2020年11月19日
米国労働省及び米国国土安全保障省は、雇用ベースのビザの賃金要件とH-1Bビザ申請を裁定するための規制基準を変更する暫定の新規規則の2項目を発表しました 。
始めに、第1項目目の賃金条件の変更に関する新規規則は、2020年10月8日から新規と申請中の賃金判定の両方に適用されます。加えて、第2項目目のH-1Bビザの新規規則は、60日後となる2020年12月7日からの適用となり、同日、又はその後に申請された新規の申請書が対象となります。尚、既に申請済みで現在審査中の申請書の判定においては、現在の規則に基づいて審査されるということです。
従って、これらの変更点は、行政手続法で定められている標準評価(Standard Review)と意見聴取期間(Comment Period)を経ない形で、労働省と国土安全保障省によって施行されることを意味します。 米国労働省及び米国国土安全保障省は、行政審査の要件を無視し、経済的な大変動に伴うパンデミックに即時に対応する必要性を強調することで、当規則の変更を正当化しようとしているのでしょう。これらの変更の最大の目的は、米国人労働者を保護すること、またH-1Bビザプログラム設定に至る歴史的およびH-B本来の法定的な主目的と一致させることのようです。
永住権ベースおよび一時的な雇用ベースのビザ申請に必要な一般賃金率の引き上げについて
労働省は、一般賃金決定(Prevailing Wage Determination:通称PWD)または労働条件申請(LCA)を必要とする、永住権ベースおよび一時的な雇用ベースのビザ申請の両方に必要な一般賃金率を引き上げています。これらのビザの場合、労働省は、特定の地域における特定の職業の賃金に関する調査に基づいて、「賃金レベル」を4つの層に分けています。
これまでは、特定の専門職に対して、賃金レベルが17%に位置するエントリーレベルの賃金額設定においても雇用ベースのビザ請願が可能でした。しかしながらこの新しい暫定規則では、それが45%にまで引き上がったことで、おおよそ全体の中央値の賃金レベルの支払いが必要になることを意味します。
尚、専門職のビザカテゴリーであるH-1B, H-1B1, E-3とI-140の申請に該当する新しい賃金レベルは、以下の通りです:
賃金レベル PW 1: 17% から 45%
賃金レベル PW 2: 34% から62%
賃金レベル PW 3: 50% から78%
賃金レベル PW 4: 67% から95%
H-1Bビザの専門職(および雇用者と従業員の関係)の定義の変更について
2つ目の新規則が発表されたことにより、移民局の「専門職」に関する規制上の定義にもいくつか重要な変更が加わっています。この規則は、主に情報技術(IT)職員、および第3機関での労働派遣社員の配置を対象としています。この規則によると、2019年に認可されたH-1Bビザ申請の56%が「IT業界関連」であったのに対し、2004年にはわずか32%でした。特に、この規則は「IT業界関連」についての定義はしておらず、「ソフトウェア開発」の役割に対する申請の裁定について具体的に説明しています。したがって、「IT業界」には非常に幅広いカテゴリーの申請が含まれているようにみられます。
新規則によるIT業界対象の変更の一部は以下の通りです。
・移民局の規制によりH-1Bビザの専門職枠に関する 「契約労働者」という言葉を削除します。
・それは、その仕事が投機的でないことを明確にしています。つまり、申請者は、一時的または将来の契約労働枠に対して外国人労働者を雇用しないということです。
・それは、雇用者と従業員の関係(労使関係)をより厳密に定義しており、新規則において国土安全保障省は、雇用主と従業員の関係を確立するために、雇用者は従業員に対し「雇用、支払い、解雇、監督」の全てを遂行することを示す必要があると主張しています。尚、単に、次のいずれかを実施するという証拠を示すだけでは十分ではありません。
全体的な変更の簡単な要約として、国土安全保障省はH-1Bビザ規制について次の修正点を加えています。
・H-1Bビザ受益者の雇用予定の職業内容が専門職であるかどうかを決定するための規制の定義と基準の改訂。そうすることで、用語としての法定定義に対してより具体的な一貫性が維持されることになります。
・専門職の仕事の裏付けとなる証拠を要求する。新規則によると、特定の専門分野で必要な学位と特定の専門的職務との間に直接的な関係があることを示す相当量の証拠提出が必須となります。
・現地企業訪問およびその他のコンプライアンス調査を実施する権限を保持し、企業側が現地企業訪問を許可しなかった場合の対処を規制する権限の体系化を実施する。
・H-1Bビザ申請において一般的な旅行要件を排除する。
・第3機関での労働派遣社員の配置の最大有効期間を1年に制限する。
・(要求された雇用期間未満が認可される場合における)特定のH-1Bビザ認可について書面で説明する。
