイバーシティは企業にとってメリットがあるだけではなく、現在、職場で働いている人々にとっても非常に大きなメリットがあります。具体的にどういったメリットがあるのか見ていきましょう。
個性が尊重され、活躍の場が広がる
ダイバーシティマネジメントの基本的なコンセプトである「差別をしない」や「相手を尊重する」など多様な個性を尊重する考え方は、マイノリティの人々だけではなく、現在働いている従業員にも適用されるため、働きやすくなります。
ダイバーシティマネジメントによる従業員の意識教育が機能すると、パワーハラスメントや、セクシャルハラスメントなど多くのハラスメントの発生も抑制できるはずです。
また、ダイバーシティマネジメントでは、これまでの役割分担や配置などが変化し、企業が個々の個性や長所を理解して、活用できるよう変化します。そのため、従業員ひとりひとりが活躍できる場が広がります。
多様な人たちと共に仕事をすることで刺激が得られる
職場でダイバーシティが促進され、違いを受け入れて多様な人たちと共に仕事をすることで新しい考えや価値観に触れ、自己の成長やキャリアにつながる刺激を得られます。広い視野で物事を考えられるようになれば、仕事の幅も広がります。
ライフサイクルのバランスが整えやすくなる
個人の事情に合わせた多様な働き方が選択できる制度が整えば、従業員のライフサイクルのバランスが整えやすくなります。育児や介護などのライフイベントに限らず、資格の勉強や趣味によるリフレッシュなど、新しい選択肢が生まれることは非常に大きなメリットです。
職場や働き方に対してストレスが減り、満足度が向上し、従業員ひとりひとりが働きがいを感じられるようになれば、社内全体のモチベーションが向上し、生産性の向上や新たな価値の創造につながります。
企業に対して安心感や信頼感が生まれる
ダイバーシティが促進されると従業員は理解され、受け入れられているという認識から企業に対して安心や信頼感が生まれ、企業と働く個人の距離が縮まります。また上司や同僚に対して反応を怖がったり、恥ずかしいと感じたりせず、自然体の自分を隠すことなく全てオープンにできる状態になり、発言や行動がしやすい心理的安全性が高い穏やかな雰囲気がある職場になります。
【ダイバーシティに必須!インクルージョンというコンセプト】
皆さんはインクルージョンという言葉を聞いたことがありますか?インクルージョンはダイバーシティマネジメントを行う際になくてはならないコンセプトです。
ダイバーシティとは最初に説明したように、「多様な個性、背景を持つ人材を積極的に採用し、組織に様々な人材が存在している」という状態ですが、インクルージョンは「互いに個性を認め、受け入れ合い、一体となって働く」ということを指しています。
つまり、「多様な人材を受け入れる」という意味のダイバーシティが、「受け入れたあと、その人々の個性を活かして一緒に働く」というインクルージョンによって活用されるのです。
例えば、ある企業が、「多様性を重視しよう」と女性管理職を増やしたり、様々なバックグラウンドのある人たちや障がいのある社員を採用するという状況は、「ダイバーシティ」です。
ですが、雇用後に女性たちが社内の勤務体制がフレキシブルでなく「育児と仕事の両立が難しい」と感じていたり、様々なバックグラウンドのある人たちや障がいのある社員がマイノリティとして他の社員から差別されるなどの問題が発生する場合は、ダイバーシティは実施されていてもインクルージョンは行われていない職場となってしまいます。
つまりダイバーシティの実施だけでは不十分で、「多様性のある人材を組織の一員、仲間として受け入れる」、「多様性のある社員それぞれが働きやすい環境を整え、ひとりひとりが存分に活躍できる仕事の場を与える」というインクルージョンが実施されなくてはならないのです。
インクルージョンが行わなければ、せっかくダイバーシティで採用した人材が離職してしまうこともあります。ダイバーシティマネジメントを実施するうえで非常に重要なコンセプトなので、よく覚えておきましょう。
【ダイバーシティとインクルージョンを促進する方法】
では、実際に職場でダイバーシティとインクルージョンを実行する場合、どんな施策が考えられるのでしょうか?具体的な方法をみていきましょう。
「アンコンシャス・バイアス」に対する教育
ダイバーシティとインクルージョンを実現するためには「アンコンシャス・バイアス」に対する教育が欠かせません。アンコンシャス・バイアスとは本人が気づいていない無意識の偏見や無意識の思い込みを指します。
例えば、「男性はパソコンが得意だ」、「女性は事務作業が向いている」、などは典型的なアンコンシャス・バイアスです。こうした偏見や思い込みは職場に性別や人種に対する偏見を発生させ、多様な人々の働きを妨げてしまい、ネガティブな影響を与えてしまいます。
