職場再開における適正な準備と手順
アメリカでもいよいよ各州ごとによるいくつかの段階 (フェーズ) を経た経済再開のガイドラインが発表され、ビジネスがようやく動き出そうとしています。まずは会社として自分たちの拠点がある州政府 (さらには各郡または市) 発表のそれらガイドラインに従って、事業所を再開するX-Day を決定します。X-Day を決められれば、それに基づいた再開のための計画と準備に着手します。もちろん正確なX-Day を確定するには不確定要素が絡むものですので、プランAだけではなく、プランBもあわせてバックアップとして作っておくことをお薦めします。
準備として最初に行いたいのが、事業所再開にあたってのX-Day (再開日) を含めた従業員に通知するレターの作成になります。レターには、会社内でのクリーニングや除菌を含む衛生管理について、そして従業員への防衛として6フィートのソーシャルディスタンシングを保つこと、必要であればフェイスマスクやグローブなどのPPE (Personal Protective Equipment) 着用の義務、さらに従業員の健康スクリーニングの実施、社内ポリシーになっているシックリーブ、アテンダンス、そして訪問者や顧客への対応ポリシーなどの見直しやアップデートの通知など、いろいろとカバーしなければならないアイテムが目白押しだと申し上げられます。
この中で、特にセンシティブで従業員の医療情報に直接かかわるのが健康スクリーニングになります。具体的には、従業員への職場復帰前と復帰後の健康度アンケート調査 (質問票) への回答、毎朝出勤時におけるオフィスに入る前での従業員の体温測定、そして職場復帰前におけるウィルス感染テスト (PCR 検査) などです。これらの実施はいずれも連邦法であるADA (Americans with Disabilities Act; アメリカ人障害者法) による制約を受ける 医療検査 (Medical Examination) に該当します。つまり、通常の状況下では医療機関ではない会社がこのような医療行為に直接かかわるような行動をとることは、本来許容されていないのですが、パンデミックとなったコロナウィルスの場合は特別に許容されるという見解がEEOC (Equal Employment Opportunity Commission; 雇用機会均等委員会) から正式に出されています。
さらに、会社として実施する医療検査に関しては、その実施前に従業員あるいは新規採用者に対して、本人への通知レターと承諾書 (Acknowledgement) を取られておくことを強くお薦めします。採用者に対しては、オファーレターの中にその記述を書き入れておかれるとよいかと察します。これら検査を実施するのであれば、全採用者および全従業員がその対象となりますので、ポジションや部門などによって実施したりしなかったりということは許されません。もちろんPCR検査は会社ではできませんので、指定したラボなどに行ってもらうことになります。体温測定は、一定の体温 (37.5C or 99.5F) 以上あった場合、その日はオフィス内に入ることができず、自宅に直行してもらい安静と療養を促します。 体温測定値は従業員の医療情報 (Medical Information) に当たりますので、他の情報とは分けて機密情報として厳重に管理することがADAで求められています。
ポリシーの作成は、一度にすべてのポリシーを同時に作ることは時間的にも難しいことですので、優先順位をつけて、必要とされる順に一つ一つポリシーを作成していかれることが現実的です。その意味では、職場再開になった際に必ずしてもらわなければならないソーシャルデイスタンシングポリシーやマスクなどの着用義務に必要なPPEポリシーは優先順位が高いといえるでしょう。ポリシーの作成はCDC (Centers for Disease Control and Prevention; 全米疾病対策管理センター) から出されている種々のガイドラインに従う必要があります。また自社内ですべてのポリシーを作るのが現実的ではない場合、外部のリソースを使って一気に作り上げてしまうというのも手であるかと考えます。ガイドライン作成に費用は多少かかりますが、職場の衛生管理ならびに従業員の安全対策を会社が真剣に取り組み、社内体制上でも整えていくという姿勢を示すことで、従業員も会社に対する安心感ならびに信頼感が以前にも増して持ってもらえるのではないかと察します。
最後に自身の健康に不安を覚えるハイリスク従業員、たとえば、既往症の経験者の人、65歳以上の人、障害を持つ人、妊娠なされている女性などは、無理をして職場に戻ってくることに関しては抵抗感を持つ方がいるのは想像に難くありません。そのような従業員の方々とは、何が何でも職場に復帰させるということではなく、相互の対話方式プロセス (Interactive Process) を通じて、自宅勤務の継続などの適切な対応 (Reasonable Accommodations) を双方合意のもとにアレンジしてみていただくことを目指してください。とにかく、健康被害や障害物などがなく、従業員が安心して働くことのできる職場環境を提供することはアメリカにあるすべての雇用主の務めであることを連邦法であるOSHA (Occupational Safety and Health Act) で義務付けられています。コロナウィルス感染を契機に職場再開前にOSHAの原点に立ち戻って、職場の安全を再確認して、衛生管理を徹底するように努めてください。
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【執筆】
President & CEO
酒井謙吉
Ken Sakai
8532 SW St Helens Dr. Wilsonville, OR 97070
Email : kenfsakai@pacificdreams.org
Phone: 503-783-1390
【酒井謙吉氏プロフィール】
信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。
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