尚、新規則によると、必要な学位分野と職務との直接的な関係の証拠が必要になります。これはこれまで移民局の規制で明確に述べられていませんでしたが、弊社SW Law Groupでは、この数年、このことが移民局による審査裁定の傾向であるとし、この関連情報、資料をH-1Bビザ申請書の1部として常に提出し続けてきました。
尚、もう1つの注目すべき変更点は、「Normally: 通常」、「Common: 一般的」、および「Usually: 普段」(業界にとって)という単語が移民国籍法に含まれていないため、規制から削除されたことです。また、申請者は、特定の専門分野の学士号またはそれに相当する学位が米国での職業に最低限必要であることを明確にする必要があり、それに対して、移民局は裁定基準を変更するに至りました。尚、新規則により、このことを証明するために、特定の専門分野の学士号が常に職業全体の要件であることを示す必要があります。又は、申請者は、そのポジションが他の裁定基準等を満たしていることを証明する場合があります。これらには、関連業界内の職業上の要件、申請者の特定の要件、または職務が非常に専門的、複雑、または独特であるため、特定の専門的な職務を遂行する必要性があることを証明すること等が含まれます。
しかし、実際には、移民局は何よりもまずこれらの規制の最初の基準に従って審査しているようです。というのも、移民局は、特定の専門分野の学士号が常に職業全体の要件であるかどうかを判断する際に活用する、労働省の職業ハンドブック(Occupational Outlook Handbook )を主に活用し、この基準に基づいて、質問状(および場合によっては却下通知)を発行します。
なお、弊社SW Law Groupでは、このことについても以前から申請要項として適応してきました。
弊社SW Law Groupは、1年以上前にH-1Bビザ申請の審査裁定におけるこの傾向に気づき、(移民局の規則に明示的に記載されていませんが) 長い間、これらの傾向に従って申請書を準備してきました。 もちろん、これは将来の結果を保証するものではありませんが、現在規制で成文化されている移民局の審査裁定の傾向に対応する準備は既に整っています。
発効日、および今後について
既にお伝えしましたが、この 2つの暫定的新規則は、次の異なる時期に有効になります。
・賃金条件の変更に関する新規規則は、2020年10月8日から新規と申請中の賃金判定の両方に適用されます。
・H-1Bビザに関する新規規則は、60日後となる2020年12月7日からの適用となり、同日、又はその後に申請された新規の申請書が対象となります。尚、既に申請済みで現在審査中の申請書の判定においては、現在の規則に基づいて審査されるということです。
これらの規則に対して、今後多くの異議申し立て(訴訟)が発生することが予想されます。私たちは、これらの変更、及び移民局の様々な政策の実施と審査裁定の傾向、および訴訟を引き続き監視し、アップデートされた情報を随時お客様にお知らせしていけたらと考えております。
この記事はSW Law Group, P.C.のウェブサイトでもご閲覧可能です。この記事に関してご質問は、SW Law Group, P.C.まで、お気軽にお問い合わせください。
【執筆】
SW Law Group, P.C.
New York Office
オフィスマネージャー
吉窪智洋
108 West 39th Street, Suite 800, New York, NY, 10018
www.swlgpc.com
Phone : 212-459-3800
SW Law Group, P.C.は、ニューヨークのマンハッタンに1994年に設立以来(設立当初はシンデル法律事務所)、移民法の専門弁護士事務所として1万件以上のビザ、永住権等の取得実績を誇る。2011年4月にはCA州シリコンバレーにもオフィスを設立。NY, CA, 日本を拠点にリーガルサービスを提供している。
●「アメリカの人事部」ニューレターのお申込み
クイックUSAは「アメリカの人事部」を発足し、在米日系企業様向けにニュースレターを配信させていただいております。アメリカでビジネスを遂行していくために、必ず知っておかなければならない法律、人事・労務、ビザなどの最新ニュースを定期的にお届けしております。「アメリカの人事部」のニュースレターの受信をご希望の企業様は、下記までお気軽にお申し付けください。
「アメリカの人事部」のニュースレターお申込みご希望の方はお手数ですが、会社名、ご担当者様氏名、役職、電話番号、会社のご住所、E-mailアドレスを明記の上、下記E-mailアドレスまでご連絡くださいますようお願いいたします。
E-mail:info-usjinjibu@919usa.com
「アメリカの人事部ニュースレター」のバックナンバーをご希望の方は、
E-mail:info-usjinjibu@919usa.com まで、
ご希望のナンバーをお気軽にお知らせください。
【バックナンバー】
No.1 日本の人事について、トランプ政権発足以降のビザ取得の状況
No.2 人事が知っておくべき高額医療/消費者保護法(CCPA)施行/感染症対策