米国の大手IT企業では、ダイバーシティマネジメントの取り組みとして組織からのアンコンシャス・バイアスの排除を目指し、全社員にアンコンシャス・バイアスのトレーニングとバイアス・バスティングのトレーニングを受けさせています。
アンコンシャスバイアスのトレーニングでは、無意識の偏見は誰しもが持っているという気づきを与え、バイアス・バスティングでは職場で起きる無意識の偏見に対して行動を起こすための練習を行い、社員全員で多様な人々が働きやすい環境を作る努力を行っています。
多様なバックグラウンドのある人々を雇用し、かつ平等な昇進の機会をつくる
ダイバーシティとインクルージョンを実践するために、性別、人種、国籍、宗教、年齢、学歴、職歴、障がい、性的指向などにこだわらず多様な人材を雇用し、かつ全ての人に平等に昇進の機会を与えることができるよう、社内のシステムを見直して改善しましょう。
社員に多様性があっても、管理職に多様性がなく公平な人事が行われていなければ、ダイバーシティとインクルージョンが実現されているとはいえません。多様性を実現するために管理職の〇%を女性にする、などと具体的なゴールを設定するのも大変効果的です。
北欧の大手家具企業では、社内に公募制度があり、正社員の欠員やポストの新設がある場合は、募集要項が掲示板で周知され、パートタイマーを含む全ての社員に応募の機会が与えられているそうです。また、同企業は女性管理職の増加にも力を入れており、その比率はほぼ目標の50%に達しています。
職場における差別を禁止するポリシーの強化と理解の促進
職場において、国籍、人種・民族、性別、年齢、障がいや、宗教、学歴、、職歴、性的志向、考え方、習慣、趣味、スキル・知識、コミュニケーション力などにおいて差別を禁止するポリシーを明文化して徹底しましょう。
また従業員にダイバーシティやインクルージョンをよりよく理解してもらうために、企業内で異文化や民族性を理解するための研修や、障がい、LGBTQに関する研修を実施するのもおすすめです。
多様な働き方を可能にするシステムの構築
フレックス制やリモートワーク、介護や育児休暇を取り入れるなど、従業員の多様な働き方を可能にするシステムを構築しましょう。従業員がライフステージの変化に直面しても、働き続けられるよう、多様な働き方を奨励することが重要なポイントです。
スイスの大手食品会社は全世界の従業員に対して「マタニティ・プロテクション・ポリシー」を公表しています。これは従業員に対して最低14週間の有給育児休暇を保証するとともに、希望に応じて有給を6ヶ月まで延長できる権利を付与します。この権利は男性社員や養父母などにも適用され、新生児の世話をする全ての人が対象となっています。
また、職場復帰時には育休前と同じ職務を保証する、柔軟な勤務形態を認める、本社および50人以上の女性従業員がいる拠点では授乳室の設置を義務づけるなどの内容も盛り込まれています。
職場をよりインクルーシブな環境に整える
多様性のある従業員が働きやすいように社内の環境を整えることもダイバーシティとインクルージョンを実現するために大変重要です。
育児を行う従業員のために会社に託児所や授乳室を作ったり、障がいのある従業員のためにバリアフリーの環境を整備したり、LGBTQの従業員のためにジェンダーフリーのトイレの設置など、多様な人々の属性により、環境の整え方もそれぞれ異なってきます。
取り組みが難しく感じられる場合は、それぞれの属性の従業員に何が必要か意見をいってもらうのもおすすめです。
定期的に従業員からフィードバックを受ける
ダイバーシティやインクルージョンを推進する取り組みを行ったら、必ず従業員から定期的にフィードバックを受けるようにしましょう。ミーティングを開いて、皆に意見を言ってもらう方法もよいですが、それぞれが話しやすいように個人的にインタビューを行う方法もおすすめです。
フィードバックを受けることにより、様々な属性の従業員の意見を取り入れてダイバーシティマネジメントを改善することが可能になります。
今回はダイバーシティとインクルージョンに関して詳しく説明させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?ダイバーシティとインクルージョンはグローバル化が進む今後の企業戦略に欠かせないコンセプトです。
すぐに効果を出すことは難しいですが、ぜひ記事を参考に長期的な視点を持ち、ダイバーシティとインクルージョンに取り組んでみてください。
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