労働省から出された緊急有給シックリーブ法の改定
今年の4月1日から連邦法として施行されています、Families First Coronavirus Response Act(FFCRA; 家族第一コロナウィルス対応法)には従業員数500名未満の企業を対象とした2つの緊急有給シックリーブ法が含まれています。
ひとつは、Emergency Paid Sick Leave(EPSL; 緊急有給シックリーブ)で、もうひとつはExpanded Family and Medical Leave(EFML; 拡大家族医療休暇)になります。
この2つの有給シックリーブ法は今年の12月エンドまで施行される時限立法で、本法が意図しているところはコロナ感染にかかわる際の自宅待機措置や学校などの閉鎖によって学童であるお子さんを自宅で面倒をみなければならない従業員のための有給シックリーブのベネフィット提供に充てられています。
この2つの有給シックリーブ法案の規定を策定したのは連邦の労働省(DOL: Department of Labor)でしたが、この8月初めにニューヨークの連邦地裁で労働省が出したいくつかの規定が法的効力を持たないという判決が裁判官から出されました。
この連邦地裁の判決が出されたことによって何らかの規定修正を迫られた労働省は、9月半ばになってその修正規定を発表するに至りました。その修正規定を見てみますと、以下の5つのポイントに集約することができるかと思いますので、皆様にご紹介させていただきたいと存じます。
1.本法の例外規定の中のひとつに 「医療従事者(Healthcare Providers)」 は適用されないとあったが、この医療従事者について具体的により狭義となる定義(実際に患者に対して直接的な措置やケアをとる職務にある人)を発表した。
2.従業員が本法で規定されている有給シックリーブを認めるのは、その従業員に実際に仕事がある場合(Work-Availability)だけに限られる。
3.本法に従って有給シックリーブを間断的(Intermittent)に取得する際には従業員は雇用主の承認を事前にとらなければならない。
4.従業員はシックリーブをとらなければならない理由を雇用主にわかり次第速やかに(As soon As Practicable)文書(Supporting Documentation)で知らせなければならない。
5.労働省は従業員が雇用主に家族医療休暇の通知を知らせなければならないときに関する不規則性を訂正する規定を修正した。
この5つにわたる修正規定の中で、2と3、そして4については多くの日系企業にも適用となることが考えられますので、もう少し詳しく解説してみたいと思います。
2. 仕事があるということの要求事項
今回、労働省は有給シックリーブをとる場合、その従業員には仕事があることが要求されることの再確認を行っています。つまり、雇用主がFurlough(一時帰休)を従業員に言い渡したような場合、Furlough となった従業員が本法による有給シックリーブを使うことは認められないということを労働省は正式に表明したわけです。
3.間断的にシックリーブをとる際の雇用主からの同意
本法では有給シックリーブを間断的に取ることは許可されているものの、従業員が間断的にシックリーブを取得するためには事前に雇用主からの同意を得ておかなければならないことを新たに記載しています。この記載は、主に既存の連邦法でありますFMLA(Family and Medical Leave Act; 家族医療休暇法)との間の整合性を取るためのものです。
間断的なシックリーブの取得はコロナ感染によって学校や保育園の閉鎖または自分以外に子供の世話をする人(Childcare Provider)が見つからないなどの理由で子供の面倒を見るために仕事ができないという理由で適用ができると今回の修正で表明されています。さらに職場通勤する従業員のキャパシティを抑制するための措置としても認められるだろうと記されているのですが、いずれにしても従業員は雇用主の同意をとって初めて間断的なシックリーブをとることが認められるものとしています。
4.従業員の文書提出時期
労働省オリジナルでの本法の規定では、有給シックリーブをとる従業員は雇用主に対して文書の提出を行うことが要求されています。そしてその文書には、1) 従業員の氏名 2) シックリーブが必要な日付け 3) シックリーブをとる理由 4) 従業員が働くことのできない理由 などが最低限でも含められていなければならないとあります。
これらの文書による要求自体には何ら変わりはないのですが、今回文書を提出するタイミングについて修正を出しています。オリジナルの規定では、「シックリーブをとる前」と記されていましたが、「分かり次第速やかに」という記載に変更されています。今後は雇用主は従業員に対して文書の提出には、ある程度の時間的猶予と機会とを与える必要があるということになります。
今後ニューヨークの連邦地裁で判決が出されたような2つの有給シックリーブ法に対する法的効力の無効判決がまたどこかの急進的な裁判所で出されないとの保証はありませんので、引き続き本法の動向についてはアンテナを張っておく必要がありそうです。
さらに本法はいまのところ今年いっぱいの特別時限措置法となってはいます。ですが12月31日までにコロナ感染が収束する兆しが見えないようでしたら、2021年も本法は延長されて、その施行は継続されることも今から十分視野に入れておく心構えを持たれることも方が賢明であるかもしれません。
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【執筆】
President & CEO
酒井謙吉
Ken Sakai
8532 SW St Helens Dr. Wilsonville, OR 97070
Email : kenfsakai@pacificdreams.org
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【酒井謙吉氏プロフィール】
信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。
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