No.3 コロナウィルス拡大で米国CDCも推奨「在宅勤務」について/シックリーブ
No.4 在宅勤務特集/在宅勤務に関するQ&A
No.5 コロナウイルスに関するQ&A/WiFiの規定/より快適な在宅勤務のコツ
No.6 CDC雇用者向けページを確認しよう/After COVID-19の訴訟について
No.7 ポスト・コロナの職場環境/ビザ取得の状況/WEB面接のコツ
No.8 出社への不安という理由/職場再開における適正な準備と手順
No.9 Return to Workのポリシーを作ろう/オフォス再開に関する一問一答
No.10 コロナ禍で考える「評価制度の構築」/ Don’t be silent ~アメリカの人事は差別との闘いであるから
No.11 移民法、雇用調整助成金(ERC)最新情報
No.12 失業保険の不正受給が急増/評価制度Q&A
No.13 職場におけるコロナ関連訴訟/オフィス対策/感染テスト
No.14 ポストコロナの雇用の考え方/CDCより新
No.15 CA州無給休暇と収入保障/強い企業になる
No.16 ポストコロナの新入社員研修/最新移民法/
No.17 訴訟が多いワースト10/コーチングの活用目的
No.18 緊急有給シックリーブ法の改定/リモートでのコミュニケーション
No.19 各州の雇用に必要な給与額/従業員が感染!会社としての対策とは
No.20 2021年は2.6%昇給すべきか?/採用もマーケティングと同じ
【アメリカでのご採用をご検討中の企業様へ】
★採用でお困りなことはありませんか?
クイックUSAでは、アメリカでのご採用のお手伝いをしています。
フルタイム、パートタイム、派遣等、御社のご採用のお手伝いをさせていただきます。
お気軽に下記までご連絡ください。
●人事・労務関連のご相談にも応じております。
クイックUSAではハンドブックの作成・見直し、ジョブディスクリプションの作成、セクハラ防止セミナーの開催など、
人事労務関連のご相談も承っております。内容、お見積りなど何でもお気軽に下記までご相談ください。
QUICK USA, Inc.
[Los Angeles Office ](Headquarters)
1995 W.190th Street, Suite 200 Torrance, CA 90504
Email:quickla@919usa.com
Phone: 310-323-9190
[New York Office ]
8 West 38th Street, Suite 802, New York, NY 10018
Email:quick@919usa.com
Phone: 212-692-0850
クイックUSAでは、Linkedin、LINE、Instagram、Facebook、Twitterでも情報発信をしています。是非、フォローお願いします。
【こちらの記事もおススメです!】
【アメリカの人事部】
・失業率の推移、学校再開とFamilies First Coronavirus Response Act(FFCRA)
・ポストコロナで、海外での新入社員研修はどのように変わるのか?
・超ややこしい カリフォルニア州 妊娠・出産における無給休暇と収入保障
・EMPLOYEE RETENTION CREDITの取扱いがアップデートされています!
・感染症(新型肺炎・季節性インフルエンザ)に対し人事部がすべき事
【アメリカ人事・労務関連】
・無料ウェビナー!「これからの時代を生き抜くための営業&マーケティングの秘訣」
・【無料】ウェビナーのご案内「コーチング型リーダーシップセミナー ~新型コロナ時代で求められる対話とは~
・【無料ウェビナー】 “オンボーディングでピンチをチャンスに” 【リモートにおける社員研修セミナー】の勧め
・8月5日(水)「ウィズコロナ時代のHRベストプラクティス」ウェビナー開催!
・在宅勤務でどう対応?!マネジメントと評価制度ウェビナー(後日無料個別相談可)
・【無料個別相談】オフィス再開に向けてのコンサルテーション / Quick USA × Key International
・【E,Lビザ】移民法ウェビナー(無料)開催!QUICK USA x S.W. Law Group
・QUICK USA x Kintone【無料】ウェビナー開催!
・HRの専門家に個別相談できるチャンス!「日系企業向けWEB相談会」
・ニューヨークにて「HRマネジメントセミナー」が開催されます。
・ニュージャージーにて「HRマネジメントセミナー」が開催されます。
・2020年に向けて、従業員ハンドブックのアップデートはお済みでしょうか?
・2020年1月10日(金)トーランスにおいてHRマネジメントセミナー開催!
・12/11,12/12ニューヨークにて日系企業向けHRマネジメントセミナーを開催いたします!
・すぐに実践できる!アメリカの企業に学ぶ、社員の士気を高める15の方法
・ネバダ州でのサービス拡大のお知らせ!ラスベガスで開催される展示会にもスタッフを派遣いたします!
