従業員の採用をリモートで行うときの注意点
皆さんのオフィスがいまだクローズ状態となっていて、基本的に従業員の方々すべては自宅でのリモートワークとなっている日系企業様はまだまだ多くあるのではないかとお察しいたします。そのような環境下にありましても、企業様によっては今後とも人材の採用を続けていくというところもあり、その場合での採用も好むと好まざるとにかかわらず、リモートでの採用方式を取ることにならざるをえない状況だと思われます。
有り難いことに今ではZoom などを使って遠隔地にいる人々といとも簡単に画面と音声とを通じて即座につながることができますので、採用面接ももはや対面式にこだわる必要はさらさらありません。ですが、対面で行われてきた面接とリモートによる面接とではどのような点に気をつける必要があるのか、やはりそこにはいくつかの違いがあるように思われます。
まず何といっても決定的に違うところは、リモートではテクノロジーによって面接が成り立っているということが挙げられます。Zoomなどウェブ会議方式のプラットフォームによるつながり自体がテクノロジーですが、さらにそのつながりを可能としているWiFiなどの通信回線環境、そして皆様がお使いのPCなどのハードなどもまさにテクノロジーだと申し上げられます。これらどれかひとつでもうまく機能しないことがあれば大事な面接が突然続行不能となってしまうことがありうります。そしてそのような事態は事前に予期することもできないのが普通です。
リモートで働くということは行き着くところ、まさにそのような不確定要素を抱えた環境下で働くということではないかと申し上げても過言ではないと思います。そういった何らかの予期せぬトラブルが発生した際に、パニックにならずに冷静になって問題の所在を突き止め、代案となる措置がすぐに取れ、面接に無事戻れるかどうかは、やはりその人の資質や器量をはかる上で大いに参考となる部分ではないかと申せます。これは本来の面接で尋ねる質問自体とは直接関係のない副次的な産物だといえますが、むしろリモートで働いてもらう際の本質をよりよく付く現実に根ざした勘所に直結するものと申し上げてもよいでしょう。
そして予期せぬトラブルがリモート上で発生してもそれを解決できるだけのテクノロジー、ここでは主にIT関係になりますが、そういったITのリテラシーを備えもった人物であるかどうかを確かめることもできるわけです。ITリテラシーを備えるにはそれなりの失敗も含めた豊富な経験があってこそ初めて培われるものだといえるので、履歴書だけではわからない、確かな証左をそこで見つけることができます。さらにトラブルが起こったという困難な状況下であっても動揺せずに問題点に的を絞って冷静に解決をはかれる人物であるかどうかも見極めることができます。
以上、リモートの面接でテクノロジー上での問題があったときのお話をさせていただきましたが、必ずしもそのような問題がいつも起こるというわけでは決してありませんので、そのような状況を設定した質問などを事前に作っておいて面接時に投げかけてみられるのがよいのではないでしょうか。それ以外としては、いまさら言うまでもないことですが、対面であってもリモートであっても面接で尋ねる質問内容に差別的な要素が入っていないかどうかに対して十分に注意を喚起することが必要となります。
特に日系企業様で気をつけたいところは、性別、年齢、国籍、人種、言語(母国語)、出身国、結婚、家族、障害、健康などについてです。恐らくこれらに関する質問は日本にいて日本の会社で採用面接をする際に普通にお尋ねになっている内容ではないかと察せられるからです。一例ですが、IT関連のポジションで新規採用をかける際、できるだけ若い人を採用したいという意識(あるいは無意識でも)が働いて、募集段階でIT業務経験最低2年以上との条件を記載した場合、仮に経験が20年以上ある人が応募してきた場合であっても、その人をはなから ”Over-Qualified” だとして不採用とすると、あとから年齢差別があったとしてクレームされる可能性があります。
最後にリモートでの面接を録画したり録音したりしてもよいかということが最近ご質問として尋ねられることがあります。社内で他の管理職の人にも面接の内容をシェアしたいということで、録画を行うことはできるのですが、その許可を応募者の人にも事前に得ておくことが望まれるところです。また応募者が面接を録音することは禁止することは会社側の守秘義務上の理由から正当化できますので、そのことについては最初に応募者に書いてもらうJob Application Form の中にその録音禁止事項を記載しておいて、本人から承諾した旨のサインと日付とをとっておいてください。また実際に面接を始める前にも面接でのリマインダーとして録音は禁止されていることをお伝えになってください。
コロナ禍によってもたらされた雇用における新常態のひとつに間違いなくリモートワークがあり、これはトレンドとして今後ともますます浸透していくことが予想されますので、皆様の会社でも今からリモートでの面接に対する様々な備えや情報の収集を怠らぬようにしていただけましたら幸甚です。
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【執筆】
Pacific Dreams, Inc.
President & CEO
酒井謙吉
Ken Sakai
8532 SW St Helens Dr. Wilsonville, OR 97070
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【酒井謙吉氏プロフィール】
信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。
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