今年のハンドブックアップデートの拠り所
皆様の中には、今月4月から新年度をお迎えになられた企業様もきっと多いのではないかと察します。新年度の到来にあわせて、会社にあるハンドブックのアップデートについていまさらながらの感はするかもしれませんが、今回はあえて取り上げさせていただきます。もちろん、ハンドブックのアップデートは何も新年度のこのタイミングで行うべきという決まりがあるわけではありませんので、必要に応じて行えばよいだけなのですが、今年に入ってまだアップデートをなされていない企業様があれば、2021年に限れば、この時期を逃さずにぜひともアップデートに着手してほしい理由がいくつかあります。それらを交えて今回のお話とさせていただければ幸甚です。
まず申し上げたいことは、コロナ禍が始まってから1年余りが経過し、ワクチン接種の普及もここアメリカ国内では目を見張るペースで進んではいるものの、変異種による拡大感染もあって、まだまだ収束にはほど遠い状況が今後とも続くことが予想されます。そのような状況下にあって、新政権からコロナ禍救済のための経済支援策や新たな法令(ARPA: American Rescue Plan Act of 2021)などが矢継ぎ早やに出され、すでにその効果も実際出始めています。 あとは年内中における時間軸を仕切っての法令の実施を確実に遂行していく段階となりました。そこでは今後やらなければならないマイルストーンについてもクリアになってきたのではないでしょうか。
決められたことを実行に移していく段階の中で、それら新たに要求される義務を皆様が属する日系企業様におかれましても今から明確化しておく必要があるものと察せられます。そういった背景をもとにして、コロナ禍における新たな枠組みを企業としての実効性として反映させるためにも、社内で文書化あるいは明文化しておくことが何といっても欠かせません。その要(かなめ)となりますのが、まさに皆様の会社で作られ、運用されているハンドブックであることに他ならないというわけです。
連邦議会で法案が可決通過され、バイデン大統領によって承認のサインを得たARPAの連邦法、法令ではないもののCDC(疾病対策予防センター)やOHSA(連邦職業衛生安全局)、そしてEEOC(連邦雇用機会均等委員会)などの連邦行政機関から出されている各種のガイドライン、そしてさらに各州で法令化された州法を取り入れたハンドブックのレビューとアップデートがこのタイミングでどうしても必要だというのは、私が単にHRコンサルタントであるからという立ち位置からだけで申し上げているのではありません。新しい法令やガイドラインへのコンプライアンスのみならず、やはり企業としてより重要であるのは、皆様の会社で働く従業員の方々をコロナから守っていくというより大きな視点であり、根本的な取り組みではないかと考える次第です。そのようなポイントをしっかりと押さえることで、単にハンドブックを新しく改定しなければならないという義務的な意図だけではなく、従業員を、さらには会社をコロナから守る上での避けて通ることのできない拠り所になるのではないでしょうか。
ここまではやや抽象的なことを申し上げてしまいましたが、実際にハンドブック上でアップデートがどうしても必要な箇所をピンポイントでご指南させていただきます。まず、コロナの感染予防対策を会社のポリシーとして書き加えてください。OSHAから出されているガイドラインにも職場における感染予防ポリシーの作成が義務付けられています。そして、ワクチン接種ポリシーも会社がワクチン接種を推奨するとした立場で作成されますことが望ましいかと存じます。 やはり、EEOCの方からワクチン接種に関するガイドラインが出されていますので、今のところこのガイドラインに添った形でのポリシー作成がベストプラクティスになるものと思います。 感染予防ならびにワクチン接種に直接的に関連するのですが、会社が提供するコロナ関連における有給シックリーブについて、新たにページを持たれることがやはり欠かせません。皆様の会社がある州によっては、州法によって従業員の自主隔離や検査、そしてワクチン接種に関して有給シックリーブを提供しなければならない場面が出てまいります。各州法ごとにコンプライアンスしている記述であることが要求されますので、場合によっては法律の専門家に見てもらったほうがよいかもしれません。
最後に、これは法令絡みではないのですがコロナ禍が始まって働き方での大きな変化のうねりが企業および皆様の従業員を飲み込んでいるのはどなたでもお感じのことであろうかと察せられるところであります。つまり従来のオフィスで行う業務に代わって、多くの企業様でこの1年間の中、テレワークやリモートワークに移行して、それがすっかり定着した節があります。そうしますと、コロナ前には従業員にテレワークなどは基本的に認めていなかった企業様であれば、テレワークに関する社内ポリシーなどもお持ちではなかったものと思われますので、やはりこの際、新たにテレワークポリシーを作っておくことはほぼ必須だと存じます。テレワークポリシーをハンドブックに入れる際に、考慮せねばならないことは、テレワーク中の休憩時間などを含めた勤怠管理、残業の事前承認、報告の仕方やコミュニケーション、さらにテレワークで発生するホームオフィスなどでの経費の支払いなどについても社内のガイドラインとなる枠組みをこのタイミングで作っておくことがあとあと従業員との間での揉め事にならないためにも不可欠であるかと感じます。
特にテレワークについては、コロナ禍における一過性のトレンドで終わることはもはや考えにくく、コロナ収束後も一定の割合でテレワークを続ける企業や職場は残るであろうといわれています。 従来のオフィスなどの職場に出勤しての勤務と週の何日かは自宅で働くテレワークとの共存、つまりハイブリッド型での勤務形態が今後の新しいトレンドとして定着することが想定されるところとなっています。やはり多くの企業様にとりましては遅かれ早かれ、自社のテレワークポリシーの作成は待ったなしだと申し上げることができる所以です。このように、コロナ禍によって多くの変化を受け入れ、柔軟に対応していくことはもはやどの企業様にとりましても避けて通れない経営上の勘所となるとさえ思われる次第です。いろいろと申し上げてまいりましたが、新年度に突入したこの時期を逃すことなく、ハンドブックのアップデートに取り掛かってみませんか。 自社だけでやろうとしても難しいものと思いますので、HRの専門家などをリソースとして上手くご活用されてみてください。
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【執筆】
President & CEO
酒井謙吉
Ken Sakai
8532 SW St Helens Dr. Wilsonville, OR 97070
Email : kenfsakai@pacificdreams.org
Phone: 503-783-1390
【プロフィール】
信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。
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