・9/23「働き方改革 次の一手」~新しい時代のマネジメント~セミナーレポート
・10月8日(火)「ニューヨーク州セクハラ防止トレーニング」ウェビナー開催!
・イリノイ州において、職場でスタッフ全員に年に一度セクハラ防止トレーニングを提供することが義務付けられました。
・ニューヨーク州で、セクハラや差別に関する法律が改正されました。
・イリノイ州では採用時に過去の給料について尋ねることが禁止されます。
・【「働き方改革 次の一手」~新しい時代のマネジメント~ セミナー開催!(無料)
・カンザスシティでは採用時に過去の給料について尋ねることが禁止されます。
・知らないと会社が滅びる!?ミレニアル世代の考え方~今後の企業マネジメント変革
・「働き方改革 次の一手」~新しい時代のマネジメント~セミナー開催リポート
・夏休み期間の有給インターンシップ希望の学生をパートタイムスタッフとして採用した事例
【アメリカ転職・就職関連】
・Pick up!全米最新求人を地域ごとに一挙にご紹介です!
・アマゾンで働くということ(5)新卒社員が挑戦するリアルなやりがい
・海外生活経験をAmazon Japande活かしませんか?
・10月12日(月)はコロンブス・デーのため休業とさせていただきます。
・アメリカ就職、転職活動の最重要事項!【自己分析と他己分析】Part1
・アマゾンで働くということ(4)自分らしい働き方で人生を切り拓いて
・アメリカでの仕事探しでも知っておきたいDXの4つのポイント
・9月7日は「レイバー・デー」のため休業とさせていただきます。
・ここがポイント!面接官がチェックするコミュニケーション力とは
・プロに相談しよう!8月の「WEB就職・転職相談会」(無料)
・アマゾンジャパンで働きませんか?新規ポジション5件ご紹介!
・企業が欲しい人材になる!「ITリテラシーが高い人材」とは!?
・【転職成功談】コロナ影響下でも転職に成功した秘密を教えます。
・2021年度 新規H-1B申請数が年間上限発給枠に達しました。
・米国および各国大使館でビザ発給業務が一時停止されています。
・アメリカでの就職・転職活動にキャリアカウンセリングがおすすめな理由。
・アメリカで就職!最新版OPTの方の求人の探し方、お仕事探しの流れを教えます!
・あなたのレジュメは大丈夫?絶対外せない重要ポイントから最近のトレンド、NGまで
・アメリカで採用面接を受けた後、サンキューレターは出すべきか?出さないべきか?
・感謝の気持ちをこめて!「クイックUSA創立20周年記念キャンペーン
・プロが伝授!失敗から学ぶアメリカでの採用面接での成功の秘訣
【日本人留学生支援団体のご紹介】
・日本人留学生支援団体のご紹介【第3回】アメリカ日本人学生会
・カリフォルニア工科大学日本人学生会(Caltech JSA)
【ビジネス】
【アメリカの生活を楽しむ】
・2020年最新!サウス・ストリート・シーポートとピア17の見どころ、遊び方
・ニューヨークの「ショーフィールズ」に未来のデパートの”カタチ”を見る!?
・ロックフェラーセンターのクリスマスツリー~サックスフィフスヴェニューのホリデーウィンドウ2019
・しっかり働いたら、週末にはおいしいものを食べに行こう!「IZAKAYA MEW Flushing」
・リラックスハーブで心と体を整える!おすすめハーブティー10選
・ニューヨークのメイシーズの「クリスマス・ウィンドウ・ディスプレイ」2019
・アトランタに行くなら必見!大人も子どもも楽しめる「コカ・コーラ博物館」
・ニューヨークのメトロポリタン美術館の「PLAY IT LOUD INSTRUMENTS OF ROCK & ROLL」
・ニューヨークのメトロポリタン美術館のファッション展覧会「CAMP : Notes on Fashion」
・ニューヨークに「MERCADO LITTLE SPAIN」誕生!
・ローワーイーストサイドの「エセックスマーケット」新たな場所で再オープン!
・ニューヨークで桜のお花見をするなら、セントラルパークがおすすめ!
・ロサンゼルスで”粉もん”が食べたくなったら「ちんちくりん」へ!
・ニューヨークのスターバックス リザーブ ロースタリ―でコーヒーカルチャーを楽しむ!
・ニューヨーク近代美術館(MoMA)のブルース・ナウマン特別展を見に行きました。
・ケネディスペースセンター・ビジターコンプレックスの見どころ、最新情報
【アメリカで働く人にインタビュー】
・アメリカで働く人にインタビュー【アクセスファイブ/代表 高橋伸